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ラストシーンのルイスの顔の表情に演技賞をあげたい!

映画「LOST IN THE SUN」のラストを飾るルイスの顔の表情にはこの映画の全てが集約されていて私達の感性を揺さぶります。必然的に引き継がれた各々の感性は各々の新しい物語へと発展して行くことでしょう。これがこの映画の醍醐味だと思います。

この映画の構成は現在→過去→現在の額縁型です。因みに あまんきみこ の「わらぐつの中の神様」も同じ額縁型でした。

最初の現在は一端途切れて、その続きを1週間前からの過去を経て現在に引き継がれるようにした額縁型の構成は素晴らしいアイデアだと思います。

この映画には二人の主人公が登場します。40歳台前後のジョンと13歳のルイスです。

「正直に話す 聞いてくれ」

映画はこのジョンの台詞で一端途切れます。この台詞はこの後に続く過去の1週間の出来事に偽りや秘密があることを示唆しています。そう、この物語はジョンの偽りから始まるのです。その偽りはルイスに向けられたものでした。

ルイスは母子家庭で品のある母親に育てられました。真面目で礼儀正しい敬虔なクリスチャンの彼はある日突然不幸に見舞われます。それは母親の死です。

「家族は母さんだけ」

このルイスの台詞には独りぼっちになった彼の計り知れない寂しさと底知れない不安が込められています。

彼は神父の計らいによって疎遠で馴染みのない母方の祖父母に引き取られることになりました。

ルイスは神父様に祖父母宅まで送ってくれるように頼みましたが車で2日もかかるので体よく断られてしまいました。

神父は彼をバスターミナルまで送り、切符と現金の入った封筒を渡して去って行きました。

この直後、ルイスの前にジョンが現れ、彼に「君の母親や祖父母に世話になった。面倒なんだが君の祖母に君を自宅まで送ってくれるよう頼まれた。どうする?」と問われました。ルイスは初対面のジョンに不信感を抱きながらも独りになるバス旅が嫌だったので意を決して彼の散らかった車に乗り込みました。

この選択がルイスに思いもよらぬ波瀾万丈な1週間をもたらすことになります。

ジョンの目的はいったい何なのでしょうか?

ジョンには1万ドルの借金があり借金返済のためにお金が必要でした。自分の持ち金とルイスの封筒に入っていた現金を勝手に足して貸金業の店に出向きますが、借金は2万ドルに膨れ上がっていました。それは返済期限が過ぎていたからです。残り1万4千ドルを返済できないジョンに腹を立てたボスは手下に命じてジョンをボコボコにしました。

車の中でジョンの帰りを待っていたルイスはなかなか帰ってこないジョンを探しに外へ出ました。路地でうずくまっているジョンを見つけて声をかけると、「バスで帰れ」と言われました。ジョンは想定外の哀れな自分に嫌気がさしたのです。彼はなけなしの金をはたいてバスの切符を買いルイスに渡すとサヨナラと言って車に向かいました。ルイスがバスに向かうのを確認してから車は走り出しますが、心に芽ばえたある感情を抑えきれなくなったジョンは車をUターンさせルイスが乗車したバスの前に立ちはだかります。側面の窓ガラスをたたいてルイスを探しますがバスはジョンの行動を無視して走り出しました。怒り心頭のジョンでしたが、そのバスが遮っていた反対車線の縁石にルイスの姿がありました。ジョンは安堵してルイスの傍らに座り「独りは嫌だ。母さんが死ぬなんて」と大粒の涙を流すルイスを「切ないよな」と言って慰めました。

こうしてジョンとルイスの旅は再開されました。後部座席で眠るルイスの寝顔を見てジョンはある映像に苛まれました。

朝、ルイスに起こされたジョンはルイスのスキー板を売却しそのお金で腹を満たしますが母親が最後に買ってくれたスキー板だったのでルイスの機嫌を損ねてしまいました。
その不機嫌を直すためにジョンはルイスに車の運転の仕方を教えました。ハンドルを握るルイスの弾ける笑顔に気を良くしたジョンは一計を案じます。それはルイスに借りを作るように仕向けることです。その手段として用いられたのが銃でした。ジョンは銃を取り出し銃を持つ理由や銃の効果的な用い方などを言葉巧みに話して聞かせ、「撃ってみる?」と誘います。興味を抱いたルイスが銃を取ろうとした時ジョンはサッと銃を引っ込め「俺に貸しができるぞ」と言って条件をつけました。ルイスはその条件をのんで4発撃ちストレスを発散して満足げでしたが一番満足したのはジョンでした。何故なら強盗のシナリオを描くことができたからです。

