「アクセプト・プロセス」 track.0
ACCEPT PROCESS
(INTRODUCTION)
西暦二〇XX年。未確認飛行物体が世界各地に突如、出現する。
飛行体Xは、ロシア、アメリカ、中国をはじめとした多くの先進国の上空に出現。
それらは、遅れてやってきたノストラダムスからの使者なのか、それとも温暖化を食い止められない人類に対して、地球という惑星自体が下した裁定なのか。国境も、身分も、越えて世界中の人類は関心の全てをソレに向けた。
そして、日本にもそれは現れた。
新潟県沖、その日は、青々とした空に入道雲が立ち上り、ウミネコがやけに騒がしかった。
そんな中で漁師たちは網を引き上げていた。網の中はほとんどが縞鯵で、甘鯛やカサゴなどの赤い点が打ち上げられた魚群の中で跳ねている。年々、漁獲量が少なくなっていることを憂いながら、漁師は入道雲をなんとなしに眺めた。
アニメーションのように、よく出来上がった入道雲が漁師の目には、なぜか濁って見えた。
漁師は目を擦った。擦りながら息子夫婦にいい加減、車の免許を返還してほしいと頼まれていたことを思い出した。
だが、やはり入道雲は黒く濁っていた。そして、その影がゆっくりと左にズレていき、あまりにも巨大なそれが現れた。
飛行体Xの出現により、世界中の政府、国民がパニックとなり、まずロシアが軍事攻撃を開始した。誰かが封切りを行うと、先進国の首脳も続いた。日本も主体的にこそ、攻撃は行わなかったが、他国への援助といった形で自衛隊が派遣された。
だが、飛行体Xは核攻撃を行えど墜ちなかった。
そして、不可解なのは自衛のために飛来してきたミサイルの処理を行うが、飛行体Xは攻撃を一切してこなかった。
ただそこにいるだけ。
その違和感は、逆に世界の緊張の糸をより強く張り詰めさせた。
だが、人類は便利な機能を持っている。
それは、慣れだ。
どんなに自らを侵す危険地帯に居たとしても、半年もすれば順応してしまう。それは人類が進化の過程で培ってきた特技であり、悪癖でもある。
よって、飛行体Xは翌年には、アテネの神殿や、自由の女神や、鎌倉の大仏などと同様に扱われ始め、修学旅行で訪れた学生たちが飛行体Xをスマホのインカメラの枠内に収めて、自撮りするようになった。
日本政府は、幾つもの議会を重ね飛行体Xのことを〈ムギワラ〉と呼称すると決めた。
新元号の発表と同じように、官房長官が飛行体Xの呼称を発表するニュース映像は、SNSなどを中心に拡散され、若者の間でネットミームとなるほど、流行った。
一方、突如襲来した飛行体X改め、〈ムギワラ〉には多くの生命体が乗船していた。
彼らには身体的特徴がなく、性別もなく、そもそも液状化しているため身体すらもない。故に、彼らは万物に擬態することができた。
或る者は男に、或る者は女に、またある者はそれ以外のイキモノに。
彼らは、学習し、分裂し、模倣し、擬態し、〈聴衆者・リスナー〉として地球へ密かに派遣された。
彼らの目的はほとんどが見物で、調査は二の次だった。
つまり、彼らは地球を侵略し、植民地化したいわけでも、一方的に破壊したいわけでもなかった。超規模で行うバカンスで、ピクニックだった。
この物語は、謎の飛行体〈ムギワラ〉からの使者と、地球人類が、知らず知らずのうちに行っていた交信記録である。
track rist
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すごい速さ / andymori
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Xデー (更新スケジュール)
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