「 」

『だって、自分だけは自分のこと、愛していたいじゃないですか。』

口から出た言葉に自分で驚いた。
こう考えている自分が不思議なのではない。
これを目の前にいる彼に言ったことが不思議だった。

毎日髪型を変えるのも、ピアスを忘れずつけるのも、褒められなくてもネイルをするのも、あれもこれも全部自分への愛だ。

「誰も私を一番にしてくれなくても、自分だけは一番だって、思ってあげたいじゃないですか。」

そうやって自分を大切にすることが、いつか何かに繋がるかもしれないじゃないですか。

君が私を好きだと言ってくれなくても、私の世界で私が一番だと言ってあげたいじゃないですか。

『私はね、君のことが好きなんです。』

目の前の彼がどんな顔をしていたのか分からない。

「だけど、私が一番好きなのはいつだって私。」

こうやって生きていけばいいと、思った。
こうやって生きていけば、私の価値が生まれると思った。
誰かに頼らなくったって、私は脆くはならない。

ふ、と瞼を開ける。
目の前には真っ直ぐな瞳をこちらに向ける彼が立っている。

ぱちん、と電気を消した。

「行ってきます。」

行ってらっしゃい。
私の愛するあなたへ。


【鏡】

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