車中泊の朝、ルイスはジョンに起こされ「貸りを返せ」と言われました。車が向かった先は雑貨店でした。ルイスは運転席に移動させられ絶対にエンジンは切るなとジョンに命じられました。ルイスは前方を直視していましたが店内の様子が気になって目を遣ると銃を店主に突きつけレジから掴み出した大金を紙袋に詰めるジョンの姿が見えました。ルイスの驚きはそれだけではありません。前方から大人の男性がやって来たのです。ルイスは咄嗟の判断で車を前進させクラクションを鳴らしながらその男性の行く手を阻もうとしました。怒った男性がルイスを車から引きずり出そうとした時、紙袋を手に持ったジョンが現れ、
「その子に触るな!」と言って銃を構えました。男性が手を挙げて後退りする間に車に乗り込みルイスの運転で一目散に逃げました。
ルイスはこの突発的な強盗事件に巻き込まれたショックから嘔吐を催し車を止めました。大金を手にして狂喜乱舞していたジョンは慌てて大金の入った紙袋とルイスを後部座席に移し、追っ手が迫って来たので慌てて車を急発進させますが、時すでに遅し。ルイスは我慢できなくなって嘔吐するために後部ドアを開けてしまいました。大金の入った紙袋は風にあおられて嘔吐と共に車の外へ吐き出されました。追っ手の車は現金を回収するために追うのを止めて急停車しました。
ジョンはルイスの行動に激怒し罵声を浴びせますが、このシーンでは音量が抑えられています。ジョンの好感度を下げたくないという制作者側の意図がこの演出から伝わって来ます。

この夜ジョンはルイスを車に置いて出かけましたがピックアップトラックに乗って帰って来ました。足が付かないように車を乗り替えることにしたのです。
ルイスは呆れてヒッチハイクをすると言い出しました。ジョンは取り敢えずベッドで寝ようと提案しヒッチハイクを思いとどまらせることが出来ました。相手の欲することを瞬時に読み取るジョンの才能はなかなかのものです。

この夜は1台のベッドに2人で寝ました。寝つかれないルイスはジョンを起こして強盗をした理由を問いました。
「僕を送るため?」
「そうだ。」
「車が家なの?」
「無一文だからな。」
「無職かよ!」
この会話から素性が明らかになってきたジョンに対するルイスの態度は一変します。

翌日、ジョンは車を小さめの雑貨店に横付けしました。ジョンが車の外に出るとルイスはドアをロックしエンジンを始動しました。ジョンはドアを開けるように命じましたがルイスは拒否しました。
「2日で着くと言ったじゃないか。おじさんは嘘つきだ!」

この「おじさん」の呼名は3度目ですが、この呼名がある時点で「ジョン」に変わります。それはまだまだ先のことです。

ドアのロックを解除させるためにジョンは前回と同様にルイスが欲する提案をしました。

「明日送り届ける。それには俺が必要だろう?」

ルイスが車のドアを開ける映像と店のドアが開く映像を重ねたシーンは秀逸で編集者のセンスが光ります。

ルイスは店に入るなりマンガ本のコーナーに直行しました。後から店に入って来たジョンに店主は、「息子さんかい?」
と訊ねました。ジョンは、
「自慢のせがれだ!」
と答えました。

店主の隙をついて銃を突きつけたジョンはレジから紙幣をつかみ取り、レジ側に落ちた紙幣を拾うようにルイスに命じました。屈んだルイスは棚にある銃に気づいて店主と目を合わせますが、何もなかったような態度でマンガ本の代金をレジに置き、拾った紙幣を床に放りました。これが何を意味するかは一目瞭然です。

