見出し画像

「ロバート・ツルッパゲとの対話」はギフトに最高!ということをワタナベアニさんとの怪しい出会いから書いてみた。


2019年11月24日。見ず知らずの男性から一通のメールを受け取りました。

「はじめまして。写真家のワタナベアニと申します。ケイタさんがもしよろしければ、料理の勉強をしているところを撮影させてもらうことは可能でしょうか。ご検討のほど、よろしくお願いいたします。」

要約すると、私の息子ケイタの写真を撮りたいというメッセージ。

見知らぬ男性から「写真を撮りたい」とのメールを人生で受け取ったことがないので、「なんて怪しいメールなんだ!」と、警戒してしまった私。

しかも、写真を撮りたいという場所は…、

パリ。

フランスです。

当時、小学5年生だった息子は、クラウドファンディングでフランスへ料理を学びに行く資金を集めていました。意外にもうなぎ上りに資金が集まっているので、テレビ局からの取材依頼が殺到していました。でも、ケイタの意向で、取材はすべてお断りしていました。

そして、舞い込んできた「写真が撮りたい」というメッセージ。

テレビの取材ではないのでうメールを息子に見せました。きっと息子にはいつものように「断ってね」と言われると思いつつ。

でも、まさかの「いいよ」の返事。

とても驚きました。

「なんで、いいの?」って聞いたら、

「いいひとだから」という返事。

「カタカナの人にOKの連絡しといてね」

カタカナの人って…。

カタカナの名前でいかにも本名じゃなさそうな名前。見ず知らずの男性だし、メールには写真家とあるので、きっとウェブサイトがあるだろうと思いました。予想した通り、すぐに見つけることができました。

ウェブサイトを見ると、有名人の写真がずらりと掲載されていてビックリ! 

有名な方を撮影するような写真家が、いつも膝に穴があいたズボンをはいている田舎の子どもを撮影したいって信じられないと思ってしまいました。

頭を悩ましている私の横で、息子はウェブサイトにある欽ちゃんの写真を見て「このおじさんのタバコの煙が、こんなにきれいに水平に流れているのはどうしてだろう?」って不思議がっていた…。

Googleさんでの検索を続けていると、noteを発見。

え! 

フォロワーが4万人越え????

なんじゃーこりゃー??? 

なかには、ワタナベアニさんはご自身で「人を何人も殺したような顔をしている」と書いているのを発見。息子に、「人殺しみたいな顔をしてるんだって」と、伝えると、「大丈夫。このカタカナの人、絶対にいい人だから」と言うのです。息子よ、いい加減、名前を覚えておくれ。そういえば、全校生徒50名ほどの小学校にはワタナベさんという人はいない。息子には新種の名前。

気ののらないことは絶対に進めない私ですが、息子が何度もいい人だから大丈夫というし、密かに撮影してもらいたがっている様子。文面からしてとても礼儀正しく、悪い人ではなさそうなので、とりあえずワタナベアニさんに返事をしました。

「写真の撮影のお申し出をありがとうございます。パリでは、料理の勉強をするのは友人の自宅です。ですから、友人に許可を得られないか、聞いているところです。友人から返事がありましたら、あらためてワタナベ様に連絡させていただきます。撮影していただけるかどうか、もう少し、返事をお待ちいただけるとありがたいです。 」

すると、すぐに、返事が。

「ケイタさんの行動に感銘を受けてタイミングを合わせてチケットをとりました。ご迷惑にならない範囲でよろしくお願いいたします。」

え??? 

すでにチケットをとった??? 

息子の写真が撮れると決まっていないのに、すでにパリ行きのチケットを取っているなんて、行動力のある面白い人なんだ! こういう人、大好き!

でも、それにしても怪しい…。

怪しい、怪しい、って思っている私が間違っているかもしれないと思い、私の子育て講座に来ているママたちに、この話をしてみました。

案の定「それは怪しい!」「絶対に断ったほうがいい!」「パリに行ってから、渡航費とか撮影費とか絶対に大金が請求されるよ!」という言葉が…。

やっぱり、怪しいよね…。

そんなある日、小学校ではメディアリテラシー教育があり、「知らない人には写真を撮らせない、自撮りの写真も送らない、ネット上に自分の写真を載せないように」と、息子は先生から教えられたらしいのです。それに、肖像権やプライバシー権について学んできた様子。

すごいタイミングでそんなことを学ぶとは…。

「カタカナの人って知らない人だし、写真撮ってもらうのってダメだよね。」と、息子は言ってきました。

「じゃあ、お断りしてもいいのかな?」と、ちょっと期待して言った私。

ところが、

「いい人だから、撮ってもらいたい。」と息子。

どうやら、ワタナベアニさんはいい人の烙印を押されたらしい。

一度押された烙印は、もう消えることはない。

そして、息子はボソッと

「なんで、僕の写真が撮りたいんだろうね。撮った写真はどうするんだろう?」と、つぶやきました。

そうそう! 

