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#69 ふと高校生の頃を思い出して胸がキューッとなるハナシ

 私は高校時代が好きだった。心を許せる楽しい友人達と毎日バカをして、バカみたいに笑って、バカみたいに怒られて、バカみたいに帰宅する。アニメのようなアオハルは過ごせなかったが、等身大の幸せがあったと思う。

 そんな我が青春には、ふとした時に思い出しては胸がちくりと痛んだり、キューッとなったり、お布団の中で声が枯れるまで叫びたくなるような思い出もある。


 例えば部活動。野球部に所属していた私は、部活の時間中ずっと声を出していた。部員の皆も叫んでいた。高校野球の世界では、守備についていてもベンチにいても絶えず声を出し続けるという風習がある。声を絶やさないことで緊張感のある雰囲気を作りながら、自身と周りを鼓舞させて成長を促すのだ。
 ウォーミングアップ中も、試合中も。例外はない。当時はそれが当たり前の光景だったし、声を出さないと監督に怒られるという恐怖もあって何の疑問も抱かずに叫んでいた。「ヴォイヴォーイ!!」と。

 しかし、改めて思い返した途端恥ずかしさが込み上げてくる。なに?「ヴォーイ!」って。「さあこーい!」を言い過ぎてゲシュタルト崩壊でも起こしていたのだろうか。
 そもそも試合で守備についてて、心からさあ!来い!打球俺の所に来い!とか思った事なんてない。だって来てほしくないもん、エラーしたら怒られるから。そんなに自信ないし。本気でそう思えるような奴だったらもっと上手くなって強豪校に進んでただろうし。
 自信満々に「ヴォイヴォイ」言ってたけど、とんだ大嘘つきじゃあないか。恥ずかしい。清く正しく美しくあれと教育されている高校野球の世界で、声高らかに嘘をつけるとか厚顔無恥にもほどがある。思い出すだけで鳥肌が立つ。


 球技大会では、また違った恥辱を受けた。
 私たちの高校では、球技大会という体育祭とはまた違ったスポーツの行事がある。クラス対抗でバレーボール、バドミントン、卓球を競い合う大会だ。
 その中でも、運動神経が良かったりクラスの中心的存在の生徒が出場する競技がバレーボールだ。三年次、タッパがあるのと一軍と仲が良いという理由で出場した三軍のヘッドの私は「まあどうせすぐ負けちゃうだろうけど、最後だし悔いのないよう頑張ろう!」と思いながらコートへと向かった。
 そしてなんやかんやあってなぜか決勝に駒を進めた我がクラス。

 バレーボール競技の決勝では、出場メンバーが実況と共にコートインするというちょっとカッコイイ演出がある。
 そのメンバー紹介の実況では、名前がコールされる前に「愛してるぜ、〇〇!」という文言が入るのが慣例となっている。この〇〇の部分には、その人の恋人の名前が入っており、コートを囲う観衆から「キャーー!!」とか「フゥーー!」とか熱い声援が送られる。いつから始まったのかは不明だが、なんとも青春っぽい演出だ。

 右足を出して左足を出すと歩ける、温かいご飯は美味しいと同じくらい当たり前に恋人のいない私は、〇〇の部分に親しい友人の名前を入れてもらった。
 これにより、「コイツ彼女いないwww童貞乙www」と見せしめにされると共に、花形競技の決勝戦で見事にスベるという、私史上でもトップ5に入る黒歴史を刻むことになった。

 そんでもって決勝は負けた。圧倒的に負けた。下馬評でもわかってた。もし事前に賭けが行われていたら、順当すぎて賭けにならないくらいの負けだった。
 私は、負けるにしたってみんなと同じ条件で負けて、同じように悔しがりたかった。それなのに、なぜか私だけ負けた+非リアだと晒されたという二重苦に陥れられてしまった。
 可哀想だよあの日の私。あんまりだよ伝統。


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