しかし、店主はルイスの思惑通りには動いてくれませんでした。ジョンが店を出た後に店主は店内からドアに向けて発砲したため逃走の時間を与えることになってしまいました。

この後、ジョンとルイスは閑散とした食堂に入り食事をします。ジョンは上機嫌でした。
「今は最高の気分だ!」
「不満そうだな?」
「楽しくないのか?」
「子供ならはしゃげよ。」
これに対しルイスは、
「くだらない!」
「楽しくない!」
と言って価値観の違いを鮮明にしました。
ジョンは店内に店員が一人しかいないことと冷凍庫が別室にあることに目をつけて、アイスクリームを注文しました。店員が別室に入るのを確認してからすぐに席を立ちルイスに「行くぞ!」と言って店を出ようとしますが、ルイスは「アイスクリームは?」
「お金はあるのに!」
と言って席を立とうとしませんでした。
店員がアイスクリームをテーブルに置いた時、ジョンは車のそばにいました。ルイスは即座に
「気分転換だって。」
と言って店員を安心させると共にアイスクリームをシェアしませんか?と提案します。店員がその申し出を丁寧に断ってテーブルから離れると外にいるジョンに向かって口をイーにして駄々をこねました。ジョンは根負けして店に戻り食事の代金を支払いました。
「本当にいい子ね。」
「あの子のお母さんは偉いわ。」
「そう伝えておくよ。」
ジョンは不機嫌な顔で笑えないジョークを飛ばし食堂を後にしました。

駄々をこねたこの日の夜は河原で車中泊をしました。ルイスが目覚めた時、自分がジョンの分厚い肩を枕にして寝ていたことに気付きはっとして離れます。こういうちょっとした伏線があるかないかで映画の善し悪しが決まります。

ルイスの後に目覚めたジョンは盗難車のピックアップトラックを乗り捨ててヒッチハイクすることにしました。足がつくことを恐れたからです。

その選択は正しい反面、新たな危機を招く一因でもありました。何故ならパトカーを止めてしまったからです。

「ヒッチハイクは、禁止されている。特に日曜日は!」

ジョンは車の故障を理由にしましたが車の車種をルイスがトラックと言ったのに対してジョンが普通乗用車と言ったので巡査は疑念を抱き署まで同行するように求めました。ルイスは少し考えてからジョンを連行する巡査に“先週亡くなった母親を祈るために僕らは教会に行く途中です”と伝えると巡査はいたく同情して二人を教会まで送ってくれました。これでルイスはジョンへの借りをきっちりと返しました。機転の利くルイスの才能もなかなかのものです。

窮地を脱したジョンは先を急ごうとしましたが、ルイスは教会にいそいそと入って行きました。ジョンは仕方なくルイスの後を追って教会に入りました。賛美歌を口ずさむルイスを見て自分とは明らかに違う育ち方をしていることに気付き戸惑いを隠せませんでした。
牧師は新入りの二人を前に呼んで教会員に紹介しました。ルイスは笑顔で歓迎に応えましたが、ジョンは終始、無愛想でした。

この日は教会の宿舎に泊まりました。ジョンは夜明け前にルイスを起こし“ここにいたい”と言って激しく抵抗するルイスを無理やり外に連れ出しました。

ルイスにとっての家とは物理的な快適さではなく心の充足が得られる場所なのです。母と確執のあった祖父母との暮らしで心の充足感が得られる保証は何処にもありません。無神経なジョンの行動に対する怒りがマックスに達したルイスはボストンバッグを道ばたに置きその上に座り込みました。

「大嫌いだ」
「あんたはオオカミだ」
「もうイヤだ」
「やめた」

それでもジョンは けんかはしないと言ってヒッチハイクを続けピックアップトラックを止めることに成功しました。ジョンは柔らかな声でルイスを誘い続けた為に、今度はルイスが根負けして荷台に乗り込むことになりました。

