見出し画像

異国情緒を味わう ~優しい味のイラン料理専門店・ぺドラム~

「イラン料理の専門店」というのはとても珍しい。

ざくっとまるまるアラブ料理として、ペルシャ料理、トルコ料理、モロッコ料理あたりを一緒に出す店はときどき見かける。しかし江古田駅にある「ぺドラム」は、イラン料理だけを扱うレストランなのだ。

イラン料理店「ぺドラム」は2階です

最近イランの絵本のレビューをいくつか書いてみた。イランという日本ではあまり馴染みの薄い国で書かれた絵本を読んでみて、イランの面白さを再発見した。同時に、ニッチなエリアだからこそ興味を持つ人が少数ではあるが一定数いることが確認できたのが嬉しい。

僕がイランにこだわるのは、大学のゼミが西アジア専門だったからだ。イランに行ったことがあるし、卒論もイランの遊牧民について書いた。指導教授はもちろんイランのエキスパート。イランというのは僕にとっては思い入れの強い身近な国なのだ。

先日、大学時代の仲間と久しぶりに会う機会があり、せっかくだからとイラン料理のレストランを探してみた。するとあるではないか!イラン料理のみに特化した店が!

木材を多用した内装

場所は西武池袋線、江古田駅。池袋から各駅停車で3つ目の駅だ。江古田駅は、日大芸術学部、武蔵野音楽大学、武蔵大学などが周辺にある学生街としても有名な場所。駅前にはびっしりと小さな店が並び、定番の居酒屋だけでなく、インド料理、ベトナム料理、モロッコ料理など、世界各地の料理が堪能できる街でもある。

そしてその中でも異彩を放つのが、我らが「ぺドラム」イラン料理だ。

このお店の凄いところは、西アジア料理という珍しさだけに留まらず、味がしっかり美味しいことである。「珍しい異国料理を食べれて満足」ではなく「美味しい異国料理が食べれて満足」なのだ。

その素晴らしさは、雑誌「BRUTUS」のお墨付きでもある。

オーナーは、テヘラン出身のシェイキ・レザさん。
物腰の柔らかいおしゃべり上手な日本語ペラペラのおじさんである。(見た目はとても若々しく、実年齢マイナス10歳くらいに見えた)
23歳のときに日本に移り住み、2019年にこの「ぺドラム」をオープンしたとのこと。オープン当初はイランのお姉さんの手も借りて、このコロナ禍を乗り切っているいう。

店内はきらびやかなランプで装飾されて美しい。奥の壁には自らの手で描いたという風景画が飾られている。

レザさんは絵もうまい

本国イランでは酒はNGだが、この東京の店では「When in Rome, do as the Romans do」ということで、酒も提供している。今回はレザさんおすすめ、ワイン発祥の地・ジョージア産の「Kankatela」をいただいた。

ラベルもお洒落

このKankatelaが実においしい!
珍しいオレンジワインで、しかもオーガニック。味はさっぱりとして飲み口が良い。白の辛口よりもやや濃厚で、ロゼに近い。ワインのセレクションからもこのお店のすばらしさを感じる一本だ。

ところで「イラン料理」と言ったら、どういう味を思い浮かべるだろう? なんとなく、カレーっぽいものを想像するのではなかろうか。

しかしイラン料理は辛くない。
香辛料よりもハーブやフルーツを多用した、やさしい味の料理が多い。

長い歴史が育んだペルシャ料理には、ハーブやフルーツが驚くほど多用されています。例えばミント、ライム、ざくろ、オレンジ、ヨーグルト、バラの花びらなどが、米料理や肉料理に使われます。唐辛子をほとんど使わないので辛くなく、香辛料も控えめでスパイシーすぎず、ハーブやフルーツを取り入れたナチュラルな味わいです。

ぺドラム ホームページより抜粋

僕が20年以上前にイランに行った時にいただいた家庭料理も、ザクロやバラがふんだんに使われ、サラダ感覚で山盛りのミックスハーブが添えられていた。どんぶり一杯もあるハーブの山を一人ひと盛り食べていたのには本当に驚かされた。健康的な食習慣である。

こちらは代表的な家庭料理。ゴルメサブシ(ラム肉・野菜・豆・ハーブの煮込み)。

ハーブの香りがほんのり。あっさりとした味わい

盛り付けの美しいこちらの皿は、前菜三種盛り合わせ。乳白色のソースは、ヨーグルトベースのソースだと思われる。

くせのないペースト状の前菜

そして食後は、ほんのり甘い紅茶で〆る。

小ぶりのティーカップが特徴的

どの料理も盛り付けが美しく、味に奥行きがある。
少し食べ慣れな味付けのものもあるが、日本人にも食べやすい煮込み料理や串焼き料理が盛りだくさんだ。さっぱりとしたライスや薄焼きのパンも噛めばかむほど味わいがあり美味しい。

店名の「ぺドラム」だが、ザ・イランという感じのネーミングではないのがまたお洒落だ。海外で日本食というと「Sushi・Tokyo」や「Sakura」なんていうのがありがちなのだが、そういう店は大抵なんちゃって日本食で、日本人からすると美味しくはない(個人の感想です)。

「ぺドラム」というのは、昔の王様の名前だったり、山の名前でもあったりするそうだ。聞きなれない響きだが、発音のしやすい名前である。店名を聞いても「あ、イランだ!」とはならないが、奥ゆかしいセンスの光る店名だと僕は思う。

コロナ禍でなかなか海外に出られない日々が続くが、都内のローカル沿線で異国の味を堪能するのもなかなか面白い。

閉塞感を感じたり、ちょっと違う何かをしてみたいときには、レザさんの素晴らしい料理ともてなしで「ぺドラム」の非日常空間に包まれてみてはいかがだろうか?