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「海賊とよばれた男」に見るリーダーシップ

こんにちは。たつや学長です。

2013、4年頃、この本に出会って、僕は自分でも驚くほど心を揺さぶられた。過去10年で最も影響を受けた本がこれ。

この本に関して、面白いなあと思ったことがある。それはこの本の内容ではなく(当たり前だけど)人によって感じ方は違うと言うこと。

仕事柄、

「オススメの本を教えてください」

と言われることが多いのだけど、その度に推薦する何冊かのうちに必ずこの本を入れていた。

けど「あの本、良かったです!」と言う感想をくれた人は一人もいないw

勝手な分析だけど、みんな順調なキャリアを歩んでいるからかな〜なんて思っている(笑)。


百田尚樹著「海賊とよばれた男」 講談社文庫


僕自身はこの本を読んで、複雑な自分の感情に気づいた。

主人公のような経営者になりたい、と言う気持ちと、心のどこかで「自分はこのタイプじゃないかも」と言う気持ちがないまぜになって、

羨望や
焦りや
共感や
憧れ

を当時強く感じたことを覚えている。

どんな話なのか

前置きはこのくらいにして、本の中身について。

主人公は、國岡商店の経営者(店主)、國岡鐡造の戦いの物語。

國岡商店とは、関門海峡に接する北九州、門司にある小さな石油販売会社。

出典:出光興産HP

物語をざっくり一言でいうなら、

「一難去ってまた一難」の経営者の一生。


でもみんなで力を合わせて乗り越え、リーダーも社員も成長していくと言うもの。

具体的には(ネタバレごめん🙏)、

  • 新参者を排除する業界団体に反骨し、主に関門海峡などの海上で漁船の燃料を販売したことから海賊と言われた

  • その後、ことあるごとに業界団体に嫌がらせや締め出しを受け、何度も倒産しそうになる

  • しかし、社員を一人もクビにしない!が店主の強いポリシー

  • もうだめだと諦めそうになる社員に、國岡は無理難題と思えるアイディア(しかし、生き残るにはそれしかない!)を強引に実行させる

  • 最後には、社員は店主に共感し、困難を乗り越える知恵を出し、行動することで成長していく

  • 戦後、米メジャー(大手石油会社。当時はエクソンなど、7シスターズと呼ばれる7社が世界の石油市場を牛耳っていた)が日本市場進出するため、石油を卸してくれなくなる

  • 自前のタンカー、日章丸(実は初代は戦前に竣工している。しかし、1944年2月25日米潜水艦の魚雷により喪失)を1951年に再度竣工。戦後仕事が十分になく人員整理をしない中、極めてリスキーな投資(資金調達には相当苦労したと思慮される。また批判や非難もあったのではないか)。他方、他に選択肢がなかったとも言える

僕がグッときたのは、國岡商店がさまざまな困難を乗り越え、周年記念パーティを迎えたその日の舞台裏の会話(僕のイメージで多少脚色されている部分もあるので注意w)。

苦楽を共にした幹部社員が、國岡に声を掛ける。

「店主、おめでとうございます。苦労が報われましたね」

すると國岡はいう。

「めでたいという気持ちになれない。ここに至るには苦しみばかりだった」

戦争や業務上の事故で亡くした社員やその家族のこと、最初の妻(注)のこと、その他自分や社員が犠牲にしてきたものを想っていたのかもしれない。

注:今では信じられないけど、子供ができないことが合理的離婚事由になっ  た。鐵造は生涯先妻の面倒をみたらしい

実話をもとにした物語

この物語は、出光佐三さんの人生を元にしたもの。そう、あの出光興産の創業者。

出光佐三氏 出典:新潮社

産業革命以降、石油は国家が繁栄する上で欠かせないものだ。いわば、国家の血液。言い換えれば、エネルギー問題は、国家レベルの戦略的なものだということを忘れてはならない。それに関しては、これからも変わらない。

いや、その重要性はどんどん増していく。

メタバースも
AIも
IoTも
Woven Cityも
MaaS(Mobility As A Service)も
DXも
SDGsも

安定的なエネルギー供給があって初めて成り立つもの。

出光氏は、一経営者としてだけでなく、国家レベルでエネルギー問題を捉えたわけで、故に

民族経営

を主張し、これを実践してきた。

つまり、この国の命運(キャスティングボード)を外国に握られてはならない、だから自分達がなんとしてでもその役割を担うのだと言う覚悟を持っていた。

しかし、遂に昭和シェル石油に吸収合併された

メジャーが牛耳っていた世界に喧嘩を売った

よくこう言われるけど、逆に言うと当時の多くは(ちょっと表現は悪いかもしれないけど)長いものには巻かれる、飼い慣らされた犬のような姿勢だったのかもしれない。

このようにして、当時、世界の石油の流通はアメリカ企業に完全に牛耳られていた。

それではダメだ!

