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空區地車の力学その65.伝統と現実の狭間で

地車は「だんじり囃子」に合わせて動かします。
リズムは、歩いている時はゆったりゆっくりと、坂道を上ったり走ったり地車を回したりする時は早く激しくと変化します。
鳴物については、空區の場合は大太鼓・小太鼓・半鐘・二丁鐘の4つですが、同じ住吉地区でも地車の大きさで小太鼓がない地區もあります。
日本全国でみても地域によって異なり、中には基本の大太鼓・小太鼓・鐘に加えて、笛や三味線などが含まれる地域もあります。しかし、笛や三味線は鐘の大音響に負けるため、徐々に用いなくなった地域もあるようです。

空區地車の1階には(左から)二丁鐘、大太鼓、半鐘を配置
空區地車の2階には大太鼓より3廻りほど小さな「小太鼓」を配置

本来、祭りは「豊作や大漁、無病息災などを祈願して、それに感謝する」神事です。しかし最近では、豊作祈願などの意味合いよりも、イベントとして賑わっています。
そもそも地車は、神輿のお供をする鳴り物が乗った”山車(だし)”でしたが、一方で氏子が楽しめる出し物を披露するステージでもあったようようです。
下の写真の様に、地車の前の匂欄部分が引きだせるようになっており、ここをステージにして祭りの余興として落語や即興劇など「俄狂言(にわかきょうげん)」が演じられていました。俄狂言とは、素人が、宴席や街頭で即興に演じたこっけいな寸劇で江戸中期から明治にかけて流行しました。今では俄狂言は披露されませんが、空區地車にもその痕跡が残されています。

大太鼓設置時に前の匂欄部分を引きだしているが本来はステージとなる
空区ではただ一人いらっしゃる踊りの名手

宮入の時は、「ソーラ」といわれるリズムで神様の昇天を即すのですが、鳴物を担当する十代~二十代前半の若者の中には、この独特のリズムがつかめない者も年々増加しており、派手な囃子の演奏(パフォーマンス)に気が走り、リズムが早すぎたり、均等に叩くなど、年寄り連中からは「鳴り物がなおざり」などと嘆く声が上がるものの、改善の兆しがみられないのが実情です。
最近の祭りのブームで曳き手の人数には心配がない反面、特に鳴り物は若者に任せっぱなしにしてきたことで伝統が正しく継承されないという問題も発生しています。

宮入では「ソーラ」が叩かれる

豊作祈願などの意味よりも、イベントの意味合いが強くなっていることから、鳴り物が今風に変化するのも致し方ないことなのかもしれません。
しかし、年寄り連中から「太鼓・鐘がなおざり」などと嘆く声にどう応えていけばよいのか、伝統継承と現実の狭間で“進化”と一言では済まされない問題であり、悩むところです。