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25万人が現地観戦するNFLの「ドラフト」は、何故そこまで盛り上がるのか

本日 4/26(金) の 9 時、アメリカの 4/25(木) 20 時に、アメフトのプロリーグである NFL のドラフトが始まります。DAZN でも中継があるようです。

アメリカで最も人気のスポーツであるアメリカン・フットボールのプロリーグが「NFL」なわけですが、優勝決定戦の「スーパーボウル」は視聴者 1 億人以上、視聴率は約 50% を記録するお祭りとして有名です。

ドラフトとは、各球団が将来性を高く評価されたアマチュアスポーツ選手を順番に「指名」していくことで、彼らがプロ選手としての第一歩を踏み出す晴れ舞台です。

当然、当日にスポーツの試合をするわけではなく、戦略的に戦力を補強する経営・マネジメントのイベントです。にも関わらず、NFL のドラフトは、昨年の視聴者数が約 500 万人、会場の観客数は 25 万人を記録している一大イベントなのです。昨年は同日にプロバスケットボールリーグ・NBA のプレーオフの試合があったにも関わらず、視聴率は 2 倍以上を記録しました。

マネジメントのイベントでありながら、ハイレベルなバスケの試合よりも盛り上がるイベント。そこにはビジネス大国・アメリカの頭脳が垣間見えるさまざまな工夫があります。

どんなコンテンツがあるのか

NFL のドラフトに「くじ引き」はありません。完全ウェーバー制といって、今シーズンの成績が悪かったチーム、つまり弱いチームから順番に好きな選手を指名していきます。

32 チームが指名を終えたら、「一巡目 (Round 1)」が終了となり、「二巡目 (Round 2 )」に進みます。これを七巡目まで、3 日間にわけて繰り返すという流れです。

なんとなくではありますが、

一〜二巡目
・有名なアマチュア選手が続々と登場
・それぞれのチームが、残っている有名選手の中で誰を(先に)指名するのかに注目が集まる

下位
・ドラフトにかかるかどうかギリギリの選手たち(夢を追っている)とその家族のドキュメンタリー的な感じ?
・マニアな人々は「そこかー! そこきたかー!」「うわーそいつ獲られたかー!」なサプライズで盛り上がる

みたいなところまでは想像できると思います。

NFL ドラフトは日米の野球界と比較して何が違うかというと

・有名選手は会場にスタンバイしており、指名されたら壇上で挨拶
・現役を引退しているレジェンド選手やタレントも各所で登場する
・作戦会議している各チームのブースにもカメラが入っている(拒否できるので全チームではない)

といったテレビ向けの演出と、

・指名権を直前まで「トレード」できる

という戦略性にあふれるルールがあります。

タイトル詐欺はよくないので、「NFL のドラフトが 25 万人動員する理由」に関しては、上記の要素が絡み合って「ショータイム」としてウケてるんだと思いますという答えにとどめておきます。

ここは note というビジネスパーソンが多いプラットフォームということで、今回は「戦略性」「ビジネス」の目線で、盛り上がっている要因の一つを深掘りしていきます。

ドラフト指名権も、雇用している選手もすべて「商品」として取引できる

ドラフト前には「バリューチャート」といって、ドラフトにおけるすべての指名権に「いくらの価値があるか」という値段(その順位で指名できる選手に、いくらほどの活躍が求められるかという期待値)がつけられます。この時点で、年俸をもらって NFL でプレーしているプロ選手も含めて、同列の「商品」となるのです。

これぞビジネス大国アメリカ。そして各球団は、シーズン中からドラフト当日に指名選手を決める直前までいつでも、

・今年のドラフト指名権
・来年以降のドラフト指名権
・現在雇用している選手

を対象として、トレードをすることができます。

シーズン中でいえば、

・プレーオフ出場が絶望的になったチームが若返りと再建のため、高年俸のベテラン選手を放出し、ドラフト指名権を増やすことを目論む
・プレーオフのために戦力を強化したいチームが、ドラフト指名権(来期以降の戦力)を売り払って即戦力のベテラン(主に今期の戦力)獲得を目論む

という2つのチームの間でトレードが成立しやすいです。「有名選手 ⇔ 今年のドラフト二〜三巡指名権」みたいな感じです。

そして最も盛り上がるのが、ドラフト当日中のトレード。「今年の 5 番目 ⇔ 今年の 12 番目 + 今年の 32 番目」みたいな感じで、順番が低いチームが何かしらの見返り(さらなる指名権や主力選手)を提供することで、指名順がその場で入れ替わるのです。


「当日のトレードが可能」により、どんなドラマが起こるのか?

