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涼麵(liâng-mī リャンミィ=台湾語)

水曜日に片倉佳史さんと台湾の涼麵について語り合いました。

 涼麵(liâng-mīリャンミィ=台湾語/liáng miànリャンミェン=華語)は伝統的な台湾料理ではなく、第二次大戦後に広まったと言われている麵料理です。漢字を見るとすごく冷えた麵料理のようですが、冷水や氷などを使って、特別に冷やされているわけではありません。扇風機の風などを利用して、常温程度に冷まされた油麵(台湾麵)や涼麵用に開発された麵とタレや具を一緒にかき混ぜて食べる麵料理です。一般的な油麵や涼麵用の麵は冷蔵庫で冷やすと麵が硬くなるのですが、冷蔵庫で冷やしても硬くならない特殊な麵を冷蔵庫で冷蔵保存してから使う店も一部あります。

麻醬涼麵(マーチァンリャンミェン)
芥末涼麵(チエモーリャンミェン)
ゴマだれにピーナツ粉とわさびが加えられている。麵は冷蔵された冷たくて白い麵。

 中国各地には昔から常温で食べる涼麵や混ぜ麺の類があったようです。例えば、ミャンマー(ビルマ)から台湾へ移民してきた、 雲南系、福建系、広東系、客家系華人や傣族系などの人々が集まる、新北市華新街の飲食店には常温で食す、涼麵や混ぜ麺、各種のライスヌードゥル料理があります。

新北市華新街の雲南涼麵(ユンナンリャンミェン)
雲南料理店の雲南米干(ユンナンミィカン=常温で食べる甘酸っぱい味のライスヌードゥルの和物)

 日本には冷やし中華、冷やし蕎麦・うどん、冷やしそうめん、韓国式冷麺などの冷たい麵料理はいろいろありますが、 どれもが冷たくて、あっさりした麵料理だと思います。日本人にとって、常温で食べる、そして油っこく、こってりした味の麵料理には少し衝撃を受けるかもしれません。食感的には冷めた中華料理を食べている感じなのですが、冷めて不味くなった中華料理を食べているという感覚にはならず、なぜ、冷めていても美味しいのだろうという不思議な感覚を味わえると思います。

 実は僕がこの感覚を最初に味わったのは台湾ではなく、アメリカのニューヨークにあったビルマ料理店でした。店のオーナーはミャンマー(ビルマ)から台湾へ移民し、さらにアメリカへ移民した華人系ビルマ人女性でした。今、思うと台湾の新北市華新街の食堂で食べられるような料理を提供するレストランのようでした。

 一般的な台湾式の涼麵は中国四川省の麵料理の影響があるとも言われますが、実際に誰が中国のどこの地域の麵料理を改良して、 どういう経緯で台湾に広めたものなのか、あまりよく知られていないようです。戦後に中国から移民してきた軍人や公務員とその家族が集まり暮らしていた眷村 ( 兵仔舍 ping-á-sià/兵仔寮 ping-á-liâu)と呼ばれるコミュニティーが、かつて台湾各地にあったのですが、その眷村の家庭で生まれた眷村料理の涼麵が外部に伝わったのではないか ? と考える人もいます。

四川涼麵(スーツォアンリャンミェン)/花椒の味が効いている。

 台湾式の涼麵によく使われる麵は台湾に戦前から存在する油麵や戦後に涼麵用に開発された涼麵用の麵(どちらも「かん水、つまりアルカリ塩水溶液が含まれる黄色い麵です。ただし一部では、白い麵も使われています。台湾南部の嘉義の涼麵や豆菜麵には白くて、平たい麵が使われています。タレは店によって違いがありますが、一般的に胡麻ダレ(麻醬)が多いです。この胡麻ダレは胡麻ペースト、 ピーナツペースト、ニンニク、醤油、胡麻油、ラー油、チリパウダー、レモン、烏醋(酢というより日本のウスターソースに近い調味料)、 砂糖などを混ぜて作られています。調味料の種類や配合の割合などはもちろん各店で違います。また、このタレを先に器に入れ、その後に麵を盛り付ける店もあれば、 麵を先に器に入れ、その上からタレをかける店もあります。また、中国雲南系の涼麵やライスヌ ードゥルの和え物には酸味の強い甘酸っぱいタレが使われています。

