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最初で最後かもしれない超歌舞伎を観に行った

人生初の歌舞伎鑑賞。
しかしその光景は歌舞伎の舞台とは思えない"混沌"だった。


東京・歌舞伎座で12月3日〜26日まで行われた「十二月大歌舞伎」。この第一部にて、中村獅童とバーチャル・シンガー初音ミクが共演する超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜 (はなくらべせんぼんざくら)』が上演された。

超歌舞伎は2016年にネット文化の祭典『ニコニコ超会議』の企画として始まり、2019年には超会議から独立しての全国4都市公演を開催。そして8年目の今年ついに、初年度の代表作「今昔饗宴千本桜」を引っ提げて歌舞伎の殿堂・歌舞伎座へと進出した。

そして今回の歌舞伎座公演に先立って行われた記者会見で獅童さんはこう答えた。

今回が見納めと思ってもらって構いません

私は3~4年前からニコニコ超会議公演の無料生配信を観るのが毎年の恒例となっていたが、この言葉を聞いて、一度はお金を払って生で観ておきたいと思い急遽東京へ旅立つことを決意。

もしかしたら本当に最後になるかもしれない千秋楽26日の公演が、私にとって初めての超歌舞伎、ひいては初めての歌舞伎鑑賞となった。


午前10時半、開演30分前に歌舞伎座へ到着。
入口前に集まる人々はまさに老若男女。普段からよく歌舞伎を見に来られてそうなご年配の方から、フルグラ法被を身にまとった歴戦の超歌舞伎ファン、関係者らしきスーツ姿の男性陣などが一堂に会する何とも不思議な光景である。

チケットを買う時に選んだ座席は2等席の1階2列目。舞台のほぼ正面で、ちょうど視界いっぱいに舞台全体と花道が見渡せるすごくいい席だった。

一、旅噂岡崎猫(たびのうわさおかざきのねこ)

由井民部之助とお袖夫婦は幼い子を連れて、東海道の岡崎宿の外れまでやって来ます。そこで無量寺に一夜の宿を求めますが、寺を預かるおさんという老婆は病死したはずのお袖の母と瓜二つ。甦ったのだというその老婆は初孫を見て喜びますが、その正体は恐ろしい猫の怪で…。

十二月大歌舞伎|歌舞伎座公式サイト「歌舞伎美人」より

第一部も前半は"普通の"歌舞伎で、幕間を挟んで後半が超歌舞伎となる。

歌舞伎というのはどうしても敷居が高いイメージを持っていたが、その先入観はいい意味で裏切られた。娯楽としてめちゃくちゃ面白い!

序盤から「コンビニの弁当すら買えやしない」という台詞が飛び出し爆笑。その後も無量寺への近道という設定で客席の通路を練り歩きながら、中村橋之助さん(由井民部之助役)の誕生日を祝ったり、次の超歌舞伎で使うペンライトを「光る筆」と称して宣伝したり、お客さんをイジったり。客席からは度々笑いと拍手が巻き起こっていた。

しかしおさんが化け猫の本性を現しだすにつれて不気味な空気が漂う。登場人物ほとんどが殺されてしまうし、最後は結末がはっきり分からないまま幕を閉じる…完全にホラーです。

前半ゲラゲラ、後半ゾクゾクという緩急のついた、超歌舞伎目当てで来たド素人の私でも楽しめる演目だった。


※開ける前に少し崩れちゃったので中身は撮ってない

幕間では事前予約しておいた超歌舞伎弁当を頂きました。ミクさん=ネギのイメージだけでねぎ料理が3種類も入ってる遊び心にネット文化発祥らしさを感じる笑


開演が近づくと、超歌舞伎の歴史を振り返るVTRが流れ始める。すると客席でも一気にペンライトの光が灯り、前半とはまるで別世界の景色へと変わっていった。

二、今昔饗宴千本桜 (はなくらべせんぼんざくら)

