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クラフトビールを飲みに行こう ⑥ #独歩館(岡山)

岡山県岡山市の酒造会社・宮下酒造が運営する「独歩館」に行き、同社のビールブランド「独歩」を味わってきました…という、話。

大森靖子さんという歌手がいて、自分は一時期、時々ライブに行っていた。好きな楽曲は幾つかあるが、特にアルバム『kitixxxgaia』に収録されている『JI・MO・TOの顔かわいいトモダチ』は、首都圏で働く地方出身者には是非聴いてほしいと思う。

おそらく10代の終わりに上京して「東京で好きなカルチャーで踏み絵してだいたい同じ青春の友達」をつくった「」が「話通じない」「バカに慣れる」地元を振り返りながら、それでも「同じ歪みを隠して笑っとった」友達を大切に想う歌詞。

十代の頃、ジモトをじれったく早く抜け出したく思っていて、そしてイザ抜け出してから酸甘半ばする愛着を抱くようになった……そういう経験をお持ちの方は、少なくないと思う。実際の地方が文化的に豊かとかどうとかいう話とは別に、地方出身者にはきっとわかる、少なくとも '10年前後に上京した人が歌詞のような気持ちをわからないとしたら嘘じゃないか、とすら思う。私にとっては長渕の『とんぼ』と並ぶべき曲です。

とはいえ、現実の私は地元にワケアリで顔かわいい友達を持っているわけでないし、繰り返すが、私の地元にサブカルもアンダーグラウンドも「無い」というのは言い過ぎなんだけれども、いずれにしろ、そういう前提とは別に、ジモトがあるということ。

さて、多感な10代を刺激してやまない(サブ)カルチャーには乏しいと言わざるをえない地域でも、豊かな酒文化に恵まれていたりする……というのは、本邦の有難いところだ。

私の出身県である岡山県には「独歩」という名前のビールブランドがある。醸造は清酒メーカーの宮下酒造。95年の地ビール解禁後では中国地方初、全国で9番目に始まったブルワリーで、県内の「地ビール」といえば間違いなく筆頭にくる銘柄。大きめのイオンやデパ地下でも買えます。

宮下酒造ホームページによると「独歩」の名前は公募により決められたそう。大手ビールメーカからの「独立独歩」と、ドイツ人醸造家の指導によるジャーマンスタイルとのダブルミーニングになっていて気が利いているし、思えば、JBA(全国地ビール醸造家協議会)によるクラフトブルワリーの定義(2018)に二つまで合致する名前でもある。これぞ。

1.酒税法改正(1994年4月)以前から造られている大資本の大量生産のビールからは独立したビール造りを行っている。
2.1回の仕込単位(麦汁の製造量)が20キロリットル以下の小規模な仕込みで行い、ブルワー(醸造者)が目の届く製造を行っている。
3.伝統的な製法で製造しているか、あるいは地域の特産品などを原料とした個性あふれるビールを製造している。そして地域に根付いている。

http://www.beer.gr.jp/local_beer/

宮下酒造は’17年、「酒工房 独歩館」という、レストランと見学受け入れを趣旨とした観光施設をオープンした。清酒・ビールからさらに総合酒類メーカーへの展開を目指す同社。今回はビール工場と、近年新たに導入されたウィスキー蒸留設備(ポット・スチル)を見学させていただいた。

独歩館 外観。大都会でお馴染み、岡山駅から一駅。
330ml 瓶にして 5,000本 / 半日 の仕込みが可能とされる設備
ポット・スチル 窓の数だけ蒸留を繰り返すとか

蒸留前、発酵までの工程はビール用の設備および原料を兼用しているらしい。その点からは、少なくとも今の時点では、設備の有効活用など製造プロセスを起点に多角化を進めている印象を受けた。同社のウィスキー「岡山」トリプルカスクは World Whiskies Awards の第一ラウンドでカテゴリーウィナーに輝くなど、評価を受けつつある。ビール党としては、今後、ウィスキー樽を活かしたバレルエイジドビールや、逆にビールカスクでのフィニッシングを施した蒸留酒など、多角化からのクロスオーバー的展開を期待したい。

さて、宮下酒造の提供する酒類は、併設の直営レストラン「酒星之燿」で食事とともに楽しむことができる。今回は美味しい岡山の料理と共に、飲み比べセットで3種、そしてレギュラーサイズで1種を飲むことができた。

