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カラッと揚げる⁈

アナログ作家の創作・読書ノート    おおくぼ系


 小説作品の味付け方法にはいろいろとある。

 書きはじめるためには、先ずは素材なのであるが、アナログ作家としては体験や経験をもとにして、それらを作品のなかで何パーセントほど取り入れるかをポイントとしている。しかしこれがなかなかであり難しい。知り得た事実や個人のことを延々と書きつづるとノンフィクションとなり、とりあげたことで都合の悪いことが公表されると、あとあと名誉棄損とか事実誤認との反撃をうけたりする。

 

 それで、小説という並行世界を設定して事実を織り込んだ〈真っ赤なウソ・フィクション〉へと変質させるのである。だが作品を通して、フィクションながらも現実との接点をもちたい・・・・・・虚実皮膜論? という願いが常にある。

 わが小説愛とは、自身が経験していない社会や現実(過去も含めて)について、その機構やシステムを知ることで喜びを得ることである。現実の世界はいろいろとやっかいな事の方が多い。だが、小説に書かれた世界は、激しいトラブルでさえも同調感情を入れながらも第三者的ないわゆる神の目からながめ、どういう結末になろうとも安心感がある。主人公が殺されて亡くなったとしても読んでいる者は死ぬことはないのだ。

よって現実界の煩わしさから、チョットと距離をおこうと、どこでもドアを開けて異次元の表現世界へトリップするのである。

 

 小説などのエンターテイメントが、世界観や視野を広げてくれる例として、やや陳腐であろうが、〈ジェーム・ボンド〉シリーズの小説をあげる。この作品のキャッチフレーズは、〈殺しのライセンスを持つ男〉という物騒なものであったが、これが、まったくウソではない仕事が現実にあるのだと、諜報の世界をオープンに示してくれたのである。〈007〉の小説や映画がなかりせば、このような国際間の情報ビジネスは知られることはなかったであろうし、エネルギーにみちた青年の心が、脚色された国際冒険の世界へ運ばれることはなかった。結果、アメージング! で、楽しませてくれたのだ。(もっとも〈007〉は、イギリスのMI6が、諜報機関が必要であることを宣伝するための作品だとの考えもある)

 

 素材の次に考えるのが、キャラの設定であるが、これがうまくいくと、キャラがひとりでに動き出して、ストーリーが伸びていく。作者の役割は、パソコンのキーをたたいているだけで、いつのまにか物語が完成していたということになる。

 創作活動は好きでないとできないが、このように〈王様の耳はロバの耳〉に例えられるように、言葉を吐き出すことには、なんらかのいろいろな効用が内包されていると思われる。

 

 で、本題となるのだが、

 

NOTEは、面白いとおもった作品、さらに作家にしろ、クリエーターにしろ、アクセスしたのちに、すぐに流れて行方知れずになりやすい。アイスクリームのように溶けていくので、なんとか形をとどめたいと、作品を紙本にせねばという思いがおこる。

 それで、5月から8月に掲載した9編の短編をまとめて、紙本の短篇集『アラベスクー―西南の彼方で』を編もうと思ったのだ。この短篇集は、秋の青空にカラッとした唐揚げをあげるようなニュアンスの作品集としたい。

 

 系ワールドは、人の内面を抉り出すという文学作品ではなく、社会の構造とうごめく人々を面白く眺めることに力点をおいて表現している。

それで、たしかに、おおくぼ系ワールドを構築できているのかとの声も聞こえてくるのだが、評価は読者にまかせて書き続けるほかないと思う。なお、短編集に収録する、NOTEに掲載中の各短編は、書籍化に応じて適時削除していくので、気がむいたら、いまのうちにお目通し願えればありがたい。

 

 以下は、短篇集『アラベスクー―西南の彼方で』に掲載する短編作品等です。

 

1.〈アラベスク―西南の彼方で〉
帖佐博之が降灰のなか家に帰ると、クエートで死んだと思っていた後輩から電話がかかってきた。「生きていたんだ」と驚くと、こちらの担当となったので今度食事しようとなった。後輩の日向は肥後もっこすで、アラビアにあこがれていた。エジプト、クエートで生き、たくましくなった日向を見ると、銀行でちまちまと働いている自分がチッポケに思えた。仕事の矛盾でも荒れて家庭も崩壊していた。その再開の夜は酔いつぶれて、おかまショーになだれ込む。アラビアン・ナイトの甘美な夢をみて、西方のアラビアを思い浮かべると、日々の銀行業務があほらしくなり、翌日から欠勤してしまい、ずるずると休む。そうだ自由に生きようとパチプロを目指すのだが……

 

2.〈ささやきのマドンナ 〉
私、松園美樹は、小さいころから、中学、高校とマドンナをつらぬき通していた。そして、三十八になって、はじめて高校の学年同窓会があり、マドンナは当然に参加するとなったが、実はバツいちであった。ふりかえれば、中学に入って女の子から女性になる変わり目では、いろんなことが起こった。体育は苦手で深窓のマドンナを気どって、バリアーを張り優等生を通したのだが、ラブレターをもらったり、訳のわからないMというイニシャルでしか呼べない男との出会いもあった。高校に進学すると普通の映画や小説の好きな女の子にもどったが、二十年後の同窓会でも自ら酌をすることはなく、むらがってくる男どもを待ち受ける。そのなかから同窓会(どうしょうかい?)と新たな人生がはじまる。同窓生の中に画家がいて、モデルになってくれと言われ事件が起こる。その画伯が個展を開きパーテイ会場で、Mと再開し次の人生へと展開がはじまる。

 

3.〈男たちへのララバイ〉
「貴男は、女房に逃げられたということね」姉貴は大笑いした。腹を抱えて笑う姉を見ていると、そんなに可笑しいことなのかと、速雄は憮然とした。
いや、たぶん・・・。胃潰瘍、高血圧など、病気で早期希望退職した速雄は、療養で回復基調にあったが、突然の妻の疾走は交通事故に遭ったようなものだった。行きつけの居酒屋通いが唯一の楽しみとなり、そこで懇意になった峰崎と酌み交わす。二人してオトコの時代の話に酔うほどに、企業戦士への哀愁が満ちてくる。オトコは職場を離脱すると何も残らなかった。一人、ぽつんと家に帰ると姉貴から小包がとどいている・・・

 

4.〈20年×2の伝説 深山霧島外編〉
高校へ入学した初日、宿題をしてなくて担任からガツンと一発やられた。「ここは、義務教育ではないんだぞ、勉強しないのなら来る必要はない」、高校は大学への予備校でしかなかった。右往左往するなか、成績が飛びぬけた二人がいた。ノリオとイテゾノで常にトップを争っていた。彼らは、見事志望校へと進んでいったが、おいらは私大にすべりこみ、地元へ帰って就職していた。高校卒業後、20年を経てイテゾノが地元新聞で大きく取り上げられ錦を飾った。交遊が復活するも事件に巻き込まれる。エリートもそれなりに大変であった。困ったときの超先生頼みと、おいらは相談におもむくのだが・・・

 

5.〈アナログ作家の創作・読書ノート〉

①〈ブック・マルシエ〉

文学館のブック・マルシエのイベントにパートナーとともに参加した。そのときの様子を述べたエッセイ小説。

 

② 〈キャッ!のはじまり〉

〈上野千鶴子先生から直接のEメールをいただいて、キャッ!となった〉、このことにはじまるエッセイ。



          (適時掲載します。ヨロピク!)


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