神木である千本桜の咲き誇る神代の時代、この世を闇に落とさんと企む青龍の精の襲撃を受け、桜はその花を散らし、世界は闇に包まれ、神木を守護なす白狐や美玖姫はその難を数多の犠牲を伴って逃げ延びます――。時は移り。枯れ果てた千本桜の周りで寂しく舞う蝶々は、記憶を失い逃げ延びた美玖姫の仮の姿。そこへ、白狐が転生した姿である佐藤忠信が現れます。神代の時代の記憶を残す忠信は、美玖姫に駆け寄りますが…。

十二月大歌舞伎|歌舞伎座公式サイト「歌舞伎美人」より

前口上で獅童さんが姿を現すとさっそくあちこちから「萬屋!」と大向こうが響く。まずは獅童さん自ら初心者向けに超歌舞伎の楽しみ方をレクチャーし、電話屋ことNTTの最新技術によって生まれた「獅童ツイン」の流暢な英語での挨拶を経て、いよいよ初音ミクさんがご登場…

ここで私の席がいかに良席だったかを実感する。どれだけ電話屋の映像技術が向上しても、ミクさんはスクリーンの中から出てきてくれない。舞台から近すぎたり、左右や2階・3階の席からだと平面の絵にしか見えず、それで萎えてしまう人も居るだろう。しかし私の席は近すぎず遠すぎずの距離感で、ミクの姿が2次元と3次元のちょうど中間ぐらいに感じ取れるベストポジションだった。

そして肝心の本編だが、超歌舞伎最初の演目だけあってストーリーはかなりあっさりしている、初音ミクが出演する意味合いが感じにくいといった部分から、何とも評価しにくいというのが率直な感想。それとミクさんの3DCGの動きが若干カクカクしてるように見えたのも気になった。

でも結局観てて楽しいのは間違いない。超歌舞伎が目指しているのは「最高のヒーローショー」だというが、ここぞの場面で一斉に大向こうを叫び、観客も演者と一体になって舞台を作り上げていくあの空気感はまさにヒーローショーだった。


物語のクライマックス、千本桜に再び花を咲かせるため、忠信が「数多の人の言の葉」と「桜の色の灯火」を観客に求める最後のセリフ。8年間続いてきた超歌舞伎に一旦ピリオドがつくこの場面で、獅童さんは感極まり言葉を詰まらせる。

「萬屋~~っ!!!!」
「獅童さ~ん!」
「がんばれーーー!!」

ミクファンも歌舞伎ファンも関係ない、若者からおじいさんおばあさんまで、会場中から凄まじい拍手と声援が響き渡る。歌舞伎の舞台とは思えない、あまりにも異様な"混沌"の光景。でもこれが超歌舞伎。

今年4月の超会議2023千秋楽で、獅童さんが歌舞伎座公演の決定を発表した時の言葉を思い出した。

歌舞伎座だからって遠慮しないで。
歌舞伎座を超歌舞伎色に染めてくれ!

初めて生で超歌舞伎を観た自分でも心打たれたのだから、長年応援している人たちは号泣ものだっただろう。


最後の挨拶で獅童さんは、これで8年間に渡る超歌舞伎の"第一部"は終了だけど、次は2025年以降に"第二部"を始動したい、そしてある男と約束した台湾公演を実現したいと明かした。

「百年続けば古典になる」

獅童さんはいままで何度もこの言葉を口にしてきた。そんな理想が少しでも現実に近づけるように、これからもこの新たな文化を応援していきたいと強く思った。再始動を心から楽しみにしています。


P.S.

渋谷駅に掲載されているイラストレーターRellaさんの広告

今年は初音ミクが設定年齢の16歳に追いついた記念の年。

16年でも十分長い年月に感じるが、もしかしたら百年後も初音ミクは初音ミクとして歌舞伎の舞台に立ってるかもしれないし、音楽とは違った形で初めての音を届けてるかもしれない。超エモ…

初音ミクという概念が持つ不思議な魅力にあらためて打ちのめされた年末でした。


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