帰宅途中に警官に聞き込みされ危ない目にあった話

自宅の外玄関の横に立てられている「防犯パトロール」の旗の「パ」が何者かに切り取られ「防犯トロール」となった為に我が家がトロールの家のようになってしまった。

非常に緊張感のある地域となった。
特に害はないのでそのまま放置していたが、
近隣でも家庭菜園の網などが切られたりと類似した事件が起こっており、近所の者が警察に相談した結果、真面目そうな先輩警官と後輩の若い警官が被害状況を見に訪れた。

警官は親身に耳を傾け、渦中の被害住民の
「何だか怖い……」
という気持ちに真剣な面持ちで寄り添った。

帰宅途中の私がその場を通りかかると、近所の者に呼び止められ、被害の確認のため我が家にも警官達が寄る事となった。
我が家が近づいてくると警官の目に風にはためく「防犯トロール」の旗が映った。
警官の先程までの深刻な表情に亀裂が入った。

願わくば 今から向かう先はこの家でないでくれと思ったに違いない。
しかし、残念ながらこの家である。

後輩らしき警官は先程と同様に親身に耳を傾けようとしたが、肝心の被害住民が
「何だかトロール……」
という気持ちしか持ち合わせていなかった為真剣な面持ちで寄り添う事は難航した。

後輩警官は先輩らしき警官につつかれると
我を取り戻し
「他に被害は?」
と、問いかけてきたので
「我が家がトロールの家と呼ばれるようになりました」
と、答えると暫し沈黙が訪れた。
警官の何かを飲み込むような時間ののち
「…これの他に切られた物はないですか?」
と、先程の質問の真の意を形状を変えた形で再度投げてきたので、私の返答が質問とすれ違っていた事に気がついた。

質問の意図を正しく汲み取ったうえで再度
「やられたのはトロールだけです」
とお答えしたが、もはや我が家では防犯旗がトロールの旗として受け入れていた為に、トロールが何者かによって退治されたようになってしまった。

「パ」という一文字が取られただけで未来ある若い警官が苦しめられている。
その時、丁度向かいの家の子供が帰宅し、家に入る間際に
「お母さん!トロールの家に警察が来てる!」
「え!?やーこさんの家に!?」
と、大声で母親に報告し会話する声が聞こえた。
本当にそう呼ばれている…と、後輩警官は必死に湧き上がる己の感情に涙目で抗っていた。
先輩らしき警官がさりげなくこちらの死角でしっかりしろと励ますように後輩警官の背を叩いた。

後輩警官が人間の言語を失いつつある為、代わりに先輩らしき警官が真顔で事情聴取を進めたが
「いつからトロールでしたか?」
と、旗の認識が大分こちら側に寄っていた為、後輩警官は「もうだめだ……」という声と共に沈んだ。

もはや後輩警官は虫の息であった。
私だけではなく母からも話を聞いた方が良いと思いインターホンを押すと、我が家から母ではなく屈強な男がフライドチキンを片手に現れた。

トロールの家からそれらしき人が出てきてしまった。

実際は家族ぐるみで付き合いのある私の友人であるが、友人は少々の無言の時の後に
「……お肉、あるよ」
と、言い残し、扉を閉めて家の中に消えていった。

先輩警官も後輩と同じ末路を辿った。

【追記】
ちなみにあまり通らぬが家の裏の方にも旗があった事を思い出し、こちらからは見えぬので分からぬが被害にあっているかもしれぬと思い、共に確認しに行ったところ
「防犯パロール」
が風になびいていた。
「パロール……!!」
と、後輩の警官は叫び、その後自分を見失っていた。


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