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2021.11.27日記

天気雨あがってマスクを外すときすうっと伸びる道の奥行き/加瀬はる(2021.11.27)

夕方、近所のコロッケ屋さんでお弁当を買って外に出ると、行きで降っていた天気雨が止んでいた。天気雨はどうして、降っている間も上がってからも、うっすらまぶしい金色のひかりを放つんだろう。ビニール傘の折り目を畳み直しながら目を細める。すこし気持ちが良くなって歩く。田舎の住宅街はすれ違う人もなく、そっとマスクを顎にずらしてみる。新しい空気が鼻から入ってくる。進行方向に薄い色の太陽が沈み始めているのに気づいた。肺をふかく入れ替わる息といっしょに、視野の先行きがすうっと伸びたみたいだった。

そしたら、瞬間的に冒頭の歌ができた。できたとたん胸がすっとした。正直そこまで良い歌じゃないけれどうれしくて、「短歌やっててよかったなぁ」とすごく思って、数秒立ち止まった。

ぱっと歌を思いついたのは今日が初めてじゃない。定型が体に馴染んできた大学四年生くらいからときどき起こる。でも今回わーっとうれしくなったのは、多分いちばん、脚色なく自分の心を、追体験できる形で速記できたからだった。感慨を日記にまとめたら長過ぎて、きっとこの先忘れてしまうけれど、短歌ならたぶん忘れずにすむ。いつでも私は今日のこの気持ちを頭の引き出しから取り出して、繰り返し眺められるだろう。短歌続けててよかった。