「弱いチームから、その年トップクラスの有望選手を順番に指名できる」というルールが示す通り、NFL は戦力の均衡化を掲げてリーグを盛り上げようとしています。

サッカーでいえば、どんな戦術をとるにしても FW の選手は絶対に重要です。そうなると、メッシ、C・ロナウド、ネイマールのような三人のスーパースター(候補)選手がドラフト候補にいる場合、何も波乱がなければ成績ワーストの 3 チームに吸い込まれていくことも十分にありえます。

ただ、もしワースト 2 位のチームだけは、代表クラスの FW を擁しながらも守備が崩壊して惨敗していたらどうなるでしょう。もちろん一人で局面を打開できる戦術兵器のような FW をとりあえず獲得してもいいのですが、おそらくチーム内やファンの意見も「確かにメッシは欲しいけど、今年は CB かボランチの No.1 選手を獲れ!」という方向に寄るでしょう。

とはいえ、CB やボランチの No.1 選手であれば、6〜7 番目でも獲れるかもしれません。さらにそれらの No.1 選手が自チームの戦術にフィットしなさそうで回避する場合や、そのポジションが「不作」の年の場合、へたすると 20 番目とかでも良い選手を指名できるかもしれません。

そこで、決定力不足に悩むチームにできるだけ高く「売る」という選択肢が出てきます。好位置を持て余しているチームと、上がれるものなら上がりたいチームの間で指名順を入れ替えるというトレードは、毎年 NFL のドラフトでは頻発します。

「2 番目のチームは、FW を指名しないかもしれない」という噂が流れると、大変なのは 4〜10 番目のチームです。はっきりいって全く展開が予想できません。「2 番目のやつらが FW のトップ 3 を指名した場合」と「指名しなかった場合」で、シナリオがまったく変わってくるのです。そうなると当然、待ちの姿勢ではなく攻めに転じるチームもあります。

「FW トップ 3 の誰か、超ほしい。うちドラフト一巡が 7 番目なんで、交換しても CB とかボランチは指名できそうだよね。おたくはそもそも守備の層が薄いし、今年の一巡(7 番)に加えて来年の一巡(順位未定)と今年の三巡、七巡あげましょっか? あと、うちの控えの◯◯くんとか渡せば、おたくならレギュラーいけそうじゃないっすか?」

みたいな必死のチームもあれば、

「ストライカー? いや別に…うちは今期頑張ってくれた若手の◯◯の成長に期待するんで。おたくが無駄な 2 番目の席を譲りたいだけっしょ? まぁ、どうしても売りたくて、うちの 5 番目の席に収まって CB 指名したいってんなら交換してあげてもいいけど。 え、7 番目のチームからオファー? …嫌だなぁ、6 番目のチームがその CB 狙ってるって噂じゃないっすか、お目当ての選手が 7 番目でも獲れると思ってダウンして、6 番目に奪われたら間抜けすぎません?www

と強気に出るチームもあることでしょう。

当然、そのシーズンで戦った相手であれば、どのポジションを補強したいかはファンですら想像できます。成績はそこそこよかったから一巡の順番は後ろのほうだけど弱点がハッキリしてるというチームなんかは、出血覚悟で上位に「あがって」こないと示しがつかないんじゃないかと思われたりもします。


そして発生する「玉突き事故」

・2 番目のチーム → 7 番目のチームと入れ替え
・元 7 番目のチーム → 2 番目で C・ロナウドを指名
・3 番目のチーム → ネイマールを指名
・4 番目のチーム → GK の評価 No.1 選手を指名
・5番目のチーム → ボランチの評価 No.1 選手を指名
・6 番目のチーム → CB の評価 No. 1 選手を指名

そうなると、CB を狙っていた 7 番目のチーム(元 2 番目のチーム)がパニックに陥ります。まさか、マジでそんなことが…と慌ててさらなるトレードダウンを画策しますが、当然ながら「御愁傷様ですwww」と、めちゃくちゃ足元を見られます。

そこでヤケになり、「しゃーない、GK も CB もボランチも奪われたなら SB や! どっちも守備の選手に変わりはないしな!」と、サイドの選手の No.1 候補を指名したとします。

