80歳のセンパイと暮らす。(17)

今朝のセンパイは大きな溜息から。
「あんなに頑固だと思わなかったわ」

センパイの息子から、1か月ほど前、大きな病いの告白があった。
「親不孝してごめんね」
センパイは「まだ若いのだから、しっかり治療して頑張りなさい」と声をかけた。
側で見ていて、気丈さに驚いた。
私の方が先に泣いてしまって、それにつられるまで、涙することはなかった。
一大事に、淡々としている感じ、
確かにこれまでもあった気がする。
本人の心の中はどうなのか、この時にわからない。

この1か月、センパイは色々と気にかけていた。
本を読んだり、新聞の記事を切り抜いたり、病いと闘うためにどんな栄養が必要か、センパイなりに息子をサポートしたかったのだ。
センパイは昔から栄養食品に熱心だ。
熱心過ぎて、家族は引いているところもあったが、80歳を過ぎても元気なのは間違いなくそのおかげだと思う。

で、息子に栄養食品を渡したところ、
「俺はそれはできない」と拒否されたらしく、怒りを通り越して呆れていた。
「この期に及んで、まだそんなこと言うなんて」

昔からそうなのだが、センパイの愛情はわかりにくい。
必ず一捻りある。
本人が自覚しているかどうかわからないが、一番プリミティブな愛情を求めてしまう親子関係において、特にそうだと思う。
50を過ぎ、病いで更に頑なになった息子
にはなかなか届かない。
私だって、たまに気づかないことがある。
そして、自分にもそんなわかりにくさがあることにも気づかされる。
やっぱり、センパイの娘なのだな、と。

今朝は「もう知らん」と言っていたが、
きっとセンパイは諦めない。
これまで、娘では到底及ばない、
母と息子の絆の強さを見てきたから。
そして、センパイは親不孝を断じて許さない。
原爆で息子を亡くした母を見て育ったセンパイは、子供が親より先に逝く惨さが身に染みており、私たちにそれだけは許さないとずって言ってきた。
わかりにくいセンパイをしっかりサポートして、
息子と娘は親不孝しないことを誓うよ、センパイ。

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