AIR 実況プレイ7

7/26

 ベッドに投げ出された観鈴の足が、今日一日畳に降ろされることはなかった。痺れがあって、それは夢と関係しているらしい。夢のなかで、観鈴は空の只中にいて、足元の雲が速く過ぎ去って、徐々に時空を遡っているらしい。観鈴は言いようのない不安を覚えるのか、眠りたくないと言って、パジャマの膝の上でトランプをきっている。

 居間にいくと、晴子は二日酔いだった。台所に苦しそうに身を折って、コップに水を注いだ。観鈴の容体を話しても、俺に押し付けるように、任せると言って、苦しそうに水を飲み干すと、自分の部屋に戻ってしまった。

 その日俺はずっと観鈴の部屋にいた。いつのまにか心配になっていた。観鈴は海に行きたいと言った。しかし連れて行くには、観鈴の容体は心許なかった。
 いつのまにか日が暮れた。俺は夜の堤防に一人で歩いた。妙に蒸し暑い夜だが、心は不安で凪いでいた。堤防に寝転がって、星を見つめた。黒く透明な雲が速く流れている。
 ふと、母親の言葉を思い出した。俺が幼い頃の言葉だったが、妙に鮮明だった。夢を見る少女と、彼女に対する後悔だった。そしてその後悔を、幼い俺に託したのだ。その丁寧で真剣な口調を、今まで忘れていたのが不思議なくらいで、母親の言葉は驚くほど今の観鈴の状況と一致していた。


7/27

 納屋で目を覚ました。いつも通りの熱暑と、蝉の声がする。玄関で音がして、身を起すと、晴子がバイクに跨っている。しばらく家を留守にするそうだ。温泉街へ向かうらしい。急な休暇にして、観鈴から無理に距離を取ろうとしているようにしか俺には見えなかったが、晴子はいたって軽い口調で任せると言ったきり走りだしてしまった。

 昼から、俺は観鈴を海に連れ出した。しかし、堤防に行き着く前のところで、観鈴は発作のような癇癪を起こして、そこから一歩も動けなくなってしまった。俺たちは頼りなく肩を組んで、蝉の鳴きしきる炎天下を引き返した。その間、観鈴は笑っているのか、謝っているのかよくわからない顔で、足元の砂利を踏んで歩いた。

 日暮れはすぐに来た。観鈴はベッドの上で、膝を広げて、俺の方を見つめている。青い色の瞳だった。自分の容体を俺に打ち明けるように、夢の話をした。夢は遡って、見知らぬ声に脅かされるそうだ。それがじきに体の痛みに変わる。俺はどうしても観鈴に打ち明けることができなかった。昔のはずの母親の言葉と、今ここにいる観鈴と重ねてしまうことが、どうしても怖かった。どうしたら観鈴の夢を止められるのだろうか。観鈴の瞳を見つめながら、そればかり考えていた。

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