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さよなら大好きな人

 この人を知れてよかった、といった経験はあるだろうか。僕にとって、サッカー選手の中村俊輔はそんな存在だった。

 幼稚園の年長からサッカーを初めて2年が経った頃、東京スタジアム(現在の味の素スタジアム)に東京ヴェルディ対横浜F・マリノスの試合を観に行った
 その試合で、一際目立っていたのが中村俊輔だった。
 結果は覚えていないが、小学生なりに、この人うまい!ととても感動したことは覚えている。同じ左利きということもあり、それからは色々と真似をするようになった。
 ボールの蹴り方、走り方、切り返しやキックフェイントなどのプレースタイル。背番号も同じ10番を着けた。スパイクも真似た。横浜F・マリノスのユニフォームはもちろん、日本代表や移籍したチームのユニフォームも集めた。
 ボールを持ったときやフリーキック、コーナーキックのときのワクワク感が堪らない。
 中村俊輔を好きになってから、横浜F・マリノスの試合をたくさん観に行った。高校卒業と同時にサッカーを辞めた後、大学生になった僕はまた中村俊輔を観にスタジアムに足を運ぶようになった。
 僕は、ずっと中村俊輔の虜だった。

 そんな中村俊輔の引退試合が、先日開催された。
 召集されたメンバーは往年のレジェンド選手たち。ピックアップしきれないくらい、豪華な面々だった。
 チケットは人気すぎて取ることができなかったため、ライブ配信で観戦をした。
 その試合の主役は中村俊輔なので、彼にボールがたくさん集まる。現役を引退して1年経つが、足元の技術やキックの精度は健在だった。
 結果、フリーキックで3点、その他でも3点の計6点を決める活躍だった。
 試合中は、初めて試合を観に行ったときのように、うまい!と1人で興奮していた。あっという間の90分だった。
 試合後、引退セレモニーが開かれた。
 セレモニー中に所々で『J’S THEME』が流れた。この曲は、サッカーの試合を観に行ったとき、試合後、しばらくスタジアムに居ると流れる曲だ。マリノスが試合に勝った日も、負けた日も、その日の中村俊輔のプレーを思い返しながら余韻に浸った。僕にはそんな思い出がある。
 その曲と、中村俊輔がマイクの前でそれまでのサッカー人生の思い出を話している姿をみて、それまでの僕のサッカー人生の思い出も一気によみがえり、僕は泣いていた。

 僕が年長から高校卒業までサッカーを続けることができたのも、その後もサッカーを好きでいれたのも、中村俊輔がいたから。
 もっとサッカーが上手になりたい、プロになりたい、そんな夢を抱かせてくれたのも中村俊輔だ。
 夢は叶わなかったけど、その夢を与えてくれた。そこに向かってがんばることを教えてくれた。
 僕は、中村俊輔を知ることができて、ほんとうによかった。

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