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クラフトビールを飲みに行こう ④ #Brewpub Ergo bibamus

横浜馬車道の素敵なブリューパブ、Ergo bibamus に行きました、という話。

先日4月23日は「地ビールの日」だった。約500年前、神聖ローマ帝国バイエルン公・ヴィルヘルム4世によるビール純粋令が施行された日に由来する...が、日本で「地ビールの日」が設定されたのは1999年、日本地ビール協会による。同協会は現在のクラフトビア・アソシエーション(JBCA)であるから、今では4月23日を「クラフトビールの日」と呼んでもいいだろう。事実、JBCAのホームページでは()付で名称を併記している。

愛飲家諸賢には広く知られている通り、ビール純粋令はビール原料を麦芽、ホップ、水に限定した法令だ(酵母は後に追加)。現代クラフトビールはと言えば、おそらく当時の規制対象だったハーブや果実どころか、乳糖、カカオ、鰹出汁、酒粕まで何でもござれの有様。バイエルン公は草葉の陰で泣いているだろうか?呆れて笑っているだろうか?それとも、多くの人が美味しいビールを楽しめる現代を寿いでいるだろうか?...尤も、宗教改革時代のカトリック君主に「草葉の陰」があればだが。

記念日は同一でも、地ビールとクラフトビールは別の言葉だ。というより、本邦では今日のクラフトビール隆盛に至る流れの中で、旧来からローカルなオリジナルビールを指して使われていた「地ビール」を「お土産ビール」的なニュアンスから脱皮させるために、あえて品質本位、職人仕事を感じさせる外来語「クラフトビール」が選び取られてきたものと理解している(たぶん私見が入っている)。

クラフトビールの定義といえば、先日某大手ビール会社が「これぞ、クラフトビール」と称した新銘柄を巡って、SNS上で一寸した議論が巻き起こされた。この記事でその問題点を掘り下げることは避ける。あくまで飲み手側の立場から言うと、同社による「クラフトビール」を標榜した一連のPRのあり方と、多くの愛好家のそれまでの「クラフトビール」体験に大きな隔たりがあったことが、反響の根底にあったと思う。繰り返すが、この記事でその問題点を掘り下げることは避ける。避けるんだってば。

ともあれ、飲み手にとっての「これぞ」は、その人がどれほど、どのようにクラフトビールに関する体験を経てきたかに依る。このことは間違いなさそうだ。一言に体験と言っても色々ある。醸造所を訪ねて、直接ブルワーの話を聞いたり製造設備を見学するも良し。自宅にお気に入りブルワリーの12本パックを取り寄せるも良し。楽しみ方は自由だ。

自分としては、クラフトビールファンならば一度は横浜のベイエリアを訪ねることを推奨したい。野毛や元町・石川町、その他の地域にも素晴らしい醸造所や飲み場が営まれているが、特筆すべきはみなとみらい線・馬車道駅の一帯だ。横浜ビール(YOKOHAMA BEER STAND 、厩の食卓)、Revo Brewing(同)、NUMBER NINE BREWERY(QUAYS pacific grill)、そしてビール工房 Spica(Brewpub Ergo bibamus)...これらは全て、同駅から徒歩10分圏内に存在するブルワリーであり、()内は出来立てのビールが楽しめる併設の飲食店。地ビール時代からクラフト界を牽引してきた存在、西海岸風のお洒落施設、そして手仕事を感じるマイクロブルワリーと、バリエーションにも富んでいる。

クラフトビールファンにとって同エリアは一種のパラダイスであり、遊園地であり...ストロングスタイルな飲み手にとっては一種の修行場かもしれない。クラフトビール体験を積み上げるという点では、ドラゴンボールで例えると「精神と時の部屋」的なエリアだ。尤も飲み過ぎた場合には、時間は凝集されるどころかアッと言う間に飛び去るし、財布の中身と記憶についても同様だ。

(というのは冗談で、街並みも各施設も上質な場所なので、節度をもって飲みましょう)

さて、Ergo bibamusについて。同店のオープンは '18年、ブルワリーである ビール工房Spica の提供開始は '19年から行われている。ブログによるとブルワーはベアレンで修行を積み、その後はベイブルーイングでも学ばれた方。後述するが、御経験もあってかドイツを中心としたヨーロピアンなスタイルに出色を感じた。食べログ等掲載もあるが、同店の品質へのこだわり等、是非サイトをご覧あれ。

