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人の為に謝るということ、仕事への向き合い方を考え直した日       【元ホテルマンの記憶】

仕事で自分がなにかで失敗して誰かに迷惑をかけたなら当然あやまらまいといけないと思いますよね。仕事は1人でしているんじゃないと言いながら、失敗すれば失敗した人が謝るのがふつうです。

他の人が失敗したりすれば、間接的にしか関わっていない仕事の場合なら、失敗したのは自分じゃないなら関係がないと思う。でも、ときには立場や仕事への向き合い方からどうしても自分も謝らねばならないときがある。そんなことを教えてもらったお話です。

私がホテルで宴会セールスをしていた頃の話です。スーツを着てアタッシュケースを持ち、いろいろな企業をまわって、宴会場の利用をしてもらう仕事です。

定例の企画があり、ホテルの宴会場を継続利用けいぞくりようして頂ける会社もあれば、急に必要になって声をかけてくださる企業もあるので日頃からセールスしてまわります。顧客こきゃく回り有り、飛び込み営業有りです。

受注すれば、宴会の手配担当と連絡をとり、決まった内容に合わせて必要なものを期日までに用意します。会議なのか食事なのか、会場レイアウトや料理や飲み物、看板等、進行やリクエストに合わせて用意します。

手配担当は、宴会セールス達が取ってきた企業案件をいくつも掛け持ちして担当しています。一度の打ち合わせで決まらないことも、継続して手配していきます。

ある日、外回りから帰ると直属の上司から、「こんどの◯◯会社さんの宴会、食事の数を急に減らしたと調理長が怒っているぞ。すぐ行って謝ってきなさい。」

私は受注した宴席の日まで数日しかないのに料理の人数を確定するのを忘れていました。約100人分の料理から30人分のキャンセルを受けてしまい。調理長を怒らせてしまったのです。

宴会の営業を1年ぐらい担当した頃だったと思います、もともと在籍していた宿泊部から異動して来て正直なじめないし、なっとくしていませんでした。そのため中途半端ちゅうとはんぱな気持ちだったと思います。

前任者から引継いだお客様の情報をそのまま真似まねするような仕事をしていました。指摘されてみれば宴席の食事の数を適切な時期に確定するために、お客様に決定をうながすのは私の役目やくめです。

正直、仕事をわかっていなかったはずかしさと調理長に呼び出されている現実にパニックになりました。少し震える手で上着を着てお客様の資料を手に取り、「なんて言おう、なんて言おう・・・・」。

その時、同じ部屋で手配担当していた先輩が私に手招てまねきしました。席に向かうと、「お前が料理の数を確定していないことを注意してなかった俺の責任もあるからさ、俺もいっしょに行くよ。」

二人で事務所を出ました。体格の良い先輩は長い脚でスタスタと歩く、その後を小走りについていく私。カルガモのヒナのように・・・。 追いすがるようについていきました。

調理事務所に入ると先輩が調理長に近づき、ご宴席の料理の件と前置きし、
「申し訳ありません。彼はまだよくわかっていなくて、本当は私が注意して置かなければならなかったのに・・・。」事情を説明しつつ頭を下げてくれました。

私は横で「申し訳ありません。」を連呼れんこするのが精一杯でした。
料理長はしかたないなという感じでしたが、怒りの理由を説明されました。

・定例で頂いている宴席の料理は前年のメニューを少し変えながら、先方の  予算も考えて作っている。全体の数量が大きく変われば質も変えなければならない場合もある。
・宴席メニューはアレンジが多いので通常仕入れない食材もある。極端きょくたんに数が減るとロスした食材を他のレストランで消費するのは難しい。
・なによりロスを出したら営業も調理、サービススタッフも何のために頑張っているかわからないだろう。

当時ホテルに就職して10年は経っていましたが、本当に自分のあまさを痛感したできごとでした。同時に、自分の直属の上司がお前が悪いと突き放した私を、いっしょに謝ってくれた先輩がとてもありがたかったのです。

私が同じ状況なら、後輩の為にいっしょに謝ったりできただろうか?誰があやまっても同じ、やることを忘れた本人があやまるのがあたりまえ。
そんな理屈を考えて放置したかもしれません。

仕事に責任を持つこと、あやまるということはこういうことだぞと、背中で教えていただいました。

料理長のことも先輩はよくわかっていたのでしょう。私がただひたすらあやっまったとしても、萎縮いしゅくしてしまった私は、料理長の考えを聞かせていただくことはできなかったかもしれないし、話を理解する余裕よゆうもなかったでしょう。

とにかく、前の部署から来てなじめずに翻弄ほんろうされ、流されているような私をなんとかしてやろうと思ったのかもしれません。

今でも、あのときの先輩の謝る姿を見て「カッコイイ、とはこういうことさ」と不謹慎ふきんしんながら思っています。

最後までお読み頂きありがとうございました。








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