人間六度

日本のSF作家です。 I am a Japanese science fiction …

人間六度

日本のSF作家です。 I am a Japanese science fiction author

マガジン

  • BAMBOO GIRL Ⅱ

    文芸社に今は時期じゃないね〜とつっぱねられてしまった、かわいそうな原稿たち。 SFジュブナイル『BAMBOO GIRL』の続編として書き始めた作品です。 本当に数えるほどですが実在していらっしゃるファンの方々のために、今書けているところまでマガジンにしてまとめていこうと思います。 あと、ここから入って面白そうだなと思った方はぜひ、本編の方も手にとってやってください。どうぞよろしくです。

  • スキキライのはなし

最近の記事

公募の「広義のSF」の意図って?

ばんわ。 SF作家の人間六度です。 質問箱に以下のような質問が来まして、我ながら納得度の高い答えが出せたと思うのでnoteに転記しました。 まず、応募要項に書かれる際の「広義の」とは、「SF賞ではあるけれど間口は広げときたいな」という出版社側の意識の表れかと思います。 (てかそもそも、広義じゃないガチのSFだけを求めている賞ってこのご時世存在しますかね。僕はよく知らないんですけど) とにかく上記のような出版社側の意図があり、 それをもっと詳しく書くと、以下のような序列で

    • NINGEN ROKUDO/Blazing Spam Girl Puppy

      It was the year 2030. On the late-night journey back from the factory to his second-floor bedroom in his family home, sthinta's greatest joy was to buy a bagged convenience store ice cream and eat it while sitting on the wheel stop in the

      • 人間六度2023まとめ

        人間六度の2023年を振り返ろうと思います。 はい。 1月 この頃はですね、同人誌「猫についての話」に出す「猫などいなかった」と、小説すばるの「完全努力主義社会」をやってましたね。 小説すばるの書き下ろしは一作目の「サステナート314」が本当にすんなりできたので、 二作目がちょっとハードルに感じていたところはあります。どういう方向性がいいのかな、って考えてた。でも自分が作家になってみて、それって努力なのか運なのか、みたいなクソしょーもないことを考えていた時期だったので、そう

        • 同人誌作ったよのおしらせ

          みんなこんにちは。 人間六度です。 たいせつなお知らせです! 今回僕は、2023/5/21(日)開催の文学フリマ東京36に備え、【ふわふわでとてもえらい】というサークルをこしらえました。(命名は久永実木彦)。そして本サークルで出させていただくのが、奇想とあざとさ全開の”猫SFアンソロジー”【猫についての話】です……! 参加者  松樹凛「すべての猫の行きつくところ」 藍銅ツバメ「かぼちゃ猫がお前を殺す」 十三不塔「にゃん蛮Try」 吉羽善「ねこの写真も七十五日」 久永実木彦

        公募の「広義のSF」の意図って?

        マガジン

        • BAMBOO GIRL Ⅱ
          25本
        • スキキライのはなし
          4本

        記事

          シュガー・タイム

          作 人間六度(2017年ごろ) 絵 あじたま  バレンタインが誰にとっても甘い思い出であるとは限らないが、少なくとも社会はそうあるべきだと言わんばかりの態度を常々取る。これは誰の言葉だったか忘れてしまったが、過去というものは否応なしに美化され、甘く味付けされてしまうものである。  もっともこの歳になると、自分自身がチョコレートを貰えるか否かという問題よりも、娘が作っているあれが一体誰の手に渡るのか、ということの方が重大性を帯びてくる。だが僕は聞けない。彼女に、その手

          シュガー・タイム

          オーブンからrice cake !!

          作 人間六度(2016年ごろ) 絵 あじたま  毎年クリスマスの日、セントホワイトの子供たちならば、例外なく、いちごの乗った甘いケーキを食べることができる。その至福と言ったら、ジンジャーブレッドマンが大挙して押し寄せたところで、まったく太刀打ちできるものではなく、その中でもシスター・マニエルとシスター・ドナが大切そうに運んでくる、満月のようにまん丸でそして爆弾のようにズンと重い真っ白なショートケーキは、子供たちの間で瞬く間に奪い合いとなり、平時にはあらゆる争いごとを良し

          オーブンからrice cake !!

          JOLにさよなら 

          作 人間六度(2016年頃書いたもの) 絵 あじたま  ハッピーハロウィン! と誰も彼もが路上で魔女やゴーストなどの格好をしながら喚き散らしているというわけでもないけれど、その日はそれなりに世間が沸き立つものだ。それがどの国から持ってこられた風習であろうと、お菓子を売る会社はこれを都合よく加工し、また服を売る会社はこれを合理的に縫合し、そしてマスメディアがこれらの努力を意図せずとも集約する。  企業が世間に対して消費を促す。でも世間もまんざらではないらしく、とにかく冷たいビ

          JOLにさよなら 

          大学生や高校生に今カタンをやってほしい理由

          僕はボードゲームが好きでよく後輩をうちに呼んで対戦の場を組む。下宿が大学からかなり近い位置にあるので、友達を呼びやすいというのもあるけれど、単純に僕はボドゲが好きだし、それ以上に複数人の人間で一人の勝者を決めるタイプのボドゲはゲーム以上のことが学べて、奥深いからだ。 カタンの開拓者たち、という有名なボードゲームがある。(以下カタン) このゲームは簡単に言うと資源を集めて陣地を広げ、人より多く一定のポイントに達した人が勝者となるゲームだ。 資材は五種類存在し、それぞれが取