このルイスの決断は彼に加速度的な成長を促します。それは新たな出逢いによって齎されるのです。

モーテルに着いたジョンはルイスに部屋の鍵を渡し荷物を運ぶように命じました。ルイスは「いつ戻る?」と訊きました。独りになるのがよっぽど嫌で不安だったのでしょう。ジョンの帰りを待つルイスはベッドで漫画の意味深な一コマを見つめていました。するとジョンと女性の声がしたのでドアを開けたら二人は2階に上がって行きました。その様子を自分と隣部屋の少女もドアを開けて見ていました。目が合ったので手で合図をしようとしたらドアを閉められてしまいました。ルイスは少女のことが気になって隣接する板壁をノックしてみたら、少女の部屋から応答のノックが返ってきました。ルイスは一瞬ひるんで向かい側の壁に寄りかかり何度もノックする音をニヤつきながら聞いていましたが睡魔に襲われそのまま寝入ってしまいました。

翌日、ドアをノックする音でルイスは目を覚ましました。身仕度を整えて外に出ると、そこには最悪の光景が用意されていました。それはジョンが二人の女性と一緒にいたからです。その内の一人は13歳のローズで昨夜ルイスが無視した相手でした。気まずい雰囲気の中、ルイスとローズはステーションワゴンの荷室に座らされました。ルイスはローズに詰問されましたが、無視したことが会話のきっかけとなり功を奏しました。ルイスは助手席に座っているもう一人の女性を見ながら、
「君のお母さん?」とローズに訊ねました。
「一応、そうみたい。」
「あんまり似てないから違うのかと思った。」
「パパ似だから。」
「僕はママ似だって。」
この会話はこの映画の必然性を担保する重要な台詞で用意周到な脚本家の力量を窺い知ることができます。

ジョンと一夜を過ごしたもう一人の女性の名前はメアリーでヒッチハイクをするジョンを気に入り同乗を許したのです。ジョンが運転することとニューメキシコまでのガソリン代を支払うことが条件でした。

その夜、二組のカップルは遊戯施設で別々の行動を取り、恋心を育んで行きました。それらは新しい家族を予感させるものでした。

ルイスとローズは誰もが応援したくなるようなお似合いのカップルでした。この二人のあどけない会話からローズとルイスの心の内を読み取ることができます。

R「たまに逃げたくなる!」
L「そうなの?  僕には逃げる場なんてない。どこに逃げる?」
R「海岸とかは?」
L「行ったことないよ。」
R「私なら海岸の近くに逃げる。あなたも来ていいよ。2人で一緒に砂の城を作ろう。魚を釣って食べるの!」
L「悪くないね。」
R「どこかに逃げられるとしたらどうする?」
L「どこでもいいの?多分、家に帰る。ダサい答えだ。」
R「家はニューメキシコに?」
L「どうかな?」
(見つめ合う二人)

R(ローズ)L(ルイス)

今のルイスは宙ぶらりんの状態で何処にも帰属していません。 内から外への内(家)がないのだから逃げるという行為そのものが成り立たないのです。

ルイス程ではありませんが私にも彼の心持ちに似た経験をしたことがあります。私は二十歳の5月に進路変更と母の看病のために会社を辞め帰郷しました。6月に母を見送った後、父に養ってもらいながら大学入試のための勉強に励みましたが、その6ヶ月間は身分のない自分でいることへの不安感に苛まれる毎日でした。

solidarity

ローズの「あなたも来ていいよ」には傷つきたくない乙女心が見え隠れしますが、ルイスに対する恋心を抑え切れないローズは「2人で…」と本音を口にしてしまいました。それに対する「悪くないね」は間接的な言い回しでルイスの自信のなさを象徴しています。
ローズの「どこかに逃げられるとしたら」の問いに対するルイスの「家に帰る」は答えになっていません。今の彼に必要なのは逃げる場所ではなくて安住出来る家庭なのです。それがニューメキシコにある祖父母の家にあるのかすら皆目見当がつきません。それが自信のなさの正体なのです。

でも翌日のルイスは違いました。歩道に座り込んだ二人は指ならしをして遊びます。指ならしが上手に出来ないローズにルイスが語りかけました。

L「おばあちゃんちの辺りでは雪が降るって」
R「雪は見たことない」
L「そうなの?興味があるなら見に来なよ。きっと楽しい!」
R「すごく楽しそう」
L「いいね!」

