ナンパを下手に回避しようとしたらより酷い事になってしまった話

早めに待ち合わせ場所に着いた友人から、二人組にナンパをされてるので、早く来れないかと連絡が来た。

現地に着くと友人がナンパの二人組と向き合っていた。
近くで路上ライブが行われているで周りに人はいたが、誰もナンパに気がついていない様であった。
駆け寄る最中、歩道のタイルが浮いていたのか突如私の足裏にピラミッドの罠を踏んだ感触が走った。
私は派手にバランスを崩し、必死に受け身を取ろうとした結果、何故か男達を見つめたまま友人と男達の間に涅槃のポーズでスライディング着地した。
奇しくも演奏の終わりのギターの音が響くタイミングと同時であった為、仏像の登場音のようになってしまった。

二人組どころか友人までも突然の仏の登場に言葉を失っている。

転んだ張本人である私も激しく動揺したが、男たちに悟られてはならぬと顔だけは真顔を保ち平静を装った。
しかし、頭までは装いきれず何故か友人ではなく目の前のナンパの二人組の方に
「待った?」
と、声をかけた。
特に仏は待っていない。
男達に身に覚えのない馴れ馴れしいタイプの仏がお届けされてしまった。

友人が声を震わせ
「……待っていた友人です」
と、男たちに私を紹介をした。
後に判明する事だが、男たちは
「友達も来るなら俺ら二人と人数的に丁度良いじゃん。俺がその友達を説得するから、来たら飲みに行こうよ」
と、友人に申していたらしい。
その待ち侘びていた友人が今まさに目前で涅槃をしているというのに、彼らは何の言葉も発しなかった。
説得とやらは一体どうしたのだろうか。

しかし、仏のご降臨に立ち会えば言葉を失うのも無理はない。
非常にしつこいナンパだったらしいが、仏を前にすればおとなしいものである。

涅槃の効果が早くも表れ始めたのか、私にいつの間にか慈悲の心が芽生え始めていた。
この者たちも迷惑ではあるが悪人という訳ではない。
お帰りは頂くが、先程のタイルにより男達が私のように転倒しないよう願い、その方を指を差しながら
「こうなりたくなかったら、帰り道には気をつけてください」
と、声をかけた。
しかし、よく見ればタイルは玉砕していた。
タイルがあのような状態の為に私の意図とは違う

「あのタイルのようになりたくなければ、注意して帰るんだな」

という別の意が生じてしまった。
仏の皮を被った凶暴なゴリラ説が浮上した。
少なくとも友人はそのように受け取り、今まで耐えていたものが決壊し盛大に奇声を発した。

突如引き笑いをしだす友人と、仏だと思ったらタイルを踏み砕くゴリラであった私を前に男達は何か不気味な者を見たかのような顔をし去っていった。
決して撃退を成功したのではなく、これ以上関わると碌な事がないと悟った顔であった。

私自身も酔えば間違いなく床を踏み抜くであろうゴリラとは酒を交えたくないタイプであるが、大変な誤解である。
しかし、誤解は解かれぬまま男達は消えていき、私の前には引き笑いをする友人しかのこされていなかった。

【追記】
因みに上手く衝撃だけは緩和できたのか、私はほぼノーダメージである。
しかし、周りの目が涅槃のあたりからこちらに集中し、周囲は若干距離を取り様子を窺っており、涅槃をする仏とそこに集まる動物達のようであった。


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