やあ。あんた、男前だねえ。私の好みの顔。でも髪も髭も少し伸びすぎだと思うよ。
　おや？　その顔は驚いてるね。
　私の声が聞こえているみたいだね。
　うひひ、びっくりしなくていいんだよ。

　私は魔女。鏡の中に住む魔女さ。世界中のどんな鏡にも現れることができる。
　でも、こっちから覗かれてることにすぐ気付く人間は珍しい。あんた、魔法使いの才能があるかも。

　良かったらあんたも鏡の魔人になれば良い。鏡の魔人の給料って、けっこう良いのよ。魔女よりは少し安くなるけどさ、男も需要があるのよ。
　鏡屋なんかになるよりおすすめ。

　あ、ちょっと待って。
　今、病院へ行こうとしただろう？
　自分の頭がおかしくなったと思っただろう？
　いひひ、大丈夫。変な鏡に対する正常な反応だよ。まあとにかく話を聞くだけ聞いて聞いて。

　こっちから世界を覗くとさ、人の心がよく見えるの。鏡の魔女になって、心を写し取るスキルが身についたわ。三時間の研修を受けたら簡単にできるようになったわ。

　それでね、私、これを仕事にしてるの。人の心を鏡屋へフィードバックするアルバイト。
　人の心一つが一ミラポイントになるのよ。百ミラポイント貯まると、百万円もらえる。あとね、秘密の質が良ければボーナスポイントもつくわ。

　あんたの秘密、心の中の秘密‥‥やばいね。すごくいいボーナスになりそう。
　これは家族や友だちにばれたら大変だよね。

　大丈夫よ。だれにも言わない。
　私も鏡屋も、個人情報の取り扱いにはとても慎重です。

　おや？　その顔は不機嫌だね。ウフ。不安？　それとも嘘ついてると思ってるのかい？
　あ、ちがうか。覗かれた心が何に使われるか、ね。それはだれでも気になるわよね。

　ざっくり言うと、人の心は魔法の鏡を作る材料になるの。　
　魔法の鏡一つ作るのに、百万ポイントぶんの心がいるのさ。

　その魔法の鏡は、鏡の女神様に献上されるってわけ。鏡屋は、年に一度、女神様に魔法の鏡を納めるのよ。そうしないと呪われて、鏡の中に閉じ込められる謹慎処分。

　女神様は、魔法の鏡で、密かに鏡業界へ迷い込んできた人の夢を写し取るんだって。
　女神様に夢を写し取られたら最後。鏡の世界から抜け出せなくなる。

　女神様は、才能のある鏡職人と、優秀な魔女や魔人と、秘密が大好き。
　手放したくないから、逃げられなくしちゃうの。

　鏡屋に就職した若者は、みんな試用期間中にそのことを知らされて、青ざめるわ。

　ひひ、あんた、顔が真っ青だ。
　あはははは！　まるできゅうりみたいだ！　今、もちろん鏡屋に就職したこと後悔してるよね？

　どうする？
　今ならまだ魔人になることもできる。こっちの方が楽だよ。
　さあ二つに一つだ！　ＡかＢか。
　明日までに鏡の中の自分とよく相談して、考えな。それとこのあとタイムカード押したら髪を切りに行きな。良い夢を見ろよ！

🪞

　選択はＣ。震えながら鏡警察に通報。
　夏は謎の鏡業者が増える。

（1200字）

ホラーとまでは言えないかな…(¯∀¯)
ちょっと胸のざわつくような掌編を。
創作欲のおもむくままに書きました。
現実の鏡メーカーでは、もっと安心して働けるはずです。

「夏ピリカグランプリ」にチャレンジっ！
締め切りは6月30日まで！enjoy掌編小説👍

ラブあんどピース🍀

PS

xuさんの作品は、今回ぼくのと真逆にすごく優しい魔法の鏡の物語でした。笑
次はあちらの企画でも。
(*>∀<)ﾉ))またねー