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【小説】フラッシュバックデイズ 20話

この小説は決して違法薬物を推奨するものではありません。
架空の話であり、小説、エンターテイメントとしてお楽しみください。

20話 旅への憧れ

俺は先日レイブでお世話になったミキの姉の彼氏の笠君の家にお邪魔した。
エレベーターもない古いアパートの一室はチャイムすらなくドアを軽くのっくすると
「お~、きたか、まあ入って」
薄暗く、テレビもなく、エスニックなラグが敷かれただけの殺風景な部屋だったが、間接照明が落ち着いた。部屋の片隅には英語とヘブライ語の辞書が置かれていた。
笠君は早速、綺麗なジョイントを素早く巻いて振舞ってくれた。
笠君は今まで会ったジャンキーと持っているネタの質、種類が一味違う。
もちろん一度ゆっくりと話してみたいという理由で来たのだが、出来れば、新しいネタのルートになればと、少し期待していた。
笠君は90年代中旬~後半のレイブ黎明期を経験し、サイケデリックトランスをこよなく愛し、定職にはつかず、お金が溜まれば世界各地のレイブにも足を運んでいるそうだ。
肩まで伸びた長い髪に手足の長い190cm近い大きな身体は男から見てもかっこよく、こんな男になりたいなと、憧れを抱いた。
海外のレイブの外国人の中に紛れても遜色はないだろうな。
笠君は話しながら、使い込んだレザーポーチから当たり前のように粘土のようなハシシを取り出しジョイントに混ぜていた。
俺はハシシを初めて見た。
初めてのハシシの効きは強烈でアムステルダムでのスペースケーキを食べたときのように石と化してしまった。
笠君は喋れない俺をよそに、海外でのレイブの話、海外での一人旅の話、これから計画をしている旅の話、LSDの精神世界の話をしてくれた。
俺が聞きたいことを分かっているかのように興味のある話ばかりで聞き入った。
俺はもう少し早く、この世界に入っていればと後悔した。90年代中旬~後半のレイブ黎明期を経験したかった。

後日、笠君から分けてもらったハシシを吸いながら一人で考えていた。
旅がしたい。
そういえば別れたマキと未練がましく連絡を取っていた俺はマキの新しい彼氏はインド旅行中に出会ったと男だったらしい。
そういえばダイサクもスー君もインドに行っていたな。
笠君のインドの旅話もおもしろかった。
そういえばドラッグ系の本や旅系の本には、必ずと言っていいほどインドが登場してくる。
もちろん興味はあったが、なんだか俺は無性にインドに行ってみたくなった。
いや、行かなくてはいけないような気がする。
インドには「行く」のではなく「呼ばれる」らしいが、確かに呼ばれているような気がした。

俺はバイトを辞め、インド行きの航空券を買った。

つづく

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