見出し画像

うまいものは田舎にある

スーパーの野菜コーナーで「無農薬栽培」の表示を見つけるたび、ここは都会なんだと気付く。
二年前、私は長野県の農園に勤めていて、無農薬栽培が当たり前の環境にいた。

桜の花が咲いた頃、友人のKちゃんが東京から長野に遊びに来ることになった。うちの農園にも来ると言う。せっかくだから長野の食を満喫してほしい。こんな感じでどうだろう。


11時11分、新幹線で到着するKちゃんを佐久平駅まで迎えに行く。駅まで車で30分。帰ったらちょうど昼食の時間だ。
お友達の農家が育てた無農薬栽培のお米に、旬のお野菜をたくさん使った料理でおもてなし。お野菜は、うちの農園で採れた新鮮な野菜だ。

お米はあまり都会では流通しない「タキタテ」という品種。炊くと餅米のようにもっちりした食感になる。白米でもおいしいし、Kちゃんなら玄米も喜んでくれるだろう。
ちょうど出始めた春野菜も、ぜひ食べてもらおう。レタスやキャベツの甘さは格別だ。ほうれん草や小松菜も、青々として瑞々しい。
キャベツは豚肉と塩コショウで炒めて食べる。ほうれん草は迷うところだがバター炒めか。お浸しもシンプルな調理法で味の違いが際立つ。良い野菜は調理法がシンプル。塩味だけでも十分おいしい。

昼食の後は畑に出て、少し農作業を手伝ってもらおう。天気が良ければ、信州の高原はこの時期、他にない清々しさだ。カブの収穫は力もいらないし、ちょうど良いかもしれない。今は白、赤、紫の三種類のカブがある。採ったカブを川で洗って、食べ比べるのはどうだろう。レクリエーションにはもってこいだ。
作業の後は、やはり温泉だろう。何ヶ所かあるが、Kちゃんはどんなお湯が好みだろうか。江戸っ子は熱いお湯がいいのかな。だとすれば、ナトリウム泉で露天風呂もある、布施温泉がいいのかな。

お風呂の後は、地元の蕎麦屋で夕食を。蕎麦だけでなく、野菜や山菜、キノコなど地域の食材を使った創作料理をコースで提供してくれる。山菜やキノコは、方言の強い親父さんが、自分で採りに行っている。そんなアクの強さも味付けだ。蕎麦はもちろん石臼挽きの十割。個人的には蕎麦の実の外側まで使った「挽きぐるみ蕎麦」がおすすめだ。


無農薬栽培も、天然温泉も、アクの強い親父の蕎麦も。
都会ではネット通販か、遠くまで行かないと買えないものが、こんなにも身近だった。


うまいものは田舎にある。
都会に戻った私は、うまいものが恋しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?