といって行動を起こしたのが出光氏な訳で、周囲の犬(失礼!)が喧嘩だ!刃向かった!と騒いだだけと見えないこともない。

中東などの石油産出国(注)も良いように買い叩かれていて、石油の卸価格はいわゆるメジャーが自由に決めていた(今でいう転売ヤー数社が、業界全体を好きなように仕切っていたイメージかなw)。

注:のちにOPEC(石油輸出国機構)ができる

何度も言うけど、石油は国家レベルの戦略的な資源なので、

民間の外資数社に主権を取られている状態は非常にまずい状況だったわけ。

そこで出光氏は民族経営(内資)と声高にいった。理にかなっているように思えるよね?

「海賊とよばれた男」にみるリーダーシップ

出光佐三さんが伝説と言われるには、彼のリーダーシップが僕らの心に刺さるからだと思う。

僕なりに出光さんのリーダーシップとはどんなものだったのかを5つの要素に分解してみた。

1. ビジョン

  • 「あの山登るぞー!」と行く道を指し示し、周囲を巻き込んでいくのがリーダー

  • 「ここで1時間休憩!タンブラーの水は全部飲むな。ふくらはぎをマッサージしとけよ」などと全員を脱落させず目標達成させるのがマネジメント

  • インサイドアウト:サイモンシネックが提唱した言葉。人々の共感を呼ぶビジョンには共通点がある。それは「1. WHY(なぜそれをやるのか?)」を最初に発信すること。そして次に「2. HOW(どう実現するのか?)」を示し、最後に「3. WHAT(それは何?)」を伝える。

  • Appleで言うと

    1. WHY: 思い出をいつでも手軽に、そして鮮明に振り返ることができるように」

    2. HOW: 特殊なLED技術で高画質な液晶画面を作りました」

    3. WHAT: それがiPhoneです」

  • 他の携帯メーカーの場合、面白いことにWHYがない。そしてなぜかインサイドアウトでなくアウトサイドインになっている。つまり、

    1. WHAT(最軽量で折りたためる今までにない●X(商品名;スマホ)を今までと同じ値段でご提供します)」

    2. HOW(当社が開発した最高難度の技術を駆使しています!)」

どちらが価格競争に陥りやすく、どちらがファンができるかは自明でしょ?

2. 諦めない心

  • 言うのは簡単だけど、実践するのは難しい。特に選択肢がある場合、僕らは多くの場合易きに流れる

  • 僕が好きなアメリカのテレビドラマにSUITS(弁護士もの)がある。やり手でちょっといけ好かない主人公ハーヴィー・スペクターの言葉

頭に銃を突きつけられたら、従うか殺されるかの他にまだ146通りある

出典:SUITS
向かって左がハーヴィー・スペクター

どんな状況になっても、必ず方法はあるから諦めるな!という意味。僕もこの言葉に勇気をもらう^^

  • かつてフレンチレストランを経営したとき、僕は間抜けにも店員に店ぐるみで横領された。精神的にも資金的にも地獄だった。そんな状態でも、事業譲渡せず踏ん張ると言う選択肢もなくはなかった。ま、言うのは簡単だけど、あの時僕は社員を信じることができなくなってて、とても「諦めない」と言う選択をすることはできなかった。

  • でも今なら思える。どんなに辛くてもシンドくても、まだ146通りの方法が残ってる!

