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春の毒味祭り

今の職場は差し入れとして食べ物をいただくことが結構あり、それを配給するのも私のお仕事のひとつだったのだが、ようやく部下が入ってきてくれたのでその役目も終わりを告げた

この時期は人事異動もあるおかげで多種多様なものをいただく
その中でも特に配るのに気を遣うのが「生菓子」である
それらを配る時けっこう困ったので、部下も当然のように困っていた

そう、奴は突然やってきた
「おやき」である

「これはどうしたら良いでしょうか…」
両腕におやき達を抱えながら、部下は呟く
抱えられたおやきは見るからにうまれたてほやほやで、身を寄せ合っているようにも見えて、なんだか愛おしかった
そしてこれはスピード勝負だな。と思った
やはりこういうのは温かいうちに各位に届けてこそなので、「とりあえず食べる人にだけ配って、余ったら私達で分けましょう」と提案

「わかりました!ところでおやきってなんですか?」
「え?」

今聞く?と思ったが、たしかに「おやき」って方言かもしれない
おやき=今川焼きのことである
見た目は丸く、茶色で、中にあんこが入っていることが多いたい焼きの親戚、といった感じのアレである
それをその場では説明できず、というか道民でおやきが通じない人もいるんだという方に意識が向いてなにも返せなかった
見た目が丸いだけでほぼたい焼き。と返せたら100点だったね

こちらが「えーと…」とか言っていると部下が「あんこ入ってるやつですか?」と急におやきを理解したので、おやきって何?問題は即解決した

お互いが「おやき」を十分理解したところで、再びおやきを覗きこむ
おやき達はご丁寧に2袋に分けられていたので、「これは味が違うためなのか、なんなのか」という議題になった
一般的に、味違いのおやきを購入した場合、お店の方で袋を分けて「あんこ」とか「クリーム」とか書いてくれるのだが、うまれたてのおやき達には性別がなかったのか、2袋ともまっさらな未記入状態だった
中身がわからないと配りづらいよな。と思い、私は「1個食べてみます」と1袋目からおやきを1つ取り出してその場で一口
中身はあんこだった
おやきの中身はあんこが基本なので、未記入=あんこなのだと理解

しかし、しかしだ
万が一、2袋目がクリームとかで、クリーム食べられないとかクリームがよかったとか言われたらどうする?
私だったらヘラヘラするだけであるが、新入社員の部下はそうもいかないよね。多分。と思いながら2袋目のおやきも念のため、一口

中身はあんこだった

おやきの中身は、あんこが基本なのだ
揺るがないのだ
俺たちを疑うな
と、おやき達に言われた気がした

おやきの声を聞きながら「両方あんこですね」と言うと、「毒味みたいなことさせちゃってすみません」と部下

毒味してる自覚、まるでなし
「毒味」と言われると「大層良いことをした」みたいに思えてちょっと面白い
おやきを急に2つも食べた(しかも1口ずつ)自分のこともなんか面白くなってきちゃったし

こうして部下は毒味要員の私に感謝しながら、おやきの配給へと向かっていった
部下が去った後、私の机の上には一口かじられたおやきが2つ、鎮座した

おやき達の前では言えなかったけど、どちらかの中身がクリームとかだったらもっと最高だったな
なんなら2つ目を毒味したとき、ちょっとだけクリームを期待してクリームの口になりながら頬張ったし

2つとも、冷めないうちにいただきました

以上が、初めて毒味をした日の思い出です

おわり

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