「あら、あなたどちらにお住まいなの？」

T大御所先生との初めての会話は
こんな風に始まりました

東京から関西へ越してきて
一番最初にしたことはいけばな教室転校の手続き

教室は当時大阪にあり転校手続きをした際
事務局の方の
「支部はどうするの？
　教室が大阪なんだから大阪にすれば」
とのお誘いに対して
「いえ、住んでるところが兵庫なので
　兵庫支部に入ります」と答えたところ
ひょっこり事務局の奥から現れ
そう声をかけてくださったのが
当時、兵庫支部長をされていたT大御所先生でした

T先生は
「甲子園口なの？
　南っかわ？北っかわ？」と更にお聞きになり

「南っかわならどこら辺？」

とても詳しくご存じで驚くと
「わたしね、甲子園球場のスグそばなの
　甲子園口へは自転車飛ばしてよく行くんよ
　ほらあそこにある和菓子屋さん美味しいで」
と教えてくださいました

不慣れな関西でオタオタしていたわたしを
大きく優しく朗らかに見守ってくださいました

今年を振り返ると訃報も多かったです

T先生もまさかのあっけなさで潔く去っていきました

「教えることをしなさい、教わることが多いから」と
教えることの背を押してくださったおひとりです

教えることがまだまだ不慣れだったころ
言うことを聞いてくれず
好き勝手ばかりするお弟子さんがいました

悩みに悩んだ末、T先生に泣きつきました

「あのねお弟子さんってお金でもあるんや
　カネって思ぉてぎゅっと
　目をつぶらなアカンこともあるんやで」

ビシっと言われました

「いちいち小さいことで悩まない、そのまま流すんや」

教えることを励ましてくださいました

あるときこんなこともありました

支部展会場の下見をしたときのことです

その日は雨が降っていたのですが
ある方が不注意で傘を振り回し
T先生にしぶきが掛かっちゃったんです

それをした方は
ある程度のベテランさん、
T先生の直接のお弟子さんではない

他にも大御所先生もいるし
まだまだ習って日が浅い方も多くいるという状況でした

ここでT先生
「いーけないんだいけないんだ」と
歌い始めました
「せーんせいに言ってやろ」

にこやかにやんわりと
誰も傷つけないよう
誰も気まずくならないよう
とても上手に注意されたのです

やらかしちゃったご本人も
「いやー参った参った、すんまへーん」って
恥をかくことなく謝っていました

いつもいつも思うんです

なんでいけばなだけ
礼儀行儀作法に厳しいって言われるんだろ

会社とかで失礼なことをしても
きちんと注意することなく
影でコソコソ悪口言ってるだけじゃない

「それはどうかしら」って
しかもシッカリ周りの状況も配慮して
注意するいけばなはどうしてウザいの？

先週末、兵庫支部展がありました

T先生が注意のため歌った思い出の会場です

その中にT先生をしのぶコーナーがありました

T先生の作品の写真も
たくさん飾られていました

日本橋高島屋のウインドウを飾った作品もありました

「これは圧巻だったわね～」
見ていると多くの先生方に取り囲まれ
思い出話に花が咲きました

ご家族が提供してくださったのでしょう
写真集も作られていて最後のページには
阪神タイガース日本一のときの
阪神百貨店日本一セールの際
配布された日本一シールが張られていました

「これ支部長が貼ったんでしょ」と聞くと
「そ、先生あげる～って貼ってん」
支部長は楽しそうに答え
そっとそのシールを愛おしそうになでました

野球大好き、阪神タイガース大大好き

「わたしね夏の高校野球のとき
　必ずバックネットにいるオジサンに
　ラガーシャツ差し入れしてん」
（これは野球に詳しい方に聞いてね）

わたしが野球に詳しいと知ると
こんな自慢話をしてくださったり

阪神リーグ優勝までは頑張れたけど
日本一はご覧にならず去って行っちゃった

みんなで
「優勝パレード見たかっただろうね
　いやいや御堂筋も三宮も
　きっと一番の特等席で見たね」って
笑いあいました

明るく愉快で華やかで
「わたし関西のおばちゃんやさかい」って
お喋り大好きで賑やかで、、、

けどやっぱりいけばなの真髄を
しっかり伝えてくださって、、、

こういった先生が
どんどん亡くなってゆくのを
ただただ茫然を見送っています

お酒が大好きで
いつもすてきにオシャレしてて
きれいにしっかりお化粧してて

あんな風になりたいな

目標の先生でした

昨日、ご丁寧な喪中はがきが
T先生のお嬢さまから届きました

それを拝見し
気持ちをもう一度引き締めなければ

そう思った次第です

いけばな　西宮
へなうさ工房：甲子園球場そば
090-8214-8739
8739sshuho(@)gmail.com