【短い話】平成最後の夏2作

 打ち上がる花火を背に、私は自転車をこいで家路をたどる。視界をそよ風のように浴衣姿の女性たちが通りすぎていく。
 横断歩道のところで信号待ちをしながら、ふと、大きな音にふり返った。遠くの空で色とりどりの花が咲いては散っていた。そういえば、最後に実物の花火を見たのはいつだっただろうか。幼い頃は永遠に続くと思っていた時間が、今では一瞬で過去になる。
 この時、この瞬間も、まばたき一つで消えていく。平成が終わる。

 花火、という明るい子どもの声に、伏せていた顔を上げて窓を見た。光の花が空一面に打ち上げられている。
 周りを見渡せば誰もが窓の向こうにある光景を眺めていた。男の子、女の子。スーツ姿の男性、女性。陽に焼けた肌の青年たち。浴衣を着た少年少女。シルバーカーの老人。まるで吸い寄せられるように、揺れる電車の中、一つの世界を共有している。
 今、この時、生きてきた過去も生きていく未来も別々の人間たちが、刹那に重なりあう。花火は空に浮かんでは、消えていく。平成最後の夏を彩るかのように、大輪の花を咲かせて。

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