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「超人ナイチンゲール」

 タイトルで何事かと思い、これがまた医学書院の「ケアをひらく」シリーズの一冊と知り、興味津々。「ケアをひらく」シリーズの本はどれも面白いし、新しい視点を与えてくれる。
 ナイチンゲールは看護師なので、このシリーズでもなんら不思議はないのだが、タイトルと作者が気になった。

 作者はアナキズム研究をされている栗原康さんで、過去に「サボる哲学 労働の未来から逃散せよ」を読んで面白かったので、期待大。それに「超人」ってなんだ?!

 なぜナイチンゲールの伝記を栗原さんに依頼したのだろう、と思うのだけど、栗原さんの口調というか文体が、かなり面白い。講談を聞いているみたいだ。(講談は聞いたことないけれど、多分こんな感じだと思う。)

 ナイチンゲールのこんなファンキーな伝記読んだことない。突き抜けてる。
 ナイチンゲールかすごい富裕層で、公費で賄えなかった分を自費でバンバン補充したり、なんというか、「私」を捨てた境地。善意とか奉仕とか、そういうものでもない、それを超えた境地。
 他にも統計を使って周りを説得し、病院の改革をしたりと、頭とお金とコネと権力を使ってフル回転で動きまくる。
 「白衣の天使」というよりは、戦う人のようで子供の頃に読んだ伝記とは全くイメージが違う。でも偉人であることは確かだし、改革の人、革新の人だ。
 子供向けの伝記シリーズにナイチンゲールとかよくあるけれど、子供にもぜひこの「超人ナイチンゲール」の方を読んで欲しい。
 興奮冷めやらぬというか、疾走するくらいの勢いで一冊終わってしまう。栗原康さんすごい。

 ナイチンゲールが神秘主義だったというのも意外性があって面白い。これを読むまで神秘主義というのを怪しいもののように感じていたけれど少し違うかもしれない。
 栗原さんの対談記事https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2023/3545_01
に載っていたものを引用する。この対談も面白いし、この本の面白さを感じられるのでぜひ。

神秘主義のキーワードは,「なぜという問いなしに」です。神は絶対的なものだから,何かのための手段や道具になることはありません。どんな目的にも左右されない。その神と一体化しているから,理由もなく,損得も関係なく,それこそ自分の将来さえかなぐり捨てて,体が動いてしまう。例えば,車にひかれそうな猫を助けようととっさに車の前に飛び出してしまう時,頭で考えて動いたというよりは「体が勝手に動いた」と感じますよね。この自分で自分を制御できないというところに神秘主義者は神を感じるわけです。

 自分で自分を制御できないというところに神を感じる。興味深いなー、と思った。

 どうしてアナキストの栗原康さんがこの本を書いたのか、というのも、この本を読むと納得。

 単純に面白い伝記ものとしても読めるので、難しいことを考えずに読んでみるのもありだと思いました。


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