映画『アネット』レオス・カラックスのロックオペラの愛の闇は深い

レオス・カラックスのダーク・ファンタジー、ロック・オペラ・ミュージカル。何とも形容しがたいスケールの映画だ。寡作ながら毎回強烈な印象を残す映画監督、野獣的鬼才レオス・カラックスのとてつもない愛と闇の世界へと観客は導かれる。オープニングは幸福感に満ちている。ロック・オペラというショーが始まる期待感。ロン&ラッセル・メイル兄弟によるポップバンド「スパークス」の原案・音楽。スタジオの録音場面からアダム・ドライバーやマリオン・コティヤールが加わり、出演者たちの歌が始まる。それを正面から受けての長回し撮影で、ロサンゼルスの街へと繰り出すワクワク感。スタジオから街へ、映画は快調にスタートする。ショーの始まりだ。

スタンダップ・コメディアンのヘンリー(アダム・ドライバー)は人気絶頂、劇場を皮肉な笑いで包む。そして、国際的に有名なオペラ歌手のアン(マリオン・コティヤール)と恋に落ちる。セレブな人気者カップルの誕生と芸能ニュースはもてはやす。そんな愛を歌い上げる幸福の絶頂から物語は始まり、ヘンリーは「誰も愛せないし、誰からも愛されない」孤独な地獄の底へと堕ちていくまでの物語。

嵐の場面のスタジオでの合成。人工的な海とセットの船の上でズブ濡れになりながらワルツを踊る二人。酔ったヘンリーは怯えるアンを海に転落させ、溺れさせてしまう。そして、二人の間に生まれた愛娘アネットの人形の動きの不気味さ。嵐の海と同じような不自然な感じ。歪んでいびつな子供は、空を飛び、唄を歌い、世界を旅しながら見世物になる。男性的暴力の象徴としてヘンリーは存在する。レオス・カラックスお得意のバイクで闇夜を疾走する。セクハラで訴えられ、人気は一気に地に堕ちる。芸能格差カップルとニュースで言われ、ヘンリーのショーは観客の反発を招く。観客たちもミュージカル的に歌い出す場面も面白い。死は水とともに沈み、光は歌を導く。

ラスト、刑務所に入れられたヘンリーの元を訪れたアネットが、人形から女の子へと変わり、ヘンリーと歌うクライマックスは素晴らしい。父と娘の歌による対峙。父は娘を愛することを求めるが、娘は父の愛を拒否する。愛の闇は深い。

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