昔はアクセサリーに全く興味がなく、服に何を合わせれば良いのかもわからず、そして面倒で殆ど持っていなかったし、わずかばかりの手持ちのものも付ける機会が少なかった。

その時期もマニキュアだけは欠かさなかったので、私のアクセサリーといえばマニキュアくらいで、手元のおしゃれを楽しむための唯一だった。一日を終えた真夜中のマニキュアを塗り替える時間、これがリフレッシュの一つ。ゆっくりと時間をかけて自分の手元を自分で労う時間はマニキュアを塗る習慣を持つようになってから特に大切にしている。

年を重ねるにつれ、アクセサリーをつけてみようかなと思うようになった。そこから少しずつ集めるようになったけれど、ピアスは無くしがちだし、1000円以下の安物を。そのついでに同じお店でネックレスやブレスレットを。という感じでカジュアルなものを揃えてきたけれど、やはり質が良くないのかすぐに変色してしまったりする。安いものでアクセサリーの付け方、合わせ方を練習したしそろそろ何か本物が欲しいなと思っていてふらりと寄ったアクセサリーショップで黒い石付きのゴールドの指輪をみつけ一目惚れした。黒い石はブラックカルセドニーという石で、両側には小さなダイヤがついていた。今まで買ってきたイミテーションよりそれなりの値段はするし、ずっと悩んで買わずにいたのだがコロナの自粛で鬱々としていた気分をリフレッシュできたらと、思い切って買うことにした。販売員の女性に指輪を見せて欲しいと話しかけると、指輪以外にも同じシリーズのネックレスや同じ価格帯の色々なアクセサリーを出してくれて、試着を勧められた。販売員の方はさすが洋服とアクセサリーのコーディネートが上手で、たくさんつけているのに統一されていてお洒落に纏っている。「同じシリーズを少しづつ集めていく楽しみもありますよね」などと話しかけられ「少しづつ」という言葉が良いなと思った。今のご時世だと男性からプレゼントされるより、自分へのご褒美として少しずつ集める女性も多いのかもしれない。試着している間に、アクセサリーのメンテナンス、コーディネートの仕方などの話もしてくれて、お試しの指輪やネックレスに触れたり見たりするだけでも気分が上がる。そして、購入した指輪をさっそく付けて帰った。指輪の石について調べてみると、ブラックカルセドニーは愛と信頼を築き、リーダーシップの役割を最適化する。共感、慈悲、善意などの前向きな気持ちを促す石とのこと。これは私のお守りにぴったりだなと思い、更に愛着が湧いた。

それからその指輪は出かける時に必ず付けるお守りのように使っている。その指輪がきっかけでアクセサリーは自分が本当に気に入ったもの、本物を数少なく持ち、お守りのように使いたいなと思うようになった。

メンテナンスの話をきいたからか、以前から持っていて気に入っているブレスレットとネックレスをメンテナンスに出そうかなと思いつき、そのメーカーのショップに出向いた。実はその二つはリサイクルショップで安価に購入したもので年季が入っているのだが、お店に持っていくと磨きも、剥げたところを直すのも無料とのこと。ちょっと得した気分だ。ブラックカルセドニーの指輪を購入したメーカーの他店が近くにあったので、ついでに寄って、ずいぶん昔に買ったシルバーの指輪のサイズ直しをお願いした。新しい指輪を買ったので、その指輪は違う指につけたくなったのである。サイズ直しの伝票をお願いしている間に他の販売員の方が声をかけてきて、気になるものがあればぜひ試着だけでも。と言うのでせっかくだし、お言葉に甘えて時計を試着。その販売員の方もまた時計やアクセサリーのコーディネートが素敵だった。時計を手につけてくれながら「私達女性って、感情の揺らぎが男性より多いと思うんですけど、やっぱり目に入るもので気分を上げたりはできると思うんです。だから出来れば、自分の目に常に入ってくる手元は明るくしておくと気分違ってきますよね。例えばマニキュアもそうですし、指輪やブレスレット、時計、そういったものが少しでも気分を明るくする力になると良いなと思うんです」と話してくれて、「そうですよね」と深く頷いた。ネックレスやピアスは鏡を見なければ自分では見えないし、顔周りにつけるものだから、どちらかというと会う相手に印象づけるものかもしれない。でも、手元につけるものは確かに一番自分の視界に入るから本当に気に入ったものをつけておきたい。それで毎月翻弄されるホルモンバランスによる気分の揺らぎが少しでも整うのなら良いかもしれない。

女の手元は自分のために綺麗に気を配っておくと生きやすくなるのかもなあ。などと、指輪やブレスレットをお店に預けて寂しくなった帰り道の手元を見て、しみじみ思った。

そして帰宅してからひとつだけ手に残ったお気に入りの黒い石の指輪を、丁寧にクロスで磨いてあげた。