写真を撮りたい理由や、その写真をどうするかがわからないから、怪しさが残るんだ! さすが我が子! いいところ指摘してくれました!

「どうして僕の写真が撮りたいか聞いておいてね」と息子に言われ、ようやく私はワタナベアニさんにその理由を尋ねました。本当なら、最初のメールで聞けばよかったんだけれど。

「息子ケイタが、「なぜ僕の写真が撮りたいんだろう? 撮った写真はどうしたいんだろう?」と、不思議がっております。また、ケイタをお撮りになった写真は、ケイタの承諾なしに、無断では、使用せず、公表なさらないことを、文書で約束を交わせるのであれば、撮影にお越しいただきたいと思います。ワタナベ様がどのようなお考えをお持ちか、ぜひお聞かせいただけるとありがたいです。」

そんなことを書いて、メールを送りました。

最後まで悩み、ためらいながら、無断では、使用せず、公表なさらないことをお願いしました。

というのも、私の父は山岳写真で写真集を出版しているほど、写真が好きな人でした。写真のシャッターを切る真剣な思いを考えると、もし父に撮影した写真を自由に公開しないように頼んだとしたら、良い気はしないと思うのです。

ですから、写真家の方に「無断では、使用せず、公表なさらないことを約束して欲しい」というのは、とても失礼なことだし、気を悪くさせてしまっては申し訳ないと感じていました。その言葉をためらいながらもメールで送信した後も、「自分の子どもを守るためには仕方がないことだった」と、ずっと自分を言い聞かせていました。

ワタナベアニさんからはすぐに返事が来て、「プライバシーには最大限の配慮をする」との返事が。商業的な利益を得るつもりも、公表するつもりもないと断言されていました。

そして、一番気になっていた撮影したい理由は、

「興味があるものはどんなものでも撮りたい」。

すごーい、ストレートなお返事!

もっともらしい美しい理由を虚構して返事をしてくるのではなく、ストレートに「興味があるものはどんなものでも撮りたい」とおっしゃるワタナベアニさんの言葉に嘘はないだろう。

理由をストレートな表現に乗せて送られてきて、私はもう、何も言い返す言葉はありません。

その理由に加えて、

「『自分がケイタさんくらいの年齢に、やりたいことを見つけて行動できただろうか』と考えたことにあります。」と綴られていました。

いやはや、ワタナベアニさんの視点にはおそれいりました。私はそんなふうに息子のことを考えたこともありません。

会ったこともない少年がフランスに行こうとしているのをクラウドファンディングで知っただけで、自分の身に置き換えて考えることができるワタナベアニさんの想像力。

そして、そのようにケイタの行動力を評価してくださっていることや、本当に応援してくれている気持ちが伝わってきて…、ありがたくて、嬉しくて…。

そして、この想像力があれば、私たち親子がこのご時世にパリで写真を撮られることにどれほど不安を抱いているのを想像することは、容易なことなのだろうと思いました。

そのことを証明するかのように、

「親御さんとしてはご心配なことも十分に理解できますので、ご指示の通りにさせていただきます。」という言葉で、メールは締めくくられていました。

もう、私は完全にノックアウト。

私もワタナベアニさんに素晴らしい人の烙印を押さずにはいられませんでした。


それにこんなこともありました。

親子でワタナベアニさんのことをネット検索していると(なんか探偵になったような変な気分…)、ある方がワタナベアニさんのことを大絶賛している記事を見つけたのです。

その記事を書かれた方は大阪のカフェバーを営んでいて、かつて私の四国のいとこにインタビューをして記事を書いたことのある方(しかも新年早々、元旦の夜に哲学について、いとこにインタビュー電話したそうです)でした。私の友だち数人の友だちでもあるらしく(でも、私はお会いしたことがないのですが)、ただそれだけで、私は勝手に信用している方。その方がワタナベアニさんのことが猛烈に大好きなのが伝わってきたために、ワタナベアニさんに押した「素晴らしい人の烙印」は尚更濃くなっていたのでした。