L(ルイス)R(ローズ)

昨日と打って変わってルイスは自信に満ちています。相思相愛の確信がルイスに明るい希望を与えたのです。そのお陰でおばあちゃんちを前向きに捉えることができるようになりました。

そんなルイスと対照的なのがジョンです。彼は金貸しやに電話して4千ドルを返金すると伝えますが相手は返済期限を過ぎたペナルティの加算金1万ドルも支払うように要求してきました。ジョンは加算金が欲しければ自ら取りに来いと返答しましたが、相手からルイスの祖父母宅の住所にかと言われてジョンは驚愕します。
金貸しやに6千ドルを支払う際にルイスの了解なしに彼のお金も加えましたが、お金と一緒にルイスの祖父母宅の住所が書かれたメモが挟み込まれていたのです。

ジョンは真っ先に1万ドルの返済を決意しました。何故ならルイスや祖父母に危害が及ぶことを恐れたからです。

その為にジョンが先ずやらなければならないことはメアリーとの離別でした。幸せの絶頂にあったレストランの雰囲気はジョンの一言で修羅場と化します。

M「実家が近いの」
M「 泊まっていく?」
J「いつまでだ?」
M「好きなだけ」
J「あまりいい考えではないな」
J「遊びの時間はもう終わりだ」
J「俺たちはおいとまするよ」
M「最低!こんな男だとは」
J「相手をしたのは君だ」
M「ルイス」
M「ジョンがあんたといる理由は?」
L「送ってくれてる」
M「なぜか分かる?」
J「そこら辺でやめとけ」

M「なにがあったか当ててあげる」
M「私の勘だとジョンは失敗ばかり犯してきた人ね」
M「女には不自由しないけど誰とも続かない」
M「何もかも失敗ばかりで自暴自棄になってるのね」
M「それに孤独だわ」
M「だから連れ回している」
M「そんなところね」
R「ママ」
M「私は大丈夫」
M「この男とは違う」
M「こういう男には人生を生き抜くガッツがないの」
J「もういい」
M「つらい思いするのはこの子よ」
M「気づきなさい」
M「ジョンはあんたを利用している」
M「私も使い捨てよ」
M「それがこの人の生き方」
J「聞いてられるか」

M(メアリー)J(ジョン)

ジョンは席を立って外へ出ます。ルイスはメアリーの顔をガン見しジョンの跡を追いました。

外へ出たルイスはここで初めて、「ジョン」と呼びます。ジョンはメアリーの車の中で銃弾を装填していました。彼は銀行強盗の準備をしていたのです。それを察知したルイスは何度も「ジョン」と呼びながら銀行強盗をやめるように説得しましたが、ジョンに「レストランに戻れ」と言われてしまいました。

ジョンが銀行に入って行くのを見ていたルイスはレストランから出て来たメアリーに祖父母宅まで送ってあげると言われました。

その言葉に従って3人で車に乗り込もうとした瞬間、銀行の窓ガラスが割られ、そこからジョンが飛び出して来ました。ルイスは躊躇なくメアリーから車のキーを奪い車をバックさせてジョンを車に乗せ逃走しました。警備員に発砲されましたがハッチバックのガラスが割れただけで二人は無事でした。

このルイスの咄嗟の行動をどう見たらいいのでしょうか?

それは敬虔なクリスチャンとして
マタイ伝の聖句「人もし汝に一里の公役を強なば、彼と共に二里行け」に従ったからでしょうか?
それともジョンが自分と同じ「孤独」な存在であることに共感して可哀想に思えたからでしょうか?
それともまたジョンと過ごした1週間がルイスの寂しさと不安な気持ちを彼が埋めてくれてジョンに頼る気持ちが強くなっていたからでしょうか?

