エリック・ロメール『冬物語』~「乗り物」と愛の奇跡の映画

「四季の物語」シリーズ第2弾。この作品は、かつて見たような気がするが、記憶違いかもしれない。愛をめぐる似たような物語がロメールには多いからよく分からない。これは愛の「奇跡」の物語。

夏のブルターニュの海辺で出会って恋の落ちた二人。幸福そうな海辺の二人の姿がフラッシュ映像のように積み重ねられ、5年後の冬のパリから物語が始まる。5年前、海辺で恋人同士になったシャルルとフェリシーだったが、別れ際、フェリシー(シャルロット・ヴェリー)は自分の住所のメモを間違えて渡してしまう。シャルル(フレデリック・ヴァン・デン・ドリエッシュ)と会えなくなったまま、5年の月日の間に、彼の子供を産み、フェリシ-は別の男友達ロイック(エルヴェ・フュリク)と暮らしている。クリスマスマ前から年末にかけての2週間ちょっとの物語だ。

娘を母に預かってもらいながら、美容師の仕事をしているフェリシーだが、その美容院のオーナー、マクサンス(ミシェル・ヴォレッティ)とも付き合っており、そのマクサンスが妻と別れ、パリ郊外の街ヌヴェールで彼女と再出発をしたいと言い出す。ロイックに別れを告げ、一度は娘を連れてヌヴェールでマクサンスとの新たな生活を始めるフェリシ-だったが、すぐに気が変わり、再びパリに戻ってくる。

フェリシーという女性は、海辺で出会ったシャルルという男性を忘れられず、愛を理想化した形で自分のなかで育てているため、ロイックともマクサンスともうまくいかない。ロイックは、図書館で働くインテリ青年で、プラトンの魂の不滅論について語ったり、本が友達のような男。一方、ちょっと中年太りのマクサンスは、現実的で経済的な力もあり、優しいロイックよりもパワフルだ。そんな彼となら暮らしていけると思ったフェリシ-だったが、ロワール河沿いの古い町ヌヴェールでの娘の世話と仕事の両立は難しく、マクサンスが従業員に彼女を「マダム」と呼ばせることに違和感を感じ、街の古い大聖堂で、何かを感じ取る。「自分そのもの」と出会ったように感じた彼女は、その直感から彼と別れてパリに戻る決意を固める。フェリシーは恋に恋する夢見る女性であり、直感にしたがって行動する身勝手なところがあり、まわりの男たちは振り回されている。見ていてもちょっとイラッとする。

『春のソナタ』が、部屋ばかりが描かれているのに比べ、この『冬物語』は、地下鉄や車の移動、列車やバスなど乗り物が頻繁出ててくる。また、ブルターニュ、パリの街、ヌヴェールという地方都市の路地や階段など、街の様々な風景が映し出される。特にパリの町並みがずいぶんと描かれており、リアルな生活感に溢れている。いつシャルルが現れるのかと観客は気になって、街行く人や乗り物の乗客に目が行く。乗り物シーンの積み重ねは、最後に大晦日の「奇跡」が、バスの中で用意されていたからだった。フェリシーの席の向かいに偶然座るシャルルとの再会。娘は父親と会うことが出来て、フェリシーはシャルルとの新生活が暗示され、ハッピーエンドで映画は終わる。

奇跡、運命、宗教、暗示、気づき、魂や前世の話まで出てくるちょっと特別な瞬間や出会いを強調した映画になっている。シェイクスピアの『冬物語』の演劇を観て、フェリシーは感激して涙するシーンがある。死んだと思っていた妃の彫像が動き出し、生き返るように見える場面だ。まさに奇跡の瞬間。フェリシーは直感的に自らにも奇跡が起きると信じるようになる。

そんな奇跡が起きる場として、海辺や乗り物や大聖堂が使われている。ロメールにとって、バカンスの夏の海は、恋する特権的場所であるし、バスや電車などの乗り物も「奇跡の出会い」が繰り返される場所である。そんな奇跡の愛の寓話という感じのおめでたい映画だ。

しかし、ラストのバスでの再会の時、フェリシーがシャルルの隣の女性を恋人か奥さんと勘違いしたまま、シャルルがフェリシーを追いかけてバスを降りなかったら、彼女の人生は全く違ったものになる。そんな可能性だってあるのが人生であり、偶然が作用しているのも確かなことでもある。

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