もともと私はかなりの心配性なのですが、ワタナベアニさんを怪しむ気持ちも、断りたい気持ちも、ずいぶん小さくなっていきました。


その後、パリの友だちがワタナベアニさんが自宅に招くことを快諾してくれたので、お会いする日時と待ち合わせの場所をメールをやりとりしながら決めました。

そして、私たち親子は一番安いエコノミークラスの航空券を買い、中東経由でパリへ。

ワタナベアニさんは、日本の航空会社のファーストクラスでパリへ。

そして、約束した日がやってきました。

Gare de Cité universitaire(シテ・ユニヴェルシテール駅)は、パリ南部の住宅街で、友だちの家から歩いて5分ぐらいにある駅。ここで、お昼過ぎにワタナベアニさんと待ち合わせをしていました。

駅に着くと、ワタナベアニさんは先に到着されて、私たちを待ってくれていました。

第一印象は、繊細で優しい少年。

きっと人生経験が豊富で、だからこそ、きっと人の気持ちが細かくわかりすぎてしまうから、本当の優しさで人と接することができ、それだけ厳しい人でもあるんだろうし、ちゃんと自分自身を持っている人、と言う印象です。そして、好奇心旺盛だけれど落ち着いた眼差しからは、少年のような光がじわじわと溢れ出ていました。大人なんだけれど不思議な眼光がもれていました。

そして、メールで受けた印象と同じように、この人は嘘をつかないんだろうな、と言う印象も再度受けましたし、きっと、私はこの人に嘘は付けないんだろうな、どんな小さな嘘もバレてしまうだろうな、という印象も。

少しの感情の動きも逃さないというか、あの眼差しは他人の内面の感情をすべて映し出してしまうんだろうな。ある意味、ものすごく恐ろしい人と出会ってしまった…。でも、人生にとって、嘘がつけない存在は有り難い。

そして、小さな公園を通り、友だちの暮らすアパルトマンへ。人見知りの激しいケイタだから、一言も喋らないだろうと思っていました。でも、言葉数は少ないけれども、ワタナベアニさんと談笑しながら歩いているではないですか! 

友だちの家に到着すると、ワタナベアニさんは自己紹介をフランス語でされていました。わおー、私には理解できない! 

ひと息つく間も無く、マダムの料理教室が始まりました。

画像1


画像2


画像4

この日、マダムが教えてくれた料理は、ラタトゥイユとポトフ。

ワタナベアニさんはフランス料理を心から愛しているようで、マダムにあれこれと質問をされていました。マダムとの会話からフランス料理の造詣が深いことがすぐにわかりました。

ワタナベアニさんはケイタにポーズを求めることもなく、ただ、料理をしているケイタを淡々と写真におさめていました。

…が、しかし! 

わざわざ日本からパリまで来てくださっているワタナベアニさんを台所に残して、ケイタ は、突然、部屋に引きこもってしまいました。

そっとドアを開けてみると、「ちょっと休憩」と言って、のび太くんが足を組んで悠々と寝そべっているような、そんなケイタの姿がありました。

実は、パリに到着してすぐに高熱が出て、パリを散策することすらできず、ずっと寝込んでいたのです。ちょうど、この日の朝になってようやく熱が下がったところだったのです。

ワタナベアニさんがおられる間ぐらいは、台所かリビングでいるよう頑張って欲しかった私は、「わざわざ東京からパリまで来てくださったワタナベアニさんを台所に残して、ゴロゴロするなんて失礼なやつだ!」と炎のように怒りがこみあげてきました。そして同時に、「どんな状況でも自分に正直なケイタは大物になるかもしれない」と密かに笑ってしまいました。

突然消えて、部屋でゴロゴロ…  無礼なことをしたのにもかかわらず、ワタナベアニさんはケイタのポートレイトを撮ってくださいました。

それが、こちらの写真。

画像4

この写真を見せていただいた時、衝撃が走りました。

11歳のケイタがうつっているからです。

ちなみに、こちら↓が、私が撮影したケイタ。とてもガキっぽい。

画像6

私がどれほどケイタを子ども扱いしてきたのか、11歳よりももっと幼い子供として、ケイタを見ていた自分を諭してくれるような写真でした。

私は本当のケイタを見ていない。いつまでも幼い子どもとして考えているんだ、子ども扱いしてきたんだ…。『ついつい自分の子どもを実際よりも幼く見てしまう母親専用眼鏡』をかけているに違いないって、衝撃が走った瞬間でした。

ちゃんとケイタをありのままで見つめたいから、そんなメガネは外してしまえ!