 涼麵にトッピングされる具は「きゅうり(瓜仔哖 koe-á-nî)」の千切りだけというのが一般的ですが、「にんじん(紅菜頭 âng- chhài-thâu)」の千切りを加えたり、「ザーサイ=カラシナの漬物(榨菜 chà-chhài)」や「豚肉細切り( 肉絲 bah-si)」「こんにゃく(khŏng-niá-khuh)」「豆干=豆腐を圧縮した加工品(tāu-koann)」「肉燥=豚挽肉の炒め煮(bah-sò)」などがトッピングされているも のもあります。中国雲南系の涼麵にはチャーシューの細切りやピーナツを細かく砕いたものも入れてあります。

榨菜肉絲涼麵(ツァーツァイロウスーリャンミェン=ザーサイと細切り豚肉が入ったもの)
榨菜肉絲涼麵(ツァーツァイロウスーリャンミェン)
ザーサイと豚肉の他に細いこんにゃくも入っているもの。
雙醬涼麵(ソァンチァンリャンミェン)
ゴマだれだけでなく、台湾式炸醬麵のタレ(豆干と挽肉)もかけられている。
南洋涼麵(ナンヤンリャンミェン)
シンガポール華人料理店の涼麵。海南チキンライスに使う茹で鶏が具として使われている。

 僕自身は食べたことがないのですが、台湾南部の嘉義では胡麻ダレだけでなく、マヨネーズも加えるという特別な食べ方があります。このマヨネーズは日本のマヨネーズとは味が違うし、台湾の甘いマヨネーズとも違うタイプのマヨネーズのようです。台北市や台北市近郊でよく見られるのは胡麻ダレに「わさび (oa-sá-bih)」や「チリソース=番薑仔醬(hoan- kiunn-á-chiùnn)」を混ぜる食べ方です。

 台湾ではスープ無しの混ぜ麺や和え麺を注文する時、一緒にスープも注文するのが一般的ですが、涼麵と「味噌湯=味噌汁(mí-sooh-thng)」を一緒に注文する人が多いです。この台湾式味噌汁は「豆腐(tāu-hū)」「柴魚片=削り節(chhâ-hî-phìnn)」「魚脯仔=煮干し(hî-póo-á)」「蔥仔珠 = 刻み葱(chhang-á-chu)」が入っていて、見た目は日本の味噌汁のようですが、甘みのある味噌汁です。

 この涼麵を朝食として食べる習慣を持つ人達もけっこういます。だから台北市内では早朝から昼過ぎまでしか開けな い涼麵の専門店や屋台があちこちに存在します。興味深いのは、台湾式涼麵を売る朝ごはん屋さんでは涼麵の他に「甜不辣 (thiân-pú-lah =おでんの具材やさつま揚げに甘いタレをかけて食べる)」「壽司 (sú-sih=巻き寿司やいなり寿司 )」も売る店があります。

涼麵の専門店。早朝5時頃から昼過ぎまでしか営業しない。

 僕個人の涼麵に対するイメージは伝統的な台湾料理とも言えないし、中国のどこかの地方料理とも言えない、中国や日本の食文化の影響を受け、台湾で生まれ、発展した一種の台湾創作料理というイメージです。実は20年ほど前に当時60歳代の人達に、「涼麵 は伝統的な料理ではなく、比較的新しい料理だと思う。自分達が若い頃には見たことがなかった」という話しを聞いたことがあり ます。

 実は一般的に台湾人、特に年配者は食事と言ったら、熱いもの、暖かいものを食すという習慣が一般的です。冷たいものはあまり好まないです。また麵という食材は戦前の台湾でも存在しましたが、日常的に誰もがよく食べていたものではなかったようです。しかし、 ちょっと調べてみると、実は戦前の台湾でも常温の麵を食べていた地域があったようです。 例えば、台南と嘉義の境界地域一帯で食べられている「豆菜麵 (tāu-chhài-mī) という名の、常温で食す、もやしと醤油ダレ入りの混ぜ麵料理がありますが、一説によると 1920年代にはすでに存在し、台湾式涼麵のルーツのひとつになるのかもしれないと言われているようです。戦前の台湾でも涼麵のような物を食べていた人がいるのは、夏に冷たい物を食べたり、飲んだりするのが好きな日本人の食生活の影響があるのでは ? と考える人もいるようです。

頭菜麺(タウツァイミィ)

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