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ミュージカル「オリバー!」(日本公演2021)レビュー

コロナ感染が下火になってきたので1年ぶりにミュージカルを観劇してきました。ミュージカル「BILLY ELLIOT」以来です。東京公演の会場はTBS赤坂ACTシアターから今回は渋谷のヒカリエにある東急シアターオーブに変わりました。音響はACTの方が重低音に迫力があり台詞も聞き取り易くて良かったと思います。大阪公演の会場は昨年と同じ梅田芸術劇場メインホールで千秋楽は12月14日でした。

会場に入ると生の楽器の音出しが聴こえてきます。私は開演前のこの雰囲気が好きです。さあ始まるぞというワクワク感が高まるからです。今回は14人編成のオーケストラに弦楽器が加わりました。2組のオーケストラなので、磯田ひろみさんか、入江茜さんか、分かりませが、ヴァイオリンの音色が素晴らしく、ビオラもチェロも秀逸でアンサンブルが素敵でした。

楽曲で良かったのは5曲です。1曲目は「信じてみなよ」です。一番勢いがあり、歌もダンスも楽しめました。当然フィナーレにもこの楽曲が使われましたが舞台構成に工夫がなく大拍手のフィニッシュとはなりませんでした。2曲目は「ポケットからチョチョイと」です。映画ではギャング団の子ども達とフェイギン役のロン・ムーディの歌とダンスと演技が冴え渡っていてあのシーンが頭から離れません。3曲目は「何でもやるよ」です。映画ではダンスの振り付けが凝っていましたが、今回の公演では簡素化されていました。4曲目は「必ずここへ帰れ」です。ここでは子ども達のパフォーマンスが光りました。光ったと言えばプロローグ的な「素晴らしいご馳走」も良かったと思います。ここまでがACT 1で普通に楽しめました。

5曲目は「誰が買うのだろう」です。ここで一目置いたのはローズセラー役の青山郁代さんでした。このミュージカルの中で一番唄が上手いと思います。声がよく通るし歌心もあり可能性を感じました。

ACT 2はACT 1と違い、緊迫感のないあらすじを追うだけの演出でがっかりしました。たまたま観劇の翌日に鑑賞した映画「逃亡者」は緊迫感の連続で見入ってしまったので余計にそう感じました。ビル・サイクスが撃たれる場面はあっさりし過ぎて拍子抜けしました。この場面はもっと観客をハラハラさせるべきです。観客も野次馬の一員に巻き込んで客席からビル・サイクスを狙撃するくらいの演出があってもよかったと思いました。これは「オペラ座の怪人」にも使われた手法です。

舞台美術はミュージカル「BILLY ELLIOT」と同様に素晴らしかったのですが、残念ながら今回のミュージカル「オリバー!」は皮肉にもミュージカル「BILLY ELLIOT」の完成度が如何に高いかを証明する比較の対象となってしまいました。脚本もダンスの振り付けも楽曲も舞台構成も全て「BILLY ELLIOT」が断トツです。「BILLY ELLIOT」は子ども達がメインでその可能性を存分に引き出していましたが、今回の「オリバー!」は大人がメインで子ども達の可能性は二の次だったように思います。

ミュージカルのラストは全財産と仲間を失ったフェイギンが再出発する後ろ姿で幕を下ろしますが、全然インパクトがありません。映画では落ち込んでいるフェイギンにドジャーが事件現場ですった財布を渡します。フェイギンは元気を取り戻し「この家業は止められない」と言ってドジャーと二人で軽やかなステップを踏みながらロンドン橋を渡ります。この二人の後ろ姿には共感できる要素が沢山詰まっていて余韻が残る力強いシーンなので映画の終わりに相応しいと思います。実際の映画はオリバーが大伯父(大叔父)の邸宅に到着するシーンで終わりますがこのシーンは不要です。何故ならオリバーが助け出された場面で彼と大伯父(大叔父)が抱擁すればその後のことは容易に想像がつくからです。

映画でドジャー役を演じたジャック・ワイルドは歌えて踊れて役に成りきれる天才子役です。映画「小さな恋のメロディ」でもオリバー役のマーク・レスターと共演していますがワイルドの存在感がレスターを遥かに上回っていました。彼は2006年に53歳の若さで亡くなっており残念と言う他ありません。ワイルドを追悼する意味でもミュージカルのラストにドジャーを投入して終わりにしてほしかったと思いました。スタンディングオベーションはありましたが、「BILLY ELLIOT」ほどの熱は感じられませんでした。でもホリプロの堀社長が語る「子どもに教わるミュージカル」にはこれからも大いに期待したいと思っています。

*観劇日時 2021/10/21 17:30~

(See you)

追記

ホテルが消えた😱

今回はソワレだったので1泊することにしました。渋谷は5年ぶりです。以前はWWW、WWW X、TSUTAYA O-WEST、eggman、新宿ReNYなどのライブハウスによく行っていました。又姪がガールズバンドのボーカルだったからです。あの頃の渋谷も開発が進んでいましたが、今ほどではありませんでした。宿泊先は西口から徒歩5分の渋谷グランベルホテルです。心配していた到着ホームから南改札口→西口出口まではスムーズに行けました。ネットのお陰です。そのネットの写真を頼りにホテルに向かいましたが、写真のビルにホテルがないのです。一瞬騙されたと思いました。困惑している私を見かねてか声をかけてくれる人がいました。そのビルから出てきた30代の女性です。ホテル名を告げると聞いたことがないとのことでした。どうしようかと思案に暮れていたところ声をかけてくれた女性が戻って来てホテルの在処を教えてくださいました。たまたま近くにいた宅配便の人に訊いてわかったとのことでした。ネットの写真のビルの隣のビルでした。ちょっと奥まった所に幅3㍍の分厚い木製の回転式ドアがあるのみでそれがホテルの入口でした。ネットの写真は間違っているし入口は隠れ家風で分かりにくいときています。でもそのお陰で人の優しさに触れることができました。観劇する前に感激できたことは今日一番の収穫でした。SNSの記事の中に中国の人が日本人は高齢者に優しいとありましたがこれは本当です。