ワタナベアニさんの写真は、私をガツンと目覚めさせるようなものでした。

きっと、ワタナベアニさんは11歳のケイタをありのままにうつしてくれたのだと思います。そして、やりたいことを見つけて行動しているケイタを「尊敬の眼差し」で見てくれている気持ちが、ハッキリと写真にうつっていると感じました。尊敬なんかしてないってワタナベアニさんには言われるかもしれませんけれど、なぜか写真からそう強く感じたのです。

ちなみに、ワタナベアニさんは私のポートレイトも撮影してくれました。このnoteのプロフィール写真がそうです。たとえ私が100歳で天国へ招かれたとしても、私の遺影はこの写真(40代の私)にするようにとケイタに伝えてあります。

さて、やがて料理も出来上がり、みんなで食卓を囲みました。ワタナベアニさんに美味しいと言ってもらえて照れているケイタ。

家族からおいしいって言ってもらえるのとは別の言葉の重みがありました。

先にも述べた通り、ワタナベアニさんとは、ケイタの写真を勝手に公表しないことを約束する文書を交わしたいと、事前にメールでお伝えしていました。ところが、ほんの数時間の出会いでしたが信頼関係が築けたので、書類は作成しないことになりました。

そして、ワタナベアニさんは、「ケイタ、男同士の約束だ。絶対に公表しない。これからも、頑張れよ。」と言いながら、ケイタと腕をトントンと重ねていました。その姿がめっちゃかっこええやん!と思ってしまうほど、男前な約束をケイタと交わしていました。

そして、夕方になり、ワタナベアニさんを玄関で見送りました。もし、アニさんと再会できるのだったら東京ではなく、またパリでの再会がいい!と思いつつ。

見送ってすぐにリビングのソファーで横になってゴロゴロするケイタ。「アニさん、いい人だったでしょ?」と、俺は正しかっただろうと言いたそうな、ドヤ顔をしていました。そして、ボソッと「人を殺したことがあるような顔じゃなかったね」と言ったっきり、そのまま眠りの世界にいってしまいました。

さて、フランス滞在中はフェイスブックで日記を公開していました。まだまだ語彙力のない小学生ですから、うまく表現できなくて悔しくて苦しむことも多々ありました。自分の感じたことに合う言葉を頭の中で探し求め、麻布袋に脳味噌を入れて絞り出すようにポタポタと落ちてきた言葉を発信していました。

そして、帰国してから9ヶ月が経ち、小学6年生のケイタの本「料理大好き 小学生がフランスの台所で教わったこと」が自然食通信社から出版されました! ただいま絶賛発売中!(発売されてから1ヶ月経たないうちに重版が決まりした!)

なんと!!!

ワタナベアニさんがパリのアパルトマンで撮影してくださった写真が数点おさめられています! アニさん、写真掲載を承諾してくださって、ありがとうございました!

さて、ここで書いている、ワタナベアニさんとお会いするまでの私とケイタのやりとりや、パリの台所でワタナベアニさんが写真を撮ってくださった「いきさつのエピソード」はいっさい収録されておりません。このnoteを読んでくださったあなた、心にそっとしまっておいてくださいね。

そもそも、私は、ワタナベアニさんがどれだけ素敵な人なのか、そして、アニさんの著書がギフトに最高なんだと伝えたくて、この記事を書きました。

ぜひ、こちらのページを訪問してくださいね。「ロバート・ツルッパゲとの対話」ワタナベアニさんの本です。ポチッと押したら、早くて明日にはポストに入っているそうです。

絶対にプレゼントにいいと思う!

ユーモアがあって、愛があって、上品な本です。でも、決してコーヒーを飲みながら読まないでくださいね。絶妙な比喩にくすっと笑って、コーヒーを吹き出しかねないですから。

それから、リストのピアノ曲をBGMに流しながら読むのが、一番ふさわしいと思います。人生を豊かにしてくれる本はたくさんありますが、その中でもロバート・ツルッパゲさんの言葉には、棺桶にも入れてもらいたくなるほど手放したくない響きがあり、リストの美しい響きとうまく合わさって、優雅な午後を過ごすことができることでしょう。ふかふかだけど柔らかすぎないソファーに座って読んで欲しいものです。

こちらは哲学書。

哲学を求めはじめるのは14歳頃からなので、ケイタが14歳になる時に、誕生日プレゼントとして渡すことにしています。

そして、こちら↓は、ワタナベアニさんのウェブサイトです。欽ちゃんのタバコの煙が水平に流れているのが気になる方は、こちらでご確認くださいませ。

とある冬の日に、パリの郊外にある台所でお会いしただけのことなので、ワタナベアニさんにはもっともっと素敵なところがあるはずで、全てを知る術もないし、私の感じた素敵なところさえも全部伝え切れないのがもどかしい。

ですが、みなさん、ぜひ「ロバート・ツルッパゲとの対話」を1冊購入して読んでくださいね。きっとお気に入りの一冊になると思います。そうなれば、別にもう一冊購入して、とても大切な人にプレゼントしてくださいね!

サポートされた資金→ 新しい経験→ noteで、みなさまと共有させていただきます。