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LEON

落ち込んだとき、普通の時間の流れとは違う時間の流れで生きてみたくなる。その疑似体験をできる1番手っ取り早い方法は、洋画を観ることだった。洋画は時間の流れが独特だ。その世界に集中すると、わたしの時間の流れも変わる。観終わった時、脳内で時差を感じる。それが好きだ。

ふと、LEONを観たくなった。言わずと知れた名作を22歳のうちに観たいと思った。LEON。グロテスクな描写が苦手な自分に合うかどうかわからなかったが、観てみると、合う合わないなんてまったく問題じゃなかった。心にしっかりと跡を残して今もジンジンと響いている。痺れている。この痺れが褪せないように、いま、特に好きなシーンを残しておこうと思う。(以下ネタバレ含みますのでご注意を)


レストランの中に居るレオンは、外でマチルダが若い男性に話しかけられているのを観てすぐ駆け出し、ふたりを引き離しマチルダに諭すように話す。
レオン「マチルダ 変なやつと話をするな」
マチルダ「…なに言ってるの?ヤニを食らってただけよ」
レオン「…下品な言葉は使っちゃだめだ。上品な話し方をしろ。」
マチルダ「…OK」
レオン「タバコもやめろ」
マチルダ「OK」
レオン「…やつには近づくな。仕事の話は5分で済む」
マチルダは最初少し嬉しそうな表情で、女の子の顔をしながらレオンの話を聞いていた。

この会話をした後、家に戻りベットに大の字になったマチルダが突然こう切り出す。
マチルダ「レオン、あなたに恋してるみたい。初めての恋よ」
思わず牛乳を吹き出すレオン。「恋に落ちたことがないのに、どうして分かる?」
マチルダ「…そう感じるのよ」
レオン「…どう?」
マチルダ「お腹よ。温かいの。じっと締めつけられるみたいだったけど、それがなくなったわ」
レオン「…お腹の痛みがなくなってよかったよ。ただそれだけさ。恋とは関係ない。…仕事に遅れるからもう行く。」
その後準備をして家を出るが、その言葉が頭から離れないレオン。大人ぶるが動揺を隠せない様子が、年だけ取って中身が大人になれなかったレオンそのものなのだ。

レオンが仕事に行っている間に殺された家族が住んでいた自分の家に行くマチルダ。そこでたまたま家族を殺した張本人と居合わせ、どんな奴かを知る。レオンの家に戻ってもマチルダの頭の中はそのことでいっぱい。そんな中帰ってきたレオンは、似合わない白いショッピングバッグを持っていた。
彼は言う。
「君に 贈り物だ。」
それを無視するマチルダ
レオン「…開けてやろうか?」
それを開けるとピンクの女の子らしいワンピースが。「どうだ、すてきだろう?」

どう見ても普段のマチルダなら選ばないような服だが、それを選ぶレオンの慣れてなさと、彼なりの一生懸命さが観ててむずがゆい。死ぬほど落ち込んでいるマチルダに、タイミング悪く初めてのプレゼントを送るレオン。そのぎこちなさ。そして後にマチルダがこのワンピースを着てレオンに告白するシーンがある。その時の、彼女がこれを着てるのを観た時のレオンの表情がなんとも秀逸だ。

ある日、マチルダはレオンに弟の仇の殺しの依頼をする。しかしレオンはそれを断る。
マチルダ「とても意地悪ね。平気で人を殺すくせに私の敵は殺してくれないなんて」
レオン「復讐はよくないぞ、はやく忘れた方が良い」
マチルダ「忘れろ?床に書かれた弟の死体の線を見たのよ。あいつらの頭をぶっ飛ばしてやりたい」
レオン「人を殺すとすべてが変わる。取り返しがつかない。目を片方開けて寝る羽目に。」
マチルダ「そんなことはどうでもいい。わたしが欲しいのは愛か死よ。…それだけ。」
そのやり取りの後、マチルダは銃のロシアンルーレットをレオンに仕掛ける。
マチルダ「私が勝ったら生涯あなたと一緒に居させて」
レオン「負けたら?」
マチルダ「前みたいにひとりで買い物を」
レオン「君は負けるぞ。装填したときの音でわかる。」
マチルダ「だからなに?私が死んだら悲しむの?」
レオン「…いいや」
マチルダ「…それは本心ね?私への愛がないことを願うわ。もし私への愛がひとかけらでもあったらこのことを後悔するから」
そう言って装填し、こめかみに銃を当てるマチルダ

マチルダ「愛してるわ」
咄嗟にレオンは彼女の手を握り銃を外に向け放つ。ロシアンルーレットの結果、あのまま打っていたら彼女は死んでいた。彼をそれはわかっていた。
マチルダは言う。「私の勝ちよ」

後日、レオンがマチルダの命を救ったある夜、マチルダはレオンがプレゼントしてくれた服を着てレオンに"初体験"の相手になって欲しいと伝える。しかしレオンはそれを断る。そこでレオンの哀しい過去を初めてマチルダに話すのだった。
マチルダは初体験の相手になってくれなくても良いから私と一緒にベッドで寝て欲しいとお願いをする。彼女は彼の頭を倒し、靴を脱がし、彼の腕を自分に巻きつけておやすみ、と伝えた。彼は、おやすみ、と答えた。
次の日の朝、目が覚めたレオンは狙われてるのではないかといつもの癖ですぐ身体が反応する。しかしそんなことはなく、同じベットで既に起きていたマチルダが彼を見ていた。
マチルダ「よく眠れた?」
レオン「よく眠れたことなんてない。いつも片目を開けて寝てる」
マチルダ「そうだったわね。でも、片目を開けてあんなにイビキをかく人を見たことないわ」
レオン「イビキかいてたのか?」
マチルダ「赤ちゃんみたいに可愛くね」

マチルダがベットから出たあとも、そのベットの気持ちよさを噛みしめるようにするレオン。レオンはまた、マチルダによって知らなかった幸せを知る。もう、観葉植物のような根のない生活、マチルダのいなかった生活には戻れなくなっているレオンがそこにはいるのだった。


レオンとマチルダ、ふたりのすべての描写が最後のふたりのやり取りとレオンの最期、そしてラストシーンに繋がっている。特に上記のシーンを噛みしめれば噛みしめるほどラストシーンがたまらない。ジンジンと心が痺れている。あまりに名シーンすぎる。文字起こしすればするほどまた観たくなる。最高だ。

寡黙である分行動のすべてに深い愛を感じるレオンと、おしゃべりである分言葉のすべてに必死の恋を感じるマチルダの、ふたりの間にしか生まれない空気感が、可愛くて優しくて一生懸命で愛しい。

LEONは言わずと知れた不朽の名作だ。この映画に出逢えて良かった。最高の気分だ。痺れている。震えている。きっとこの映画以上に痺れる洋画には、しばらく出逢えないだろう。それでいい。それがいい。そんな映画だった。

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