トイレに入ったら不審者が現れ危ない目にあった話


友人がトイレに行きたいというので、私は公園のトイレの前で一人待機していた。

夜で心配なので、電話をするふりでも何でも良いので音を出しておいてくれと言われた。
しかし、私はワカメの役であってもクビを宣告される演技力の持ち主である為、電話のふりは諦め、先程二つ買ったカレーメシを振り音を出す事にした。マラカスの様な音が響き次第に音楽と私が一体となるのを感じた。

友人がトイレから出てくる際、私のバイブスは最高峰を迎えていた。ラーへ祈りを捧げる様に上体を前後に大きくしならせる事によりカレーメシを激しく振っているところから
「イエス!カーニバル!」
と、トイレの方に顔を向け出迎えたが、そこに居たのはスクール水着を纏った見知らぬオヤジであった。
友人かと思ったらスクール水着のオヤジが出てきてしまった。
シャカ……という、カレーメシの音を最後に、私とオヤジに静寂が訪れた。

見知らぬオヤジに随分奇抜な出迎え方をしてしまった。
友人もオヤジに続く様に男子トイレから現れオヤジの背後に位置していたが、その目はオヤジに釘付けであった。
何か言葉を発しようと努力した結果出たのは
「おじさん、鮮度良さそうですね」
であった。
水着と肉厚なオヤジから海が連想されたのか、漁師の眼差しになってしまった。

新鮮なオヤジは不気味なものを見る目でこちらを見ている。
まるで私が変質者かのような扱いである。
私はどうしてもオヤジの態度に納得がいかず
「私の方が変質者度は低いと思います」
とオヤジに物申した。
今となって冷静に振り返ると一体何を張り合っているのだろうか。
友人は地獄のどんぐりの背比べの様であったと後に語った。
オヤジは我々に背を向け走り出した。
恐怖に駆られた様な顔をしていた。

すると、オヤジの手に持っていたコートから何かが落ちた。
拾い上げると、それは財布であった。

オヤジは走った。
必ずかの自分を水産物を見る目で見てくる者を己の視界から除かねばならぬと決意した。
しかし、ふと背後から激しいマラカスの様な音が響き、オヤジは振り返ってしまった。
オヤジの目には両手にカレーメシを持ち走る者とタンクトップのマッチョの者が己を追いかけてくる様が映った。
何か一人増えてると思った事だろう。
因みにタンクトップのマッチョとは先の友人である。
夜の公園をスクール水着のオヤジと、マラカス奏者、そしてバルクの仕上がりし者が系列を組んで走っている。
エレクトリカルパレードとは対極の、掃き溜めから湧いて出たようなパレードとなった。
今まさにこの地域一の不気味なカーニバルが開催されている。
先の「イエス!カーニバル!」が私の中で響いた。

私はオヤジを捕まえる気など毛頭ない。
ただ財布を届けたいだけである。
しかし、何か誤解を与えている事を察し、私はオヤジが財布を落とした事を走りながらも精一杯伝えようと口を開いた。
「金ぇーーーーーーーー!!」
ダイレクトな発言となってしまった。
やはりオヤジの事を漁獲物として見ていると裏付けられかねぬ失言であった。
しかし、私は漁業権を取得していない。
オヤジの密猟が今行われようとしている。

私たちは全力で走るオヤジの尻を前方に見つめながら走った。しかし、走っているうちに、何故オヤジの尻を眺めながら走らねばならぬのかという一つの疑問が過った。
友人も私も体力や視野において限界を迎え、オヤジはそのまま遠くへと消えていった。

財布は交番に届ける事にし、警官に
「スクール水着のオヤジが落としていきました」と伝え渡した。
警官は「え?」と声を漏らした。

【追記】
回避率の高いレアな敵に出会い、経験値と金銭を得た気持ちであった。

※我々はつい追ってしまったが、追いかけた先にスクール水着のオヤジの仲間が待機しているかもしれないので、速やかにその場を去る事を強くお勧めする。

しかし、外のトイレというものは決して安全なものではない。
利用する際は十分に性別関係なく気を付けて頂きたい。
ちなみに以前にもツイートなどしたが、トイレの非常警報が鳴っていた際は、自動で警察などに連絡はいかないので必ず見つけた際は間違いでも良いので警察に通報して頂きたい。


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