加瀬はる

短歌

加瀬はる

短歌

最近の記事

再録/2021年の海の日に書いた文章

四国の海辺の町で育ちました。人口は五千人ぐらい。町内に高校はなく、わたしは毎朝六時半に汽車に乗り、片道一時間弱かけて隣の市へ通学していました。 列車はおおかた内陸を進み、田んぼか茂った山林が続きます。けれど、ぱっとしない道程で一ヶ所、右の車窓に突然海がひらける地点がありました。 トンネルを抜けた汽車がその広い砂浜の脇を通るのは、たぶん1分にも満たない時間でした。車内にぱっと朝の海の黄色い光が差して、乗客のうち何人かはやや目線を上げます。 ぼうっと眺める海は季節や天気

    • 2022.10.31日記

      *+:。.。:+**+:。.。:+**+:。.。:+**+:。.。:+**+:。.。:+**+:。.。:+**+:。.。:+* 毎日定時に帰ってしまうミステリアスな隣課のおじさん。 職場のおしゃべりにも興じず、どこか、枯れた文学的な雰囲気を纏っている。ある日、偶然書店で手にした本でおじさんが有名な歌人だと知ったわたしは、かれの詠む短歌を通しておじさんの心に触れはじめて…? *+:。.。:+**+:。.。:+**+:。.。:+**+:。.。:+**+:。.。:+**+:。.。:

      • 2022.09.07短歌連作「HarvestMoon」

        「HarvestMoon」どの夜も満月のぼる閉じられたゆたかな町で暮らすゲームに グラフィックの小さなよれを見つけたらカブのまるみのくずれ始める 上限を超えて話せばその日じゅうおなじ台詞を話す恋人 さいしょから死んでいる町さいしょからデータのかたまりなのにこの町 波ぎわが打ち寄せながらゆらぐのは青いドットの増減でした 町を出る ローディングナウローディング 花野へ至るひかりの円へ ********************************** 先週から「牧

        • 2022.08.17備忘録「墓の鍵/ミズハギの花」

          四国南、海崖地形の海ぎわの町に住んでいます。 このお盆で、そういえばうちの地域ではお盆にナスとキュウリの牛馬を作る習慣がないことを気づきました。 じゃあどうやって先祖の霊に帰ってきてもらうのかというと、墓参の際に家紋入りの提灯を灯し、「ご先祖様着いてきてください」と唱えるだけ。先祖の霊は家族のうしろを着いてきます。家に帰って仏壇を拝めば、盆が終わるまで先祖は家に居着いてくれます。 だからお盆の入りに、夕方の墓までの道を行くと、提灯を下げた一家がずらずら歩いています。 この

        再録/2021年の海の日に書いた文章

          2022.08.14短歌日記

          詠み人知らずになりたくて仕方ない。 詠み人知らずになるには、一首がとても有名になって作った人がわからなくなるまで愛唱され続けないといけない。 先日選考に残った作品賞で「この人は普遍性や根源性について考えて詠んでいますね」(要約)と評されていました。 全然考えたことはなかったのですが、あーたしかにそうかもと思い、一辺倒だった作風を反省し、でも一方で、とてもうれしく思いました。 高校のとき、古典がちょっとだけ好きでした。うたい継がれる歌は、普遍性があるからこそうたわれ続けるの

          2022.08.14短歌日記

          2022.08.13連作「残らなかった」と日記

          「残らなかった」 音立ててバケツに水の筋落ちる なんにも残らなかった夏の日 透けながら水はかたちをつくるのに蛇口ひねればみるみるあふれ うすい空 見上げるうちに広がってまぶたの端からこぼれてしまう ===================== 今日はお盆のお墓参りでした。 なすを刻んで洗い米に混ぜるのも、三角に積むお供えおだんごづくりもさすがに慣れました。 特におだんご。実家は年寄りばかりの田舎で、中高生のころに親族がどんどん亡くなりました。だからいつのまにか、法事

          2022.08.13連作「残らなかった」と日記

          2022.08.10エッセイ「スナック楡の木」

          短歌の賞をとったことがなく、SNSでバズったこともない。ぶっちゃけ、わたしの短歌をわたしの顔や名前を元々知らない人が読んでくれる機会は少ない。そんななか、引用歌は「死の短歌bot」さんを通じて全然知らない人たちに届いてるようで嬉しい。人に知られることで、愛着がわいた歌だったと思う。 歌と関係あるようで関係ない思い出をひとつ書き残しておきたい。この歌に登場する猫は実在していて、まりん、という名前でした。わたしにとって初めて飼った猫です。小学二年生の頃、近所で倒木にはさまってう

          2022.08.10エッセイ「スナック楡の木」

          2022.08.09エッセイ「岬のラーメン」

           六人掛けの大きな木の食卓。一番端の椅子にクッションを集め、父はほぼ毎晩酒を飲む。わたしが小学生のころだったか。その夜父は、ぼけかけた祖父と言い合いもせず、テレビの知識人に向かって怒りもせず、珍しく機嫌よく酔っぱらい、わたしにこんな話をした。 =====  父が若かったころ。たぶん母と結婚する前か、したすぐのころだったらしい。父は釣りが好きで、ハイエースにしこたま釣り道具を積んで各地に足を伸ばす。その冬。父はグレを釣ろうと、夜中の3時から車で5、6時間もかけて四国最南端の