立地は北仲通沿い、馬車道と日本大通の中間点...といっても馴染みのない方にはイメージしづらいかもしれないが、時間があればGoogleストリートビューで付近を確認してみてほしい。みなとみらいからも程近い注目の再開発エリア北仲、都会的で海風も感じられる、かなりナイスな立地のブリューパブだとお分かりいただけるだろう。

現地に伺うと、通りに面した窓越しに、立派な醸造タンクが並んでいるのを見ることができる。店内はレンガ調と木材によるシックな雰囲気の内装だ。伺うのは初めてだったが、和やかで落ち着いた雰囲気に安心感を覚える。この日はランチタイムからのオープンだった様子で、昼下がりの微妙な時間だったが店内には常連さんらしき方々が複数組。黒板には「馬刺のカルパッチョ」など、興味を引くオリジナルフードメニューが手書きで記されていた(前も言ったがクラフト屋の手書き黒板はテンションがあがるアイテムだ)。一つ一つ解説を聞いて吟味したい気もするが、先ずはビールだ。

エクスポートver.2 / ビール工房 Spica

甘味があり、まったり楽しめるラガー。ホップのレベルは落ち着いているがハーバル、フラワー系のキャラクターを感じる。深めの外観だが甘味の方向性は穀物の優しいそれで、色味ほどカラメル的糖分感は感じない。まったり楽しめるがモッタリはしておらず、春の気候にうってつけに思える。

エクスポートは大体 Alc. 5% ~ 6% くらいで提供されるスタイルで、こちらのビールも5.5%. ジャーマンな淡色ラガーとしては比較的度数の高い部類だが、上述のキャラクターもあって穏やかな味わいが印象的だ。写真は今回300mlで注文したものだが、500mlでの注文も可能。パブビール的に心行くまで楽しむのも吉だと思う。クラフトの店に来ると折角なので様々な銘柄を味わおうと必死になってしまうが、そういう日があってもいいだろう。馬刺のカルパッチョに合うんだわコレが(結局頼んだ)。

ロッゲン ver.2 / ビール工房Spica

こちらで頂くまで、寡聞にしてロッゲンというスタイル名を知らなかった...このスタイルは、実は冒頭で取り上げたビール純粋令と関わりを持つ。ロッゲンはドイツ語で「ライ麦」の意味。つまりこれは、ライ麦を使用し、ヴァイツェン酵母で醸造した伝統的スタイルのビールだ。純粋令以前、ライ麦は広範に使われた原料だったらしい。日本では他にベアレン醸造所が作っている。時代は巡るというか、昨今の IPAやファームハウスエール流行によりライ麦利用が復権しつつあるのは面白い。

風味、テイストともに良質なヴァイツェンに近しいものを感じる。ただ、比較的ライ麦の方がドライで「丸くない」出来になっているように思った。メニュー書きの説明には「スパイシー」の記述があり、確かにスッとして意外とキレる感じ。ヴァイツェンほど腹いっぱいになる感覚はないかも。今までライIPAやライ麦含有のビールを飲んだ経験はあったが、ロッゲンと出会ったことで、これがライ麦の個性か、というのが朧気ながら実感できた気がする。クラフトビール体験。美味しい。

上記解説ページにもあるが、ライ麦を使った醸造後は糖化タンクにドロドロの残留物が付着するらしい。聞いた時にはそういうものかと思ったが、今朝たまたま朝食に使ったホットケーキミックスの後片付けをしていて、器材にコビりついた付着物除去の大変さを思い知らされた。この何十倍、何百倍もの量をタンクから取り除くなら「ブルワーズナイトメア」(ベアードのライ麦IPA)の呼称も大袈裟でないのかも。ブルワーに敬意を。

写真はドイツ屋台の味を再現した揚げパンのピザ。素朴ながら素材感あり、輪郭のある美味しさ。これとビールでいくらでもイケるなぁ...。

ということでErgo bibamus、マイクロ規模の醸造でここまでのクオリティが!という驚きを伴った一時になった。ビールもフードも、再訪してもっと試してみたい。アクセス圏内でよかった。クラフトビアシティ横浜・馬車道一帯、やはりタダゴトではないエリアである。

あんまり関係ない話。

というか、今回は関係あるんですが、件の緊急事態宣言やそれに準ずる措置に関して......自分みたいな単なる飲むだけの消費者の立場で大上段に理想論をブチ上げるのも違うし、苦境にある提供側の方々の立場を代弁するも烏滸がましい。とにかく今は、元気に健康に現況を乗り越えて、またお世話になっている・これからお世話になる皆さんにお会いできるの日を待ち望むばかりです

以上

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