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自分の言葉

私は大学時代、ボート部に所属していた。
膝に爆弾を抱えていた関係で、
2年生の秋に、選手を諦めた。
そこからコーチングスタッフとして、
裏から選手を支える道を選んだ。

練習中、
それまで必死にボートを漕いでいたのが、
コーチの横について、コーチの言葉を聞く機会が増えた。

当時、部には素晴らしいコーチがいた。
大学のOBでは無く、
学生時代は全日本のトップクラスだった方
ご縁があって、月に一度くらいの頻度で来て下さり
コーチをやって下さっていた。

先輩方を見ていて、少し気になっていたことがある。
それは、例えば何か新しい取り組みをする際、

『コーチがこう仰っているから』

そんな枕詞で、導入の説明をしていた事。

当時、部には日誌があった。
部員全員が持ち回りで現状や思いを記す交換日記のようなものだ。

ある時、部室を片付けていた際、
殆ど名前も存じ上げない、自分が入部する前に既に卒業されていた先輩方の日誌を見つけた。
その中に、こんな記述があった。

自分たちは、もうすぐ卒業する。
後輩に「来年から大丈夫か」と聞いた
彼は『コーチがいるから大丈夫ですよ』と答え。
それは違うよ、と言っておいた。

この文章をお書きになった先輩、
その方の大学生活&ボート部生活ラストイヤーに
コーチが新しく就任されたことを知った。

大学スポーツとは、基本的に学生の自治である。
練習メニューも試合の準備も何もかも
自分たちで考えて決める必要がある。

恐らくこの先輩方が3年生の時までは、
様々なことをご自身で考えて決めてこられたのだろう。
それがコーチが就任されたことで、
少なくとも練習の仕方等はコーチ任せに出来るようになった。

最上級生になる前、
レースなどで良く、別の大学の人に言われた。

『あのコーチがどれだけ凄い人か、わかってる?』
『お前のとこ、あのコーチに教わってるのに、何でそんなに弱いの?』

【ベクトルを合わせる】
【目標にコミットする】
【心を一つにする】
【全員で一丸となって】

これほど『言うは易く行うは難し』な言葉もない。
考えや方針を、組織に浸透させるのが
如何に難しい事なのか。

反対意見も出るだろう
今まで通りでいいじゃないかと言う意見も出る
自分の言葉で説得するというのは実に難しい

逆に、簡単な方法がある。
『権威を借りる事』だ。

【テレビで〇〇先生が言ってたんだけど】

そんな言い方をすることで、
言葉に力を加える事がそれだ。

元々の自分の意見に力を添える意味合いで
誰かの権威を使うならそれは良いと思うを、

立場や経験や実力が上の方から何か指示されて、
『この人が言うのだからこれでいいのだろう』
心からそう感じて、指示のまま自分が動くのも
それはそれでよいと思う。

ただ、【人に伝える】段になって
『あの人がこう言ったからこうやろう』
それでは中々一丸となるのは難しい。
自分が心酔している人を、
皆が心酔しているとは限らない
からだ。

だから、
自分自身がその指示を深く理解して咀嚼して消化して
【自分の言葉】で伝えることが必要になる。

誰かの言葉であっても、
深く理解して消化して自分の言葉にすれば、
それは自分自身の言葉として、
自分に残り続ける。

自分の口から出る言葉、
それを、誰かからの借り物ではなく、
常に自分の言葉にした上で、
そこに説得力があれば、

きっとうまくいく。

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