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「噛みあわない会話と、ある過去について」

 辻村深月さんの本。文庫化される時に東畑開人さんが解説を書いたと聞いて、読んでみた。

 ヒリヒリとした痛みを感じる本。ものすごく平たくいうと、無自覚に相手を傷つけていたことに対して、復讐される話だろうか。自分は忘れていても、された側は覚えている。
 解説の過去の様々な痛みや傷つきを幽霊と呼び、この本を怪談話としていたのが秀逸。
 こんなヒリヒリした話を書けるのは本当にすごいと思う。復讐する側の冷静かつ情熱的な言葉もとても面白いし、受ける側の心の動きも細かく描写されていて、こちらも冷たいナイフでジリジリ刺される感じがして、心が震える。
 でも、読むのを止められなくて、グイグイ引っ張られる。どれも長くなく、短いながらもすごくシャープで面白い。
 4つの作品(「ナベちゃんのヨメ」、「パッとしない子」「ママ・はは」「早穂とゆかり」)がこの本には入っているのだけれど、どの作品も良い。どれもありそうな現実の話で、えぐられるものがある。

 私の中にある卑怯だったり、ずるかったり、我が身可愛さの自分本位なところだったりするところが、とても疼く。
 自分は、この復讐される側でなく、この作品の読者で良かった、と心から思った。

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