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最近読んだアレやコレ(2022.03.10)

 アルセウスでアルセウスを捕まえたので、アルセウスが終わりました。ポケモンは元々対戦と育成に興味が薄く、獣を捕まえるゲームとして愛好していたので(そもそも緑、黄、銀、剣しかやってませんが)、アルセウスはめちゃよかったですね。「捕まえる」に至るまでのプロセスが複数組み立てられ、状況に応じてそれらを選択してゆくのが狩りの肌触りを感じてめちゃくちゃ楽しい。最適解だけを選ぶなら話は違うのでしょうが……。あと、ポケモンスナップの新作で獣に毒煙噴霧ボールを投げつけることができなくなったことを悲しんでいた私としては、本作の仕様は色々嬉しかったです。投擲物が獣の後頭部にあたると「不意を打った」判定になり有利がとれるのですが、それが怯えて背を向け逃げる獣の頭にぶつけても生じるの、実にろくでもないと思います。逃げ回る鹿の後頭部を殴打し、バクフーンさんで火をかけるなどができる。とんでもないぜ。

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フーガはユーガ/伊坂幸太郎

 父親から壮絶な虐待を受けて育った風我と優我。彼ら双子はとある秘密を持っていた。久しぶりに伊坂幸太郎を読み、仙台ジョークが染みわたる。伊坂小説はよく「どうしようもない不条理」を題材にとっており、その権化としてヴィランが1人登場することが多いのですが……父親の虐待から始まる本作は、不条理がただ1人に集約されることはなく、小説全体に蔓延しています。暴力があり、拷問があり、殺人もある。物語のとりまく全てに悪意が通い、あちらこちらに苦しみがある。それでも本作が陰鬱とした空気を放っていないのは、主人公である双子がどこまでもタフにお話の中を駆け抜けてゆくからでしょう。音楽やホームランで暗い気持ちを吹き飛ばすのではなく、自らもまた不条理そのものと化すわけでもなく、ただ1つの「ズル」によって、不条理のまたぐらをくぐりぬける。ついでに、金的も数発かましてみせる。不条理が常に間近にあった2人だからこそ選びとれる、薄暗く、ズルく、そして何より爽快で危険な解答。この双子を指して「手強い」と言い表した帯の文言は、あまりにも的確だと思います。とてもおもしろかった。


八木剛士 史上最大の事件/浦賀和宏

 〈松浦純菜・八木剛士〉シリーズ、その4。前巻がヤバすぎてぶっ倒れたのですが、今巻も負けず劣らずヤバかった。主人公の八木剛士くんは、相変わらずヒロインへの性欲と依存心、世界への呪詛と怒りで全身全霊を勃起させており、紙面のほぼ全てを特に変わり映えのない恨みつらみの繰り言で埋め尽くしてゆきます。ただ、本作は1冊まるまるかけて「史上最大の事件」に向けてカウントダウンをしてゆく贅沢な構成をとっており、さらには呪詛の繰り言の隙間から、シリーズ全体を貫く縦軸が見え隠れする仕掛けを打っています。さすがに4冊目ともなると、私も「八木くん、わかった。お前の言いたいことはよくわかった。もうその話は前に聞いたからそろそろ本題を進めてくれ」という気持ちになってきたので、この「本題」が垣間見える構成にはぐいぐい興味を引かれて読んでいきました……いきましたが…….。いやあ……すっごいですね……「史上最大の事件」って、うん、確かに異論はないですが……凄いです。凄すぎる。全身の力が抜けました。おもしろすぎる。こんな小説が商業出版されていいのか。八木、お前、やってくれたな。やりたい放題かよ。いくらおもしろいからと言って、こんなん、許されんのか。

 あと帯が最高すぎるのでみんな見て。


連続自殺事件/ジョン・ディクスン・カー、三角和代

 ラブコメ怪奇おじさんこと、カーの新訳。フェル博士もの。古城で起きた転落事件を巡り、一族が自殺か殺人かを議論する。ラブコメ怪奇おじさんの「ラブ」と「コメ」に特化した、とにかく楽しい名作古典。「転校生を紹介するぞ!」「「あ~!お前はあの時の!」」みたいな、ベッタベタな男女の出会いで始まる本作は、死体や殺人そして迫る戦火という笑いごとではない状況を整えながらも、したたかに酒に酔い、よく笑い、お話を陽気に展開してゆきます。倫理観をどこかにすっ飛ばして繰り広げられるドタバタ騒ぎは、浮世離れした推理小説の世界を華やかに飾り立て、フェル博士という探偵のスタンスにも結びついてゆく。ラブコメディとしての比重が大きな作品であり、真相は「ギャグ漫画の推理パロディ回」くらいの味の濃さでしかないのですが、それでも類型的な事件に対し意表をついた箇所を切って割って見せるそのセンスはやはりただならないものがあります。あとトリック内に誤謬っぽい点が1つあるのですが、それもかわいらしい茶目っけに感じてしまうのは、なんともカーらしいというか、人徳だなあって……。


高校生家族(1~5巻)/仲間りょう

 今、週刊少年ジャンプで1番おもしろい漫画。5人家族全員が同じ高校に入学し同級生になってしまうギャグ漫画。序盤こそ「俺の父親が同級生!?そんなの変!」という単純なコメディであったものの、話数を重ねるごとに「父親が高校生になること」「小学生が高校生になること」についてのお話が血肉の通った実感と共に展開されてゆき、やがてそれは決して笑いとばされるようなことではない、今、ここに本当にある高校生活になってゆく。トンチキな前提を元に真摯に紡がれてゆくお話は、この漫画でしか描くことのできないスペシャルな光景を何度も何度も描き出します。その一方で、全て出発点である「家族が同じクラスなのって変だよね」というギャグ漫画としての視点も、決して消し去ってしまわない所が素晴らしい。面白と真面目の反復横飛び。その速度は徐々に増してゆき、やがて2つは完全に並立して進行されるようになる。描かれていることに対し、複数の感情が同時に刺激されるリッチな体験はたまらなく癖になる。あとなにより、彼らの高校生活が本当に楽しそうで、読んでるだけで幸せな気持ちになるんですね。ちょっと泣きそうになるくらい、幸せな気持ちになる。おすすめです。


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