3. チャレンジする勇気と開き直り

  • 人間にはホメオスタシス(恒常性)があるので、変化を嫌う性質がある。つまり、もともと僕らは挑戦することは好まない、そう言う作り(?)になっている。

  • 「最後はみんなで乞食すればいいさ」と言う開き直りはどこから来るのか

    • 出光には、メンター兼スポンサーがいた。それが、日田重太郎。日田は神戸や淡路島、徳島などに多くの土地を持つ資産家

    • 出会いは神戸。出光は神戸商業高等学校に通っていた。父親の事業(藍問屋)がうまくいかなくなり仕送りが減ったことから、家庭教師をして稼いだ。その先が日田重太郎の子供だった。その縁で出資をしてもらうことになった

    • 石油販売の事業を始めて間も無く、経営が行き詰まり、あと2ヶ月しか資金猶予が無くなった時、彼は日田に報告に行く

    • 日田は「では使っていない屋敷を売って資金を都合しよう」と申し出る。出光は、しかしあまりに申し訳ないと一旦は断った

    • この時日田は言った。「私は君の無謀な挑戦がどうなるか知りたいのだ。半年でダメなら1年、1年やってもダメなら3年、それでもダメなら10年だ」

    • 「それでもダメなら」「二人で一緒に乞食をすればいい」

本当の会話なら、言った方も、言わしめた方も並外れたスゴい人物としか言えない。

チャレンジには失敗はつきもの。それを恐れて躊躇してしまう。

だから、うまくいかない時の(自分なりの)心持ちをあらかじめ用意しとくと良いかもしれない。

例えば、

  1. 最悪の事態を想定する

    • 日田のように「いざとなれば乞食をすればいいさ」とか「死ぬわけじゃない」と言った具合。どう?気が楽になる感じしない?

  2. 失敗ではなく、次の挑戦の「糧を得た」と定義する

    • エジソンはフィラメントを発見した時、記者にこう訊かれた。「あなたはここに至るまで、数千の失敗をしました。よく続けられましたね」

    • するとエジソンは応えた。「私は失敗などしていない。うまくいかない方法を数千通り発見したのだ!」

  3. 口癖をポジティブにする

    • 某メガ企業に引き抜かれ経営者になった方とお話しした際「それは大変ですね」と僕が言ったら「はい、やりがいがあります」と返してきた。僕も真似させていただいているw


アメリカの老人ホーム入居者(90歳以上)に「あなたの人生で一番の後悔はなんですか?」というアンケートをとった。

するとほとんどの人が、

挑戦しなかったこと

と回答した。人生を後悔しないようにしたいね。


4. 決断力

  • 経営者をしていれば、会社の規模に関わらず非常に厳しい決断をしなければならない時が何度もある。GE社の元CEOで名経営者と言われ、世界の経営者に大きな影響を与えたジャックウェルチは、「経営者に必要なのは4つのE (4E's)だ」と言った。

出典:ロイター=共同
  1. Energy

    • エネルギーや熱意が高いこと

  2. Energize

    • 自分だけではなく、周囲にも熱を伝播させることができること

  3. Execution

    • どんなに優れていてもやり切ることができなければいけない

  4. Edge

    • リーダーは厳しい決断を迫られることがある。そこから逃げてはいけない。

この4つ目のE (Edge)こそ、決断力だ。

では、出光氏はどのような厳しい決断をしたのだろうか。

  1. 日章丸への投資や全く経験のないラジオ修理事業への舵切りは、生き残るための選択肢がなかったとはいえ、なかなか決断できることではない

  2. 特に1953年に日章丸をイランに派遣したこと。

1953(昭和28)年3月、出光は、石油を国有化し英国と抗争中のイランへ、日章丸二世を極秘裏に差し向けました。同船は、ガソリン、軽油約2万2千キロℓを満載し、5月、大勢の人の歓迎を受けて川崎港に帰港しました。

これに対し、英国アングロ・イラニアン社(BPの前身)は積荷の所有権を主張し、出光を東京地裁に提訴。この「日章丸事件」は、法廷で争われることになりました。裁判の経過は連日、新聞でも大きく取り上げられ、結局、アングロ・イラニアン社が提訴を取り下げたため、出光側の勝利となりました。イラン石油の輸入は、その後、イランにおいてメジャー(国際石油資本)の結束が再び強化され、1956(昭和31)年に終了しました。

しかし、この「事件」は、産油国との直接取引の先駆けを成すものであり、日本人の目を中東に向けるきっかけになりました。また、敗戦で自信を喪失していた当時の日本で、国際社会に一矢報いた「快挙」として受け止められたことも歴史的事実です。

出典:出光興産HPより
  • 僕はIT事業やフレンチレストラン事業を売却して以来、社員を雇用せずアウトソースしているので、(社員の生活を考えることなしに)割と身軽にチャレンジしてきた。でも、出光氏の場合は大勢の社員を食わせねばならなかったから、その重圧は想像にあまりある。

