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【日記体小説】夢中散歩:9月25日

一昨日の夜とは打って変わって、昨夜は温かい場所にいた。ただ、季節外れという点は、共通している。昨夜わたしがいたのは、黄色い花が咲き乱れる花畑だった。
黄色い花というと、真っ先にひまわりが思い浮かぶけど、断じてそれはひまわりではない。もっと小さな花。ああ、そう、菜の花だ。花については、別段詳しいというわけでもないけれど、9月の花じゃないことくらいはわかる。だってわたしは昔、現実でこの花畑に訪れたことがあるはずだ。それも、春の頃に。

菜の花畑の中心で、ふとわたしは目を閉じ、遥か昔の記憶を手繰り寄せる。そして、ある記憶に行きつき、目を開ける。

「ばあちゃん!」

わたしは小学生の頃に、祖母とこの菜の花畑を訪れたことがある。目を開けるとそこには、ばあちゃんが立っていた。そして気付くとわたしの身体は、小学生に戻っていた。某アニメの名探偵かよ、と、心の中でツッコミを入れたことまで覚えている。

ばあちゃんはニコニコしながら、むこうでおにぎりを食べよう、と言った。声は聞こえなかったけど、たしかにそう言われたと感じとることができた。わたしはその言葉に大きく頷き、ばあちゃんと手をつないで菜の花畑を駆け抜ける。
この花畑に果てなどあるのかと疑問に思ったが、気付くと抜けていた。そして、名前もわからない木のふもとに、当時流行っていたアニメのキャラクターのレジャーシートを敷いた。

お弁当箱を開けると、ぎっしりと詰められたおにぎり。塩味のついたお米にシャケが入っていて、海苔で巻かれている、シンプルなおにぎり。きれいな三角をしている。どこにでもありふれているおにぎりだけど、うちのばあちゃんのおにぎりだと、一目でわかるから不思議だ。

他にもなにかおかずがあるかと聞いたら、別のお弁当箱をリュックから取り出すばあちゃん。中にはたまごやきと、たこさんウインナーが入っていた。もうわざわざたこさんにする必要はないよ、と笑おうとしたけれど、そっか、今のわたしはまだ小学生だ。

手を合わせて、ふたりでいただきますをする。まずはおにぎりを一口。でも、味はしなかった。たまごやきも、たこさんウインナーもダメだ。夢のこういうところは、嫌になってしまう。

でもばあちゃんが作ってくれたから、美味しい。おぼろげな記憶でも、美味しかったことだけは、明確に覚えているんだから。それになにより、ばあちゃんとこうして一緒にお弁当を食べるのは、とても楽しい。じゃあ、味なんて、しなくても良いか。

何を話したのかは、あまりハッキリとは覚えていない。でも、この前学校で何があっただとか、最近読んだ小説の話だとか、将来の夢だとか。そんな話をたくさんしていた気がする。

「最近、仕事でね、」

そう切り出した瞬間、わたしは大人に戻ってしまった。いや、これが今の本当の姿なのだけど。もう帰らなきゃいけない時間なんだと、悟った。

目が覚めたとき、夢の中では感じなかったおにぎりの味が、なんだか口の中に広がったような気がした。また、ばあちゃんが作ったおにぎりが食べたいな。

来月あたり、スケジュールを調整して、ばあちゃんに会いに行こう。







※これは、”私”が見た夢の記録…という形式の創作小説です。また、夢十夜のオマージュ的な物。

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