新5話 母なるぬくもり

S国 某喫茶店にて

その喫茶店はパブのような空気を漂わせつつも、カフェのような上品さを持った店だった。
そこに座る二人の男。
ゴウ・ミツオとオイカワ・マサキである。

「なぁ、オイカワ。俺っていつまで生きると思う?」
コーヒーカップをスプーンでかき混ぜながら、ミツオの質問にオイカワは答えた。

「そんなことは分からないよ」

そう言って、ポーカーフェイスのままコーヒーをゴクリ。
すると、オイカワは顔を真っ青に染めて、突如苦しみ始めた。

「ぐぅうう……お前、何を入れたぁ!!」

ミツオは冷徹な表情でこう答えた。

「オイカワ、君はもう終わりだ。」

「お前が……なんでこんなことに……」

ミツオはポケットから小さな容器を取り出し、その中の液体をオイカワのグラスに注いだ。

「これが君の最後の晩餐だ。」

「何を……何をくれたんだ……」

「毒だ。君の裏切り行為に終止符を打つためだ。」

オイカワの表情が驚きと怯えで歪む。ミツオは冷酷なまなざしを浴びせる中、彼の身体が次第に衰弱していくのを見守った。

「なぜだ……なぜお前が……」

「お前はスパイだ。国の裏切り者め。」

オイカワの息が荒くなり、苦しそうに声を漏らす。ミツオは容赦なくその様子を見つめた。

「最後に言いたいことがあるなら、今だ。」

ミツオはオイカワの額に拳銃を突き付けた。

オイカワは苦しい笑みを浮かべながら答えた。

「お前も……お前も……いつかは裏切り者に……」

その言葉を最後に、オイカワの瞳に生気が消え失せた。

「最後にくれた言葉、感謝する。」

そして、ミツオは冷徹なまなざしで引き金を引いた。サイレンサーのため店内は静かなまま、誰も気づかずオイカワの身体はそのままミツオの膝元に崩れ落ちた。

ミツオは拳銃をしまい、オイカワの亡骸をそっと撫で上げた。そこには、母性のようなぬくもりが確かにあった。
しかし、そのとき、彼は何か違和感を感じた。胸の中に男性的な冷えた感触が広がっていく。ミツオはふと、我に返り、そこにあった母性的な自身の優しい幻影をオイカワと言う存在と共に捨て去り、もう二度と振り返ることもなかった。
二度と。

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