  • 死なないためにはなんでもやらざるを得ないとも言えるけど、振り払っても振り払っても立ちはだかる敵(業界団体、GHQ、石油メジャーなどなど)、そして資金繰りや高い事業リスクや先行きの不透明さに胃がキリキリした毎日だったのではないだろうか

意思決定ができない上場企業の副社長


上場企業の副社長ともなれば、さぞ能力の優れた人だろうと思う。実際、ほとんどの人はどうだと思う。

僕は何人もの上場企業の役員と話をしたことがあるけれど、こんなに意思決定できない人がいるのか?と言うくらい意思決定ができない副社長がいた。悪いことに社内ルール(通常ならガバナンス上好ましいのだが)があり、彼の承認がないと何百という部下たちはプロセスを進めることができない。

ある時、詳しく観察してみると、その副社長は承認依頼が来て2週間程度寝かす(ノーアクション=ヒアリングするわけでも決断するわけでもなく)と言うことがわかった。部下はそれを見越して可能な限り早く承認依頼を出すのだけれど、現実の現場では2、3日以内で意思決定をしなければいけないケースは普通にある。

皺寄せはどこに行くかというと、最下層の社員たち。寝る時間は当然なくなる。何日も会社の寝袋に泊まるという事態になり、やがて疲弊して辞めていく。

5. 愛

リーダーシップを発揮する人は

「人を扱う(孤立無縁で、自分独りで道を極めるのではなく)」

つまり、人との関わりを避けて通ることはできない。

僕はリーダーシップは、

理屈(左脳)と共感(右脳)の両方が必要


と思っている。

人は理屈だけじゃ、動いてくれないなぁ

と思った人多いのでは?

理屈(理論)に加えて何が必要かといえば、感情を同調させることだよね。

どんなに優れた頭脳を持っていても、周囲から共感を得ることがなければ人はついてこない。人がいなければ、組織力は高が知れている。

逆に、共感力は高いけれど説得力がないとか、思考力や創造性に乏しければ成功はおぼつかない。

これは僕の肌感覚なだけなんだけど、日本人のリーダー(特に大手企業の)は左脳的に非常に優秀な人が多い気がする。

平たくいうと「仕事ができる」人。
今までの日本では、多くの場合「日常業務を仕事」と定義しているので、厳密には、日常業務ができる人がリーダーになっている。

そういう人が徐々に偉くなり、やがて役員になるわけ。

例えば、自動車メーカーなら、クルマの販売に長けている人や製造技術に優れた腕や目を持つ人。

ただ困ったことに、数年前から大きな潮目の変化が顕在化している。過去の延長線上に未来はないということ。VUCA(注)の時代なのだ。

注:Volatility, Uncertainty, Complexity and Ambiguity

ガソリンエンジン自動車は、多くの国や地域で2035年頃には販売できなくなる。日本経済を牽引している産業が、丸ごとごっそり消えてなくなるってこと。大変なことでしょ?

こういう時に日常業務ができることは(これからの企業を牽引する経営者として)必要条件かもしれないけど、十分条件とは言えない。

でも、必ず必要十分条件を満たす人物はどこかにいる。

そして、さらにその人物に求められるのは、

EQ(感情力)


な訳。

なぜなら、うまくいくかどうかわからない戦略を、たくさんの人々を巻き込んで実行するのは、多くの人たちの共感を得ないといけない。

共感力を最大化するには、周囲の人々だけじゃなく、

会社や社会や人間を包み込むような大きな愛

がなくては難しいのではないかと思う。

この点、出光佐三氏は一切の斬馘をしなかった。時代といえばそうなのかもしれない。丁稚奉公として入社してきた社員を、単なる労働者としてではなく、家族として愛を持って接していた。

こういった感情を持つことは、しかし現代社会にも通じる、リーダーの素養の一つではないかと思う。

いかがでしたか?
今日は、出光佐三に見るリーダーシップについて解説しました。


出光佐三をモデルにしたドラマ、

海賊とよばれた男


興味を持った人は、映画(岡田准一主演)もあるので、ぜひご覧あれ。

映画版 海賊とよばれた男


https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08QH4PBQT/ref=atv_hm_hom_1_c_lEJOdJ_awns_3_3?language=en

では今日もハッピーホルモン大放出!

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