250ml × 3種類は嬉しいサイズ

無濾過ピルスナー

「独歩」で恐らく最も流通している、ケラータイプのビール。直営レストランで飲む一杯は、より濁りが濃い気がした。

爽やか系のピルスナーとは一線を画した豊かな香りのビールで、強い穀物香はシリアルを想起する。酵母由来の硫黄、若草のようなホップのアロマも確か。味わいも穀物主体でパンっぽいイースティさ、味わいのだいぶ後段で抑制の効いた苦味がジンワリと広がる。

Abv. 5.0%

アロマ :★★★☆
フレーバー :★★★★☆
→ 穀物(シリアル)、食パン、硫黄

テイスト
→ 苦味 :★★☆☆☆
→ 甘味 :★★★☆☆
→ 他 :-
炭酸 :★★★☆☆
ボディ :★★★☆☆

スパークリングビール

現代における多くのビールはスパークリングだろう……というのは置いておいて、シャンパン酵母を使った軽やかでフルーティ、ドライなビール。

恐らく過去に飲んだことのない銘柄だったが、一口で、これは如何にも現代ウケしそうな今様スタイルのビールだと思った。エステル由来の果物感もさることながら、ホップも南国系のエッセンスを出しているようで、是非構成を知りたい。

Abv. 5.0%

アロマ :★★★★☆
フレーバー :★★★★☆
→ 白ブドウ、青リンゴ、マンゴー

テイスト
→ 苦味 :★★☆☆☆
→ 甘味 :★☆☆☆☆
→ 他 :-
炭酸 :★★★☆☆
ボディ :★★☆☆☆

デュンケル

ジャーマンスタイルを身上とする同社だけあって、とてもバランスよく美味しい一杯。

口に近づけると香るのはカラメル、飲むとナッツとカカオの香ばしさ。しかしロースティには至らず、あくまでホロ苦を伴わないそれ。口あたりはウォータリング感があるというか、潤いをしっかり感じられる。後味はクリア。しっかりした風味とスッキリしたフィニッシュを楽しめるデュンケルだと思います。アサヒ黒生が好きな人には是非飲んでほしい

Abv. 5.0%

アロマ :★★★☆☆
フレーバー :★★★★☆
→ ナッツ、カカオ、カラメル、ビスケット

テイスト
→ 苦味 :★☆☆☆☆
→ 甘味 :★★★☆☆
→ 他 :-
炭酸 :★★☆☆☆
ボディ :★★★☆☆


金の縁取りがよき

インペリアルエール

ホッピー・ストロング・アンバー、或いは、レッド DIPA とでも言うべき一杯。このブルワリーは、ジャーマンスタイル以外にはオリジナルな名称をつけがちだと思う。

ホップの柑橘、グラッシーと苦味が印象的だが、外観からの期待通りモルティな香ばしさと甘味も楽しめる。ボディは弱いわけでないがバランスがよいせいか 7.5% という度数に比してスルスル飲めてしまう。だが、デザートとマッタリ楽しむのが好ましい。いずれにしろ独歩のラインナップでは最も線が太く、パワフルな印象を与えるビールだと思います。

Abv. 7.5 %

アロマ :★★★★☆
フレーバー :★★★★★
→ グレープフルーツ、オレンジ、松脂、カラメル

テイスト
→ 苦味 :★★★★☆
→ 甘味 :★★★★☆
→ 他 :-
炭酸 :★★★☆☆
ボディ :★★★★☆

ジャーマンスタイルのブルワリーなので、折角だからシュバルツも飲みたかった(マーク・メリさんの『日本のクラフトビールのすべて』でも好評価)しウィスキーや日本酒も試したかったが、飲酒キャパシティを考え、この日はここまで。岡山県南は蓋をされていない側溝の名所なので、泥酔してハマったら困ることを心配した……というわけではない。これだけ種類豊かだと、友達ときて色々飲んでみるのがいいかも。

岡山のローカル・ビールで言うと、ブルワリー開業を目指す人材を全国各所から受け入れている吉備土手下麦酒、自然酵母ビールとして人気と注目を集める Koti brewery の名前が浮かびます。県内では横綱的存在である宮下酒造「独歩」が更に盛り上がっていくことで、県内シーンも加速していくと思う

美味しくダラダラとビールを楽しめる世界の存続を願って。

以上

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