早起きの娘と寝ぼけまなこな母の攻防
娘の朝は早い(情熱大陸風に)。
なぜなら、子どもだからだ。というか、そういうタイプの子どもだからだ。産まれて数週間もしないうちから、明け方の4時とか5時に泣いて起きるのが習慣化したもんね。
三つ子の魂百まで、かどうかは知らないけれど、5歳のいま目覚まし代わりにお母さんを起こしてくれます。
*
ニュージーランドは冬にむかっている真っ最中なので、朝はけっこう冷える。
自由奔放な寝相の娘は、だいたい布団を蹴っ飛ばしていて、早朝5時すぎると「さむい…」といって私の布団にもぐりこんでくる。
ゴロゴロ転がって、定位置に収まる娘。あごの下に、やわらかな髪の毛がふれてくすぐったい。空気に触れていた手足は冷たいけれど、幼児はいつでもあたたかい。ちいさな柔らかいかたまりに、猫みたいだな、なんて思う。
ぴったりとくっついて眠る母と娘。
このまま7時ぐらいまで二度寝できれば天国なんだけれど。
充電満タン、パワーがありあまる5歳児はそうはいかない。
ここから、昨晩12時にベッドに入りまだ寝ていたい母と、遊びだしたい早起きな娘の小さな攻防がはじまる。
*
私の目は閉じているが、娘の気配は感じ取れる。意識は池の底にあるようで、眠っているが上の明るいほうの景色が見える。そんな感じだ。
鼻になにかあたる。娘の小さい手だ。
「おかあさん、おきてー」
静かな、ちょっと高い声でささやきかけてくる。
娘の手が、私の鼻をくすぐる。どうにかして、母の目を開ける作戦だ。
意識はまだ池の底にあるまま、自分の手を動かす。指があたった先を、こしょこしょくすぐる。
「きゃははっ」
娘が笑った。これは楽しいぞ。彼女はそう思ったに違いない。
私の耳や、頬、あごの下を小さな手でくすぐりはじめる。私も負けじと娘の頭やわき腹をくすぐる。念のためにいっておくと、私の目はまだぴったりと閉じている。
娘があんまりも静かに笑うし、くすぐっているつもりの小さな手もこそばゆいだけでかわいいし、うっかり意識が池の底に深く潜りそうになる。
「くすぐってよー」
動きの止まった私にご不満の娘が、ちいさな声で催促する。
いけない。寝ていた。いや、寝ていたいんだ。だって、まだ朝の6時前じゃないか…
*
「ぎゅーってしてー」
くすぐりごっこに飽きた娘が、寝ている私の上にのっかってきた。
小柄で年齢の割には軽いほうとはいえ、16キロはずしりとくる。でも、あたたかい。
「両手でぎゅーとしてー」
リクエスト通り、両手で娘の体をぎゅっと抱きしめてあげる。娘はなんだか喜んでいる気がする。私の目はまだ閉じたままだけど。
あたたかい娘を抱えて、うつらうつら。16キロの重みさえも、心地のよいものに思えてくる。娘が静かになった。これは二度寝コースではないのか。よし、天国のような朝の眠りにふたりでいざいかん……
そのとき、耳元でふたたび響く小さな声。
「ねえ、おかあさん。もうおきよ?」
元気いっぱいの5歳児に、二度寝なんぞ必要ないらしい。
はい、そうですね。きょうは母の負けです。
のそのそ起きて歩く私の横を、廊下を走る娘が通り抜けていく。なんで子どもって、朝からダッシュできるんだろう。
私の目がしょぼしょぼするのは、寝不足かそれとも活力にあふれる娘の姿がまぶしすぎるからか。こんな希望の塊に、勝てるはずがないのです。
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