これを人は「絆」と呼びます。

銀行から逃走した二人は廃屋を見つけその庭で焚き火をしました。
銀行強盗が成功して上機嫌と思いきやジョンは意気消沈していました。その原因はメアリーが自分のことを言い当てていたからです。ジョンは言います。こうなったのは誰のせいでもなく全部自分の責任でその重さを痛感していると。

ジョンは悪事を働いて人に迷惑をかけますが誠実な一面をあわせ持つ人物でもあったのです。

後悔や重い責任に苦しむジョンにルイスは“秘密も同じだね”と言いました。ジョンは“秘密も苦しいよな”と賛同しルイスの秘密は何だと訊きました。彼は“ローズが好きだった”と言うとジョンは“バレバレだよ”と言って笑いを誘いました。
ルイスは真剣な眼差しで“あんたの秘密は何?”と訊きました。ルイスが話題を変えた目的はジョンの秘密を知ることにありました。メアリーのジョンに対する辛辣な言葉からルイスはある疑念を抱いてそのことを明らかにしたかったのです。

「いつか話すかもな。」

ここでは残念ながらルイスが欲する答えは得られませんでした。

この日の夜は廃屋に寝床を設けて別々に寝ました。
翌朝、ルイスが目覚めたとき、ジョンの姿はありませんでした。ルイスは「ジョン」と何度も呼びながら彼を探しましたが室内にはいませんでした。
ジョンは冴えない顔で地平線から顔を出す日の出を見ていました。ルイスが玄関を出てジョンに声をかけると彼は「見ろよ」と言いました。ルイスはジョンの背中とその先にある日の出を見ました。

このシーンを見た時、何の為にあるのかが分かりませんでした。でも、ふと、気がつきました。そうです。この映画の「タイトル」です。

「LOST IN THE SUN」

lost には「道に迷った」「途方に暮れた」という意味があります。
lost inには「(物事・考えに)ふける」という意味 があり、『lost 《in~》』《~に》に従うと、この映画のタイトルは「太陽にふける」となります。これだと何だか変です。でも「太陽」を「ルイス」に置き換えたらどうでしょうか?
(SUNとSONは発音が同じ)
日の出を見るジョンはルイスの将来のことで途方に暮れていたのではないかと思います。また、これをジョンの「葛藤の始まり」と捉えるとこのシーンはこの映画のタイトルを含めて象徴的な役割を果たしていると思います。

二人はメアリーのワゴン車で町まで移動しジョンはガソリンをルイスは食料を調達しました。ルイスは食料品店のラジオのニュースを聞いて自分たちが指名手配されていることを知ります。車に戻ったルイスは怖くなってジョンに“どうしよう”と言うと彼は“どん詰まりだな”と言って目頭を左手で押さえました。すると、ルイスの口から意外な言葉が返ってきました。

「メキシコに逃げよう」
「お金も十分にある」
「車も変えよう」
「どう思う?」

それはジョンが待ち望んだいたルイスとの絆の誕生でした。それが彼の目的だったのです。ジョンは「ルイスはいい子だし一緒にいて楽しい」と言っていました。
でも欲しかったものが手に入ると人は「それでいいのか?」と自問自答するようになります。つまり相手への思いやりが芽ばえ客観的になれるのです。ルイスをこのまま自分の生き方に同調させていいのか?たまたま車の後方で楽しそうに遊んでいたルイスと同年齢の少年達の姿を目の当たりにしてジョンは「それはしてはならない」と悟りました。
彼は中古車を購入しニューメキシコにあるルイスの祖父母宅に向かうことにしました。
車中泊をした翌朝、ルイスは車から降りてローズと一緒にいたときに買ってもらった服に着替えていました。そこにジョンが起きて来て“仕上げだ”と言いながらループタイを締めてくれました。それに髪型も整えてくれました。

J「できたぞ」
J「悪くない」
L「印象をよくしたい」
J「行くぞ」

J(ジョン)L(ルイス)

途中でガソリンスタンドに寄りルイスにガソリンを給油させ、ジョンは代金を支払うために店内に入り支払いを済ませて外へ出ようとした時、背後から店主に銃を向けられました。
店主は新聞に載っていた指名手配の二人の似顔絵を見てジョンに気づかれないように警察に電話をしていたのです。

「正直に話す。聞いてくれ」

ここで途切れた現在は1週間前の過去を経て現在に戻り続き話へと繫がって行きます。

「あの子は俺の息子だが」
「父親 だと名乗る資格がない」
「幼い時に捨て」
「ウソまでついてる」
「いつも適当な言い訳をして」
「間違いを重ねてきた」
「そんな生き方しか」
「できないのに」
「あの子を巻き込んで」
「今はただ息子の人生を」
「壊したくない」
「正しいことをさせてくれ」
(サイレンの音)

