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『成瀬は天下を取りに行く』

宮島未奈著『成瀬は天下を取りにいく』を読んだ。タイトルからして前々から気になっていた本で、本屋で最初の短編の冒頭を立ち読みして、「買おうかな」と迷っていたが、昨日「本屋大賞受賞!」の帯を見て、ついに購入した。

滋賀県大津市の西武大津店が閉店するというニュースが地域の人たちに波紋を投げかける。西武デパートに思い入れのある地域住民のひとり、中学生の成瀬あかりは同じマンションに住む幼馴染に「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」と宣言する。そして、夏休みの期間毎日西武ライオンズのユニフォーム姿でデパートに出かけ、そこで行われる地元チャンネルの番組中継に毎日映り込む...。

そんな成瀬は頭脳明晰で運動神経も良いのだけれど、我が道を行くタイプ。周囲からどう思われるか、といったことにはとことん無関心で、その行動は時に周囲の理解を超えて破天荒だ。毎日西武に通い詰める、突如、M-1に出場する、丸刈にする...。幼馴染である自称凡人の島崎みゆきは何かある度に、成瀬に付き合わされる羽目になるが、良き理解者でもある。

6つの短編からなるこの作品は、主に成瀬とその周囲の人間を中心に、大津を舞台とした物語となっている。他府県民にとって関心のない「西武大津店閉店」ということを取り上げること以外にも「滋賀県」「大津」「琵琶湖」「ミシガン」「膳所高校」といったワードから作者の地元愛が垣間見える。ただ、話はローカルだが、「かつてなく、最高の主人公、現る!」の帯の言葉の通り、主人公の成瀬が半端なく魅力的だ。

昨晩、ベッドに入ってから読み始めて、結局最後まで一気に読むことになった。勿論面白いのだが、どうも危なっかしい成瀬の動向がついつい気になって見守るように最後まで読んでしまったのだ。感想を尋ねられれば、私の場合「面白い」というより「好き」と答える方が正解のような気がする。

余談だが、学生時代、同じ大学に滋賀県出身の人や「膳所高校」出身の人もいた。その滋賀県民の人たちが滋賀を語るのを聞いていると自虐めいてはいるが、どこか地元に対する愛情を感じたものだ。(関係ないけれど、滋賀では〇〇大会は『〇〇「だ」いかい』と濁るというのを聞いてびっくりしたことを覚えている。)この小説には、そんな「滋賀愛」を感じ取ることができる作品だ。

同じ主人公成瀬の続編『成瀬は信じた道をいく』も見逃せない。

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