見出し画像

歴史と由緒と香港マラソン ~昂船洲故事

(Cover Photo : Wikipedia)

きのうは香港マラソン Standard Chartered Hong Kong Marathon 2021でしたね。
COVID19の猛威のせいで昨年は中止、今年は大幅に延期の末ワクチン接種者のみ出場という多難な中での開催となりました。さらに「香港加油」が禁句になったり、政治的主張のある衣装での参加は不可なので、名物のコスプレでの参加はどうなの?とか、言論統制じみたキナ臭さがありました。
それでもなんとかコスプレ参加者も拘束されることもなく、無事に終了しました。
今年は日本から参加した人はほとんどいないと思いますが、参加された方いらっしゃいますか?
お疲れ様でした。


さて、2011年のことです。
私は丸12年という長きに渡り香港旅行はご無沙汰していたのですが、友達の誘いもあって久々に香港へ足を運ぶことにしました。
なにしろ長~いブランクがあるのです。渡航前には久しぶりの香港を前に、ワクワクしながらネットのガイドやら地図やらを見ていたんです。

ところが。

ん?おかしいな、この辺に確かストーンカッターズ島があったはず?


話は私が小学5年生のころに遡ります。経緯は忘れましたが、友達と香港の立体地図を作る計画が持ち上がりました。しかしその話は貴重な緑色の油性ペンをすべて消費しただけで未完に終わるという、子供らしいなんともおバカな結末でしたが、そのおかげで地図をよく見るようになりました。
家で時間がある時にカーペットに寝転がりながら、香港の地図を広げて見ていたんです。

新界と広東省との国境線付近には、赤いインクで「禁區」と書かれていました。そりゃそうだよな、国境だもんな。勝手に入ったら怒られそうだな。パスポートが無いと香港人でもダメなんだろうな(回郷証があることは当時は知らない)。なにしろ「禁區」だから。
そして、当時は両眼視力1.5もあった私の目は、もう一つの「禁區」を見つけました。

それが「昂船洲 Stonecutters Island」(ストーンカッターズ島) です。

昂船洲というのは、北京条約にもその名が残る由緒ある島で、長くイギリス軍の管理下にあり一般市民は入れないエリアでした。地図上では全域が「禁區」になっていました。

北京条約締結時(1860年)の地図

画像1

(Photo : Wikipedia)

昂船洲が「盎船洲」になっているが、旧称らしい。

もちろんこの島は一般市民のみならず、外国人が入れる場所でもありません。
戦時中でこそ統治者である日本軍が軍事施設を利用していました(当時の名称は向島)が、戦後の日本人でこの島に入ったのは、おそらくは当時香港の領事だった佐々淳行くらいだろうと思います。彼は警察官僚から外務省に出向して香港領事になるという、ちょっと珍しい経歴の持ち主ですが、香港日本人学校生みの親でもあるのです。

さて、香港で禁区と言えばこの人。

こっちの禁区はあんまり売れなかった。

さて、この島は全域が軍事施設ですから「禁區」なのは当然ですが、おバカな小学生の私はこう考えました。

どうやったら入れるだろう?

入れるわけない。
でも、いつの日かこの島への上陸を実現させる!と夢見ていたのですが、そんなことは帰国後年を重ねるうちに忘れてしまっていました。
大学生になり一人で香港へ行けるようになってからも、昂船洲の存在は特に意識もせず、あるのが当然のように思っていました。

そして2011年。気づくと地図上から昂船洲は消えていました。
いや、厳密に言うと消えたのではなく、九龍半島と地続きになっていました。
12年のブランクは大きく、まったく気づきませんでした。と同時に私にとってはちょっとショックで、この時「いつか上陸してやろう」というかつての夢をパッ!と思い出したのでした。

あの歴史と由緒ある島がいつの間にか半島に。
なんだかもったいない気分。

Standard Chartered Hong Kong Marathonでは、フルマラソンのコースとして半島になった昂船洲が設定されています。マラソン自体は1997年から始まっていますが、昂船洲を通るコースは2010年からです。前年に昂船洲大橋が竣工したことによるものですね。
つまり、2009年には私より先に民間人が多数上陸したということになりますし、更に言えば昂船洲大橋の建設には日本のゼネコンなども関わっていますので、着工時の2004年には日本人技術者が上陸を果たしたことになります。私の夢を見ず知らずの多数の人々が叶えてくれたことになります。
でも、私より先を越されたわけで、なんだか複雑な気分なのです。

なお南岸にある軍事施設自体は今でも現役で、人民解放軍が管理しています。当然ここは今でも「禁區」です。

次回の香港旅行で行けるかしら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?