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クリント・イーストウッド監督デビュー作『恐怖のメロディ』~名曲とともに「声」と「視線」が迫る恐怖~

クリント・イーストウッドのデビュー作のミステリー。女たらしのイケメンのラジオDJが、一夜限りと割り切ってベッドを共にした女性からストーカー的につきまとわれ、恐怖のうちに追い込まれていく心理サスペンス。

カリフォルニアにある海辺の田舎町。空撮で海辺の田舎町が映し出され、断崖に建つ一軒の家の前で崖を見下ろす一人の男が立っている。クリント・イーストウッド演じるデイブは、深夜ラジオの人気DJだ。荒波と崖下の岩場を見下ろすサスペンス的な映像が挿入され、この場所が結局ラストでも使われる事件現場の断崖となる。家の窓越しにイーストウッドの絵が飾られており、どうやら恋人である家主は留守のようだ。恋人ドナ・ミルズは、しばらく彼と距離を持ってどこかへ行って不在であるらしい。深夜のラジオ放送が始まると、女性の声でタイトルにもなっている「Play Misty for Me」(「ミスティ」をかけて)と電話でのリクエストがある。「またいつものMystyの女か」とDJ仲間にからかわれる。「Misty」とはジャズ・ピアニストのエロール・ガーナーの名曲である。

行きつけの店でカウンターに1人の女がいて、デイブは店の主人(ドン・シーゲルが演じている!)とゲームをしながら、女を口説こうとしている。二人に近寄ってきた女は、ラジオでMistyをリクエストしたイブリン(ジェシカ・ウォルター)だった。黄色いワンピースが目立つ。部屋で一夜を共にした翌日に、買い物をして料理を作ると言って家に厚かましくやってくるイブリン。突き放そうとすると、泣き顔になったり、急に明るく振る舞ったり、突然隣の住人に怒鳴ったり、不安定な表情を見せながら次第にその女の本性が明らかになっていく。そして、そのつきまといは次第にエスカレートしていく。

イーストウッドは恋人のドナ・ミルズと仲直りし、海岸、海辺でデートを重ねる。怖いのは、その二人を海辺の林からジェシカ・ウォルターがじっと見つめている目線だ。愛し合っている恋人たちは、滝の下で裸で抱き合う場面などもあり、水辺で愛を確かめ合うのに比べ、ジェシカ・ウォルターは常に電話の声的な存在であり、見つめる視線的な存在なのだ。そしてイーストウッドの前に現れるときは、一方的に愛を求め続け、ヒステリックな狂気をはらんでくる。電話の声と視線で迫ってくる感じで、怖さを演出している。そして突然、そこに「いる」のだ。一気に距離を詰めてそこに現れるのだ。電話の声で謎めいた予告をした後に、恋人のドナ・ミルズの友人として、彼女の家に「いる」ジェシカ・ウォルターの存在が怖い。そして何よりも美しいメロディーの「Misty」が怖さと同時に女の哀しさも感じさせる。


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