          2022.08.09エッセイ「岬のラーメン」

          2022.06.28夢日記

          noteの下書きに下記とタイトルだけ残っていた。 ヘッダーはこの写真だったから、関連した夢だったのだろうか。写真は苔寺として有名になり始めた、海部郡海陽町の浪切不動尊で撮った写真。 どんな夢かさっぱり思い出せませんが、なかなか共感したので投稿しておきます。ひと月前にじぶんが書いた文章なんだから共感して当たり前ではあるけれど…。 ------------------------ 今日は夢見が良くて、たくさん児童小説のような夢を見て、遅起きになった。 昔から、面白い夢を見ると

          2022.06.28夢日記

          2022.06.24連作「山桃」と小文

          連作「山桃」 かつて村だったとおもう山ぎわの住宅街を見下ろす祠 雨つぶがガラスを伝うつたなさにやがてふたつはひとすじに垂れ あえて踏む人の軌跡につぶされて山桃落ちている濡れた道 道の向こうに雨降りはじめこちらにもとどくのだろう時間を連れて ------------------------------ 山桃は徳島県の木。梅雨の頃赤い酸っぱい実をたくさんつける。県内では街路樹はもちろん、庭に植えている人も多い。昔は我が家にも二階ほどの高さの大きな山桃の木があって、主に

          2022.06.24連作「山桃」と小文

          2022.06.23困りごとと日記

          短歌を出し惜しみしてしまう。 遅筆かつ寡作なので「次もし短歌賞に出すことがあったら今日作った短歌も応募できるんじゃないかな…」「いまは浮かばないけどこの短歌を軸に連作が広がるかもしれないもんな…」とか考えて、世の中に公表できない。 しかも、過去作を一括にまとめていない。だから、公表しないままどこに書き留めたかどう書いていたのか思い出せなくなった短歌も多い。 ここ三ヶ月ほど、昔作ったある歌を探している。すんごい良く書けていた気がしてずっとスマホのメモ機能とワードファイルを探し

          2022.06.23困りごとと日記

          2021.12.08日記

          へんな夢のへんな気分がうしろがみ引いててベランダ広すぎないか/加瀬はる(2021.12.08) 金縛りの癖がついたのかもしれない。社会人になって一年目の秋から何度も繰り返している。 といってもスピリチュアルな話ではなく。10〜12月ごろに足元を冷やして寝ると、どうも眠りが浅くなって意識が半分起きてしまってるみたいだ。でも今日のは特にひどかった。 ------------------------- ↑↑今日(2022.4.5)ひさしぶりにnoteを開いたら上記の下書きが

          2021.12.08日記

          2021.12.18日記と連作

          たくさん雪が降りました。雪の日ってなぜか体感気温がほのあったかいので、体表の温度センサーが混乱する感じがします。 たぶん、温暖な土地出身者あるあるなのですが、雪が降ると町にあるものすべて全部が"限定品"になる気がしませんか。雪の日のファミレス、雪の日のコンビニ、雪の日の銭湯、雪の日に会う恋人、雪の日の県境...。もう今後の人生で経験できないんじゃないか?と。各種スポットに足を伸ばし回らないともったいない気がして、一日中そわそわ。でも、今日は体の元気がなくて、布団でツイッター

          2021.12.18日記と連作

          「砦」と2021.12.16日記

          塔会員がつどった同人誌「砦」(2021年11月23日発行)を読みました。あとがきを読むと「塔読むキャス」の橋本牧人さん平出奔さんがお声がけした面々だと明かされていました。中田明子さんが好きなのでお名前があって嬉しかったです。 今日は特にいいなぁと思った短歌をすこしだけ引用します✏️ ▶︎▶︎▶︎ 透けながらあなたの方へめざめたいああ抱擁のたしかな昏さ/帷子つらね「冬の涯(はて)」 実景のない歌のような気もするけれど。だれかの腕の中でぼんやり目を覚ます歌だと読みたくなり

          「砦」と2021.12.16日記

          2021.12.01日記

          今季初めての雪に降られ、この町で暮らす2回目の冬が始まった。雪の日、県境の峠を越えてやって来る風は日本海の水分を含んで重く湿っぽい気がする。土地の人が言う"雪が降る気配"の構成要素のうち何割かは、山肌を枯らしながら吹き下りるこの冷たい風を指すんだろう。 今日は、県境に跨る山の中を歩いた。横殴りの雪に吹き付けられながら、しずまりかえった山道を進むのは恐ろしい。遭難や低体温症の懸念ももちろん、いちばん現実的な恐怖がクマ。クマは恐ろしい。勝てないしほとんど防げない。遭遇した時の逃

          2021.12.01日記

          2021.11.27日記

          天気雨あがってマスクを外すときすうっと伸びる道の奥行き/加瀬はる(2021.11.27) 夕方、近所のコロッケ屋さんでお弁当を買って外に出ると、行きで降っていた天気雨が止んでいた。天気雨はどうして、降っている間も上がってからも、うっすらまぶしい金色のひかりを放つんだろう。ビニール傘の折り目を畳み直しながら目を細める。すこし気持ちが良くなって歩く。田舎の住宅街はすれ違う人もなく、そっとマスクを顎にずらしてみる。新しい空気が鼻から入ってくる。進行方向に薄い色の太陽が沈み始めてい

          2021.11.27日記