映画「愛されちゃって、マフィア」ジョナサン・デミ監督のスクリューボール・コメディ

B級映画の帝王と呼ばれるロジャー・コーマンは、自伝「私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか」(90)にあるように、低予算・早撮りで大量の作品を世に送り出し、かつ利益を生み出したと言われている。監督をしなくなってからもプロデューサーとして400本の映画製作に携わった。 配給会社「ニュー・ワールド・ピクチャーズ」を設立し、イングマール・ベルイマンや黒澤明、フェデリコ・フェリーニの作品を米国で公開した。コーマンの現場“コーマン学校”からは、フランシス・フォード・コッポラ、ジョナサン・デミ、ジェームズ・キャメロン、マーティン・スコセッシ、ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソンといった大物が輩出された。(映画.comより)

そんな「ロジャー・コーマン学校」から育った一人、ジョナサン・デミが代表作『羊たちの沈黙』(1991年)の前に撮ったのが1988年製作のこのロマンチック・コメディだ。

なかなかテンポがあって目まぐるしい展開が楽しめる。満員列車の中での殺人、子供のトランプ賭博に怒る母親アンジェラ(ミシェル・ファイファー)とそれをなだめるヤクザな夫 (アレック・ボールドウィン)。アンジェラがこの生活に不満を抱いていることをまず描き、その夫が親分の女に手を出したことによって、女と一緒に親分に始末されるホテルの浴室でのドタバタがあり、映画は殺された男の妻であるアンジェラの恋物語へと展開していく。

未亡人となったアンジェラを口説こうとマフィアの親分トニー( ディーン・ストックウェル )は、無理やりアンジェラにキスして迫る。この世界から抜け出そうと、盗品だらけの家財道具を施設に寄付し、貧しいアパートに子供とともに身を隠すアンジェラ。その一連のマフィアの動きを監視しているFBI捜査官のマイク(マシュー・モディーン)たちは、アンジェラとトニーがデキていると勘違いして、トニーを捕まえるためにアンジェラを監視することにする。ところがマイクがアンジェラと恋仲になることによって、こんがらがっていくコメディだ。

ミシェル・ファイファーの強い眼差しが、人生を変えようとしてもがく女の葛藤をうまく表現している。仕事を探して見つからず、エロオヤジ店主から着替えを覗かれ、制服を着たまま逃げ出し、FBI捜査官のマイクとエレベーターの中で出会って恋に落ちる。デートで浮き立つのも束の間、親分トニーの鬼嫁( マーセデス・ルールがまた濃いキャラを演じている)が部屋に乗り込んできて、簡単に元の世界から抜け出せない現実を知って落ち込む。気分が上がったり下がったり、髪を切って変わろうとしたり、目まぐるしい変化を楽しんで演じている。囮としてヒョウ柄の派手な服を着てトニーの元へと潜入し、変装する恋人マシュー・モディーンの正体が暴かれたときの表情など、ミシェル・ファイファーの魅力を存分に楽しむ映画になっている。


1988年製作/103分/アメリカ
原題:Married to the Mob
監督:ジョナサン・デミ
製作:ケネス・ウット、エドワード・サクソン
キャスト:ミシェル・ファイファー、マシュー・モディーン、ディーン・ストックウェル、 アレック・ボールドウィン、 マーセデス・ルール、オリバー・プラット、ジョーン・キューザック、 ナンシー・トラビス、チャールズ・ネイピア

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