ジョンは店を出て車の窓を叩きます。

J「荷物を持って降りろ」
L「サイレンだ」
J「住所を覚えているか」
L「どこの?」
J「おばあちゃんの家の住所」
L「何なの?」
J「1人で行け」
L「そんなのイヤだ」
J「店の主人に約束した」
J「逃げないって」
J「ここでお別れだ」
J「お前にふさわしい
J「真人間になりたかった」
J「でも俺にはそんな風に」
J「生きる勇気がない」
J「分かってくれ」
J「この指輪をやる」
J「持っていけ」
J「行くんだ  心配するな」
J「お前なら大丈夫  さあ走れ」
(泣き顔のルイス)
L「イヤだよ  僕も残る」
J「ダメだ  行ってくれ」
L「イヤだ  一緒にいる」
J「さっさと行け  逃げろ」

J(ジョン)L(ルイス)

ルイスは全速力で逃げました。
その後にパトカーがやってきて、ジョンは後ろ手に手錠をかけられました。

このシーンで光るのはルイスとジョンのお別れですが店主の判断も見逃してはいけないと思います。子を思う親心は万国共通なのだと痛感させられます。これも人間性なのです。

ルイスは逃げる途中で貨物列車に跳び乗りました。
彼は真っ先にループタイを外し、ジョンの指輪に紐を通して首にかけました。ジョンとのお別れを通してルイスの疑念は確信に変わりましたが、まだ確証を得るまでには至っていませんでした。

ルイスは石材を積んだ貨物車で寝ていましたが、貨物列車が止まった衝撃で目を覚ましました。
「ファーミントンで点検します」
のアナウンスを聞いて係員が近付いて来たので貨物車から降りて走って逃げました。

ルイスは歩き続けて祖父母宅に向かいました。ひたすら歩き続けてもう限界という時に目に飛び込んできたのは古びた納屋に駐めてあったオンボロのピックアップトラックでした。中を覗くとキーがささったままの状態だったので誰もいないことを確認して車のドアを開けました。その時です。
「迷子か?」
と大きな声がしてすぐにドアを締め車から離れました。人は追い込まれると間違いを犯すことがあります。ルイスさえも。それが人間性なのです。

ルイスはファーミントンに行きたいので送って欲しいと声の主に頼みました。彼はルイスの胸に光っている物をくれるなら送ってやると言いました。

「どうする?」

ルイスは胸の光る指輪を見ながら歩き続けました。それが彼の答えでした。

やっとのことで祖父母宅にたどり着いたルイスは玄関のドアをノックしました。ドアを開けたルイスの祖母は神様に感謝して彼をハグしました。

ルイスは顔の汚れを落とし鏡を見ました。そこに笑顔はありませんでした。祖母が洗面所のドアを開けて入って来たので作り笑いをしました。

「会えてうれしいわ」
「ここはあなたの家よ」

祖母はルイスをママの部屋に連れて行きました。そこには自分が生まれたベッドや所狭しと飾られたママの写真がありました。

「見て」
「ママとパパとあなたの写真」
「生後数か月の頃よ」

ルイスの目は涙でうっすらと光り口角が上がります。この表情が素晴らしいのです。

その写真にはジョンに抱かれた自分がいました。

「僕は独りぼっちじゃない」

ルイスの頭の中ではこの1週間の出来事が走馬灯のように駆け巡っていたに違いありません。
おじさんではなくジョンでもない「パパ」と過ごしていた1週間の出来事を全部「パパ」に置き換えると全て合点がいきます。

この映画はラストシーンのルイスの顔の表情をフォーカスするために「パパ」という言葉を極力使わないようにしていました。使われたのはローズと祖母の台詞だけです。

ルイス役のジョッシュ・ウィッジンズのラストシーンの顔の表情はフォーカスに値する名演技だと思います。

問題山積のルイス!
今後の展開が大いに気になるのは私だけでしょうか?