見出し画像

早起きの娘と寝ぼけまなこな母の攻防

娘の朝は早い(情熱大陸風に)。

なぜなら、子どもだからだ。というか、そういうタイプの子どもだからだ。産まれて数週間もしないうちから、明け方の4時とか5時に泣いて起きるのが習慣化したもんね。

三つ子の魂百まで、かどうかは知らないけれど、5歳のいま目覚まし代わりにお母さんを起こしてくれます。

ニュージーランドは冬にむかっている真っ最中なので、朝はけっこう冷える。

自由奔放な寝相の娘は、だいたい布団を蹴っ飛ばしていて、早朝5時すぎると「さむい…」といって私の布団にもぐりこんでくる。

ゴロゴロ転がって、定位置に収まる娘。あごの下に、やわらかな髪の毛がふれてくすぐったい。空気に触れていた手足は冷たいけれど、幼児はいつでもあたたかい。ちいさな柔らかいかたまりに、猫みたいだな、なんて思う。

ぴったりとくっついて眠る母と娘。

このまま7時ぐらいまで二度寝できれば天国なんだけれど。

充電満タン、パワーがありあまる5歳児はそうはいかない。

ここから、昨晩12時にベッドに入りまだ寝ていたい母と、遊びだしたい早起きな娘の小さな攻防がはじまる。

私の目は閉じているが、娘の気配は感じ取れる。意識は池の底にあるようで、眠っているが上の明るいほうの景色が見える。そんな感じだ。

鼻になにかあたる。娘の小さい手だ。

「おかあさん、おきてー」

静かな、ちょっと高い声でささやきかけてくる。

娘の手が、私の鼻をくすぐる。どうにかして、母の目を開ける作戦だ。

意識はまだ池の底にあるまま、自分の手を動かす。指があたった先を、こしょこしょくすぐる。

「きゃははっ」

娘が笑った。これは楽しいぞ。彼女はそう思ったに違いない。

私の耳や、頬、あごの下を小さな手でくすぐりはじめる。私も負けじと娘の頭やわき腹をくすぐる。念のためにいっておくと、私の目はまだぴったりと閉じている。

娘があんまりも静かに笑うし、くすぐっているつもりの小さな手もこそばゆいだけでかわいいし、うっかり意識が池の底に深く潜りそうになる。

「くすぐってよー」

動きの止まった私にご不満の娘が、ちいさな声で催促する。

いけない。寝ていた。いや、寝ていたいんだ。だって、まだ朝の6時前じゃないか…

「ぎゅーってしてー」

くすぐりごっこに飽きた娘が、寝ている私の上にのっかってきた。

小柄で年齢の割には軽いほうとはいえ、16キロはずしりとくる。でも、あたたかい。

「両手でぎゅーとしてー」

リクエスト通り、両手で娘の体をぎゅっと抱きしめてあげる。娘はなんだか喜んでいる気がする。私の目はまだ閉じたままだけど。

あたたかい娘を抱えて、うつらうつら。16キロの重みさえも、心地のよいものに思えてくる。娘が静かになった。これは二度寝コースではないのか。よし、天国のような朝の眠りにふたりでいざいかん……

そのとき、耳元でふたたび響く小さな声。

「ねえ、おかあさん。もうおきよ?」

元気いっぱいの5歳児に、二度寝なんぞ必要ないらしい。

はい、そうですね。きょうは母の負けです。

のそのそ起きて歩く私の横を、廊下を走る娘が通り抜けていく。なんで子どもって、朝からダッシュできるんだろう。

私の目がしょぼしょぼするのは、寝不足かそれとも活力にあふれる娘の姿がまぶしすぎるからか。こんな希望の塊に、勝てるはずがないのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?