見出し画像

【特集:みんながつながるケアのまち②】地域医療の視点から~地域ケア拠点『菜のはな』の取り組み~

※この記事は「ケアラータイムズ 第5号」(2023年4月号)からの転載です。

2025年問題を目前に、「超高齢化社会」となる日本に住む私たちにとって、介護の問題はもう待ったなしの状況です。これまで家庭に丸投げされてきたケアから、まち全体、社会全体でのケアに転換していかなければ、日本社会は立ち行かなくなるでしょう。私たちはどんなまちを目指していくべきなのか、参考となる先進事例や新しいシステムはあるのか、さまざまな視点から、目指すべき“ケアのまち”について考えていきます。

地域ケア拠点『菜のはな』
2012年開設。東埼玉総合病院内に設置されている地元医師会の地域連携室。幸手市から委託を受け、在宅医療コーディネートをはじめ、『暮らしの保健室』の出前、医療・介護専門職の交流・研修会開催、市民主催の地域ケア会議開催など、地域の医療・介護の相談が“まるごと”できる場所となっている。

◆回答者・中野智紀さん(社会医療法人JMA東埼玉総合病院 地域糖尿病センター センター長/地域ケア拠点 菜のはな 室長/医師)
◆聞き手・吉良英敏、ケアラータイムズ編集部

Q 中野先生が提唱され、地域包括ケアシステムの先進事例として注目を集めた『幸手モデル』。その特徴について教えてください。
A 『幸手モデル』で大切にしているのは、市民の自発的な地域活動です。マルシェ、サロン、寺子屋、PTAなど形は様々ですが、市民主体のまちづくりを行う人のことを“コミュニティーデザイナー”と呼んでいます。市民活動というと、町会・自治会のイメージが強いと思いますが、そこは手挙げ制。町会で集まるもよし、好きな仲間で活動するもよし。そこに私たち医療関係者が積極的に入り、地域包括ケアシステムを実現しているのが大きな特徴です。

Q なぜまちづくりに医療関係者が入っていくのですか?
A 私は糖尿病の専門医です。糖尿病は、生活習慣が大きく関わる病気なので、病院で治療して終わり!とはなりません。食事や運動など日常生活の見直しが必要ですが、医師は患者さんの生活まで見守れないため、まち全体でのケアが大切です。『菜のはな』が運営する『暮らしの保健室』では、医療関係者がコミュニティに赴き、病気のお話をしたり、専門医につなぐことも。高齢者の不安が解消され、安心して暮らせるまちになると考えています。

Q 『とねっと』の仕組みも、暮らしの安心につながっていますよね。
A そうなんです。『とねっと』は、埼玉県利根保健医療圏で約3万5千人が加入している、地域医療ネットワークシステム(下図)。例えば、意識を失った患者さんに、かかりつけ医や投薬情報、アレルギーについて聞くことはできませんよね。『とねっと』に加入していれば、救急隊員・病院・薬局が緊急時に患者さんの医療情報へアクセスでき、迅速な搬送・処置に役立ちます。しかし、2023年度で『とねっと』の終了が決定してしまいました。

Q 『とねっと』終了について、立ち上げ当時から尽力された中野先生は、どう受け止められていますか。
A 非常に残念です。10万人当たりの医師数が日本一少ない埼玉県では、限りある医療資源を有効活用すべく、あらゆる工夫が必要でした。その戦略の一つが『とねっと』。2012年の開始以来、10年間の貴重なデータが保管されており、私たちの将来の医療や健康を考える上で、PHR(パーソナルヘルスレコード)には石油ほどの価値があります。現在は、システムやデータを残す方法があるのか、個人でデータをダウンロードできそうか等検討中です。国がマイナンバーカードを医療に活用するまで時間がかかりそうなので、『とねっと』が先進事例として果たす役割は大きいと思います。

Q 『幸手モデル』も『とねっと』も、開始からちょうど10年。まちが10年でどう変わったか、そしてこれからどう変わるべきか、お考えを聴かせてください。
A この10年で、まちは成長してきたと思います。市民と行政と医療関係者がつながり、まち全体でのケア=“ケアリングコミュニティ”が形になってきています。これからは、社会的基礎単位を「家族」から「個人」に変えるべきなのではないでしょうか。「家族の中で介護する」のではなく、「ケアリングコミュニティの中で、個人が好きな仲間と生きていく」というイメージ。国が個人の活躍をサポートすれば、結果的には国の利益になります。個人が仲間と生きていく、ケアリングコミュニティの編み直し。今はそんなフェーズを迎えているのではないでしょうか。


・とねっと http://www.saitama-tonet.jp/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?