そうなると、確実にどこかのチームは交通事故に逢ったような衝撃を受けます。10〜20 位のチームは展開が予想できないため特にあらゆる状況を想定しますが、最悪のシナリオは現実になるとやっぱり最悪なわけです。お目当ての選手が先に奪われたときの「補強すべきポジションじゃないけど、今残ってる選手の中だと、コイツは格が違うから指名しとけ!」というサプライズは、玉突き事故のように各チームのシミュレーションを破壊していきがちです。

一巡目の指名は持ち時間が 10 分で、二巡目は 5 分。お目当ての選手が奪われたり、逆に思わぬ選手が残ってくれているなど直前で状況が変化した場合は、この 5〜10 分で再考しなければなりません。その際に、「今の指名順位のままいくか、売り先を探すか」も含めて GM や監督が悩む様子が、会場のモニターやテレビ画面に映し出されるのです。

ベースにあるのは「雇用の流動性」

NFL が「世界で最も成功しているプロスポーツリーグ」と呼ばれるのは、レギュラー選手の入れ替わりが激しく、前年度下位に沈んでいたチームでも一気に建て直して優勝争いに食い込んできやすいという面も大きいと思います。

NFL の「戦力均衡化」施策の全容としては、

・選手の総年俸が全チーム一律で定められており、資金力があればビッグネームをたくさん囲えるわけではない
・選手からすれば「総年俸の上限だからもう給料上げられない」とか言われても知ったこっちゃない → 下位のチームだろうが高く評価してくれるならあっさり移籍したりする(怪我のリスクが高く、選手生命が短いので)
・普通は年俸上限カツカツで経営するので、高年俸の選手が不振に陥ったり大怪我をしたりすると容赦無くクビにされる → 球団はスター選手だろうが守ってくれないというイメージが強い
・大学の競技レベルが高く、ドラフト上位指名選手は一年目から大活躍する選手が多い → 出血覚悟でトレードアップしてでも、補強ポイントのトップ選手を獲りにいきたくなる → ハマるとチームが一気に強くなる

といった感じで、ビジョンとシステムがうまく噛み合っていると思います。

実際、オフの契約更改とドラフトを経てスタメン選手の顔ぶれが一気に変わったりして、「去年は攻撃陣まったく怖くなかったのに…」というチームが翌年は意味わからん破壊力をもつハイパーオフェンスを構築したりします。その一方で、盤石だった守備陣が普通に崩壊してたりもします。

ただ、NFL のドラフトシステムも、選手をあっさりカットするスタンスも、もしかしたら日本では「選手の人生を何だと思ってるんだ!」「チームと選手が相思相愛でも、大人たちが勝手にトレードして邪魔をするのか!」と批判的な目で見られるかもしれません。

日本の野球ファンや J リーグファンがたびたび口にする話題ですが、日本では「移籍する(功労者を引き止めず放出する)=悪」というイメージが強く、社会人もスポーツ選手も雇用の流動性がとても低いです。

ただ、そこは合理主義の国・アメリカ。NFL ではドラフト経由で入団した新人選手ですら 4 年契約なので、5 年目からは別のチームでプレーすることが可能です(基本的には。今回はそのへん省略)。メッシやクリロナが最下位チームに入団したところで、数年間とりあえず試合に出てゴールを積み重ねていれば、すぐに超大型契約が各チームから提示され、好きなチームを選ぶことができるのです。

つまり、良い新人をたくさん獲得したチームは、3 年以内には彼らに残留してもらえるだけの「強いチーム」「やりがいのあるチーム」になっていなければなりません。できなければ、大正義ドラフトができたとしても穴の空いたバケツで水を汲むだけになってしまいます。

そうなると、成績不振であっさりカットされていたベテランや、伸び悩んでいた新人たちにも注目が集まります。再建を目指すチームは、彼らを 1〜2 年契約で安く雇用して競わせ、レギュラーの座を掴めば即座に契約更新のオファーを出すよとちらつかせればいいわけです。犯罪者がそこそこ出てくるので NFL の世界自体から消えていく選手も多いですが、とにかく人がくるくる回ることでリーグ全体が活性化しています。

いつぞやのセ・リーグの 5 位・6 位固定時代やドベカス時代を見てきた我々日本人としては、球団経営に良いプレッシャーがかかる「流動性」はメリットではないでしょうか。あと、4 年契約っていうのもいいんですよね。球団側が各自を契約更新(大型契約)に値するか見極めるにも、選手が自分の能力や適正を見極めるにも。

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header: swimfinfan https://www.flickr.com/photos/12842055@N03/33574309762


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