          大学生や高校生に今カタンをやってほしい理由

          性癖ファイトクラブについて

          #在学生向け #日芸受験希望者向け #日芸のいち側面 #ただのいち意見  今日も日本大学芸術学部文芸学科では、あれが行われている。あれ……。何だっけ。そう。《性癖ファイトクラブ》が。  文芸学科はすごい。何がすごいって、小説を書いていても馬鹿にされないどころか褒められるのだ。一見当たり前に思えるかもしれないけど、ニッチの創作クラスタならいざしれず、一般的な大学の一般的な学部ともなれば、ややもすると創作は馬鹿にされがちだ。馬鹿にされないにしても冷遇される場合が多い。だから一

          性癖ファイトクラブについて

          ハヤカワSFコンテスト顔合わせ

          2021/09/08、早川書房の本社ビルに行ってきた。神田という駅の北口で降りろと忠告され、忠告を聞いたので容易にたどり着くことができた。早川系の事務所が詰まったビルは改装中らしく、ビニールシートが貼られていた。 エレベーターで四階まで登り、受付のようなところに顔を出して担当編集の井出さんを呼んだ。わずかに椅子で待ち、井出さんが姿を現す。当然だけど、スーツ姿だった。 そのまま七階に導かれ、20人ぐらいが入るのにちょうど良さそうな会議室に通される。会議室の中央には楕円形の超デカ

          ハヤカワSFコンテスト顔合わせ

          これまでの活動など

          これもまとめておきます。どんなくだらないことでもデータに残しておくと後で便利ってジョブズとかが言ってた気がするので。 1995年 名古屋市生・サリンやら震災やらの暗黒の年 2010年 私立東海高校に入学・と言っても中学からのエスカレータ 2011年 私立東海高校文芸部の部長に就任・以後、顧問との対立が続く 2013年 私立東海高校卒業・やっと終わった男子校の呪い 同年3月  MARCH以上を全落ちで浪人決定・槍でやり直すんだァーーーッ 同年10月 急性リンパ性白血

          これまでの活動など

          ハヤカワSF受賞の経緯など

          この度は第9回ハヤカワSFコンテストで大賞をいただいた、オスタハーゲンの鍵改め人間六度です。 オスタハーゲンの鍵というのはBBCドラマDoctor Whoに出てくる、地球をぶっ壊すために必要な六つの鍵です。そんなもん誰が作ったか? 人類です。 それは置いておいて、僕、小説賞の受賞とか初めてなので、思い出せる限り経緯を書いておこうと思います。 まず受賞作「スター・シェイカー」は2020年、当時大学3年生(25)だった僕が、4月くらいから考え始めて翌年1月中旬に初稿を上げま

          ハヤカワSF受賞の経緯など

          第三夜【この旅の結末はどこか】scene3

          ☆☆☆  火継の肩と首の隙間に腰の出っ張りをひっかけ、左腕でがっちりとベルトを固定されてはいたが、空気抵抗によって二人がバラバラにされないのが不思議でならなかった。上昇する時は背中をくの字に曲げ、上向の空気抵抗を減らすのと同時に、火継からかかる力で胃が押し潰されることを少しでも避けようと努め、逆に下降する時はその小さな体からわずかでも離れないように、火継の脇腹に手を回してヒルのように頭をへばりつかせた。  上昇する力と重力とが均衡したセンジの体は、地上数十メートルで静止する

          第三夜【この旅の結末はどこか】scene3

          第三夜【この旅の結末はどこか】scene2

          ☆☆  京都に着いて一時間ほど経った頃か。  二〇六系のバスを降りたセンジは、右手に高速道路、左手に瓦屋根の伝統家屋のたたずむ、未来と過去の逢瀬を歩いていた。乙組の担任・歴史の下園は、数人の女子生徒に囲まれながら先頭を歩いている。三十人あまりの隊列の隅々まで意識を配っているはずもない。しかし先ほど宿に着いた際に一度、出発する時に一度と、かなりの頻度で点呼を取る几帳面ぶり。目的地についたらまたやるに違いない。  ここは従順にいこう。センジはしばらく道路沿いの道を、友達と話しな

          第三夜【この旅の結末はどこか】scene2

          第三夜【この旅の結末はどこか】scene1

          ☆  新幹線に乗り込んでから四十分ほど。窓に切り抜かれた景観は、一面の茶畑から灰色の市街地を経て、再び変化の兆しを見せていた。  代わり映えしない田舎の風景に、突然無数のソーラーパネルが映り込む。しばらくして車体が微かな登りの傾斜にさしかかると、塀に塞がれた視界が一気に晴れて、一面に、キラキラと輝く紺碧の水面が姿を現す。  京子は慌てて足元に置いた桃色のリュックサックのジッパーを引いて、足をもぞもぞと動かしながら一眼ミラーレスを取り出し、シャッタースピードを最大まで上げる。

          第三夜【この旅の結末はどこか】scene1

          第二夜【鬼の子】scene12

          ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  組織から逃げ続けてきた床無火継は、〈明治二十三年合意〉に記名した。不死者を縛り、そして保護するための法だ。  翌々日、火継は初めて学校に『登校』した。  宿直室の寝袋は撤去された。  その朝、壁新聞部が西校舎屋上での出来事を大々的に報じた。浅間機関も、狐顔の男も、やはり何かの妨害策を送り込んでくることはなかった。ソラはその記事を見て、落胆とも興奮ともつかない思いを抱いた。 『燃える髪の転校生    屋上で炸裂火炎瓶』  記事によると、転校生こと床

          第二夜【鬼の子】scene12