癒し

 毎日が闘いだ。すし詰め状態の殺気立った空間に、意を決して足を踏み入れる。あとは身を任せるしかない。都心を抜けるまでの辛抱だ。目の前の中吊り広告には、こんなタイトルがおどっていた。

「毎日一つの贈り物が、誰にでも平等に与えられている」

(僕は今日、何かを受け取ったのだろうか?)

 三路線が乗り入れる大きな駅に到着した。ここで一気に乗客が動く。そして何の苦労もなく、座席を確保できる。この駅で座ると、僕は決まって夢の世界へと旅立った。

 目を開けると、目の前に三歳ぐらいの小さな男の子。僕と目が合い、ニッコリ微笑む。今日の疲れを一気に吹き飛ばしてくれるような笑顔。どうして子どもの笑顔には、無限の癒しパワーが含まれているのだろうか。小さな幸せを味わいながら、僕は再び目を閉じた。

「次は終点……」

 アナウンスが耳に届き、目を覚ます。電車が少しずつ減速を始め、立ち上がってドアに向かう僕。なんだか体が軽い。いつもならばクタクタで、足を一歩前に動かすのですら面倒だ。

(天使だったか)

 僕の顔は自然にほころび、ドアのガラスに映る自分を見て、思わず微笑んだ。今日僕がもらったのは、可愛い天使からの「心と体の癒し」という贈り物だったのだろう。

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