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パクチーの水面に

平日、直帰の日。気になっていた蘭州牛肉麺の店へ。
店に入ると片言のお姉さんが注文を聞いてくれる。なんのBGMもなくて街の音が流れ込んでくる店内は、絶妙に無愛想なインテリア。客はぽつぽつと四人がけのテーブルに一人ずつ。すぐ運ばれてきた麺のどんぶりをのぞくと、温かい湯気に乗ってパクチーと牛肉、八角のにおい。そうそう、これこれ、期待通り。

湯気に包まれながらずるずると麺をすする。水を飲んでぼーっとする。店員たちは楽しそうに雑談してるけど、中国語だから内容は分からない。

どこか中国の街に旅行に来ているような気分になる。
初めて来る場所なのに、安心感があるのだ。たぶん、私にとって文字通り「アウェイ」だから、だから仮に自分が浮いていても気にならない。だってよそ者だから。まわりの客もみんな、リトル・チャイナに立寄っただけのよそ者だから、だれも私を咎めない。
スープを見つめて、しばらく行けていない旅行について考える。

旅に出れば、どこに行ってもよそ者になれる。
たのしさを最優先にして街をうろうろできるのは旅人の特権であるように思う。
ついでに言えば、目の前の景色を味わわなきゃいけないし、電車の時間を調べなきゃいけないし、生活の悩みとか世の中のごたごたを考えなくていい大義名分にできる。

旅ってとっても好都合。だけどまあ、許してほしいな。そろそろまた、分かりやすい非日常に行きたいな。

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