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『グッバイ・クルエル・ワールド』行き場を失ったクズたちが世界の果てへ

(C)2022「グッバイ・クルエル・ワールド」製作委員会

兄の大森立嗣監督が弟の大森南朋と一緒に男たちの狂騒を描いて見せた。麿赤児の息子たちである。社会の枠組みから弾き出されたモノたち。高田亮のオリジナル脚本がアウトローたちをロマンチックな世界の果てまで連れて行く。大森立嗣監督は、初期の『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』が良かったな。それから『さよなら渓谷』も好きな作品。度々良作を送り出してくれる監督だ。

さてこのヤクザなモノたちのエンタメワールド、タランティーノ風なラブホテルでの派手な金の強奪事件から始まる。覆面姿で互いに素性を知らない一夜限り結成された強盗団。ヤクザ組織の資金洗浄現場を“たたく”のだ。結果は大成功・・・。大金を手に入れてまた元の生活にバラバラに戻っていくはずだった・・・。しかし相手はヤクザ。そう簡単に済むわけがない。強盗団の仲間割れが始まり、次第にメンバーは次々と殺されていく。

強盗団の一味に元ヤクザで堅気の生活を送っているはずの西島秀俊、妻の片岡礼子とともに旅館の仕事をしている。それから三浦友和がいい味を出している。元政治家秘書であり、左翼崩れ、学生運動あがりの変なオヤジ。西島秀俊とはヤクザの師弟関係だったようだ。社会への呪詛の言葉がやたらと多い。それから全身刺青のチンピラ斎藤工のヤサグレ感もいい。すぐ殺されちゃう宮川大輔。そしてこのネタの情報を提供した女、デリヘル嬢の玉城ティナとラブホテルの従業員だった宮沢氷魚。この赤い髪と青い髪の若い二人が最後まで物語の軸になっていく。一方、ヤクザ側の親分に鶴見辰吾、奥田瑛二もチョイ役で出てくる。ヤクザと繋がっている現役刑事に大森南朋だ。

この刑事の大森南朋が、情報を流した若者たち、玉城ティナと宮沢氷魚を探し出し、次々と強盗団の仲間たちを見つけ、若い彼らにマシンガンで襲わせる。圧倒的な暴力。社会から居場所を失い、死も恐れぬ狂気を演じた若い二人。そして大森南朋と西島秀俊は社会と辻褄を合わせようとしてもうまくいかないはみだしモノたち、そして三浦友和はさらに上の世代の社会への反撥者といったところだろうか。

R&Bの音楽が効果的に使われ、宮川大輔が殺された場面や、玉城ティナと宮沢氷魚と大森南朋がスナックで踊る場面もいい。市民生活に溶け込んだように見えた西島秀俊のところに、元ヤクザの舎弟、奥野瑛太が「元ヤクザだってバラすぞ」とやって来て世間の知られるところとなり、近所の住民たちから排除される。西島秀俊が傷だらけになって家族の元に帰るも、妻と子供に無視されてしまう場面などせつない。居場所を失った西島秀俊は、海が見えるバス停で大森南朋と二人になる。まさに行き場を失った世界の果てである。そこに高田亮脚本にロマンティックなアウトローへの悲哀のような視点を感じた。カメラが海へとパンアップして銃声が空にこだまする。

2022年製作/127分/R15+/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ

監督:大森立嗣
脚本:高田亮
企画:甲斐真樹
プロデューサー:甲斐真樹 大畑利久 永田芳弘 高口聖世巨
撮影:辻智彦
照明:大久保礼司
録音:高田伸也
美術:堀明元紀
編集:早野亮
音楽プロデューサー:田井モトヨシ
オープニング曲:ボビー・ウーマック
劇中曲マージー・ジョセフ
エンディング曲:ボビー・ウーマック
キャスト:西島秀俊、斎藤工、宮沢氷魚、玉城ティナ、宮川大輔、大森南朋、三浦友和、奥野瑛太、片岡礼子、螢雪次朗、モロ師岡、前田旺志郎、若林時英、青木柚、奥